ママさん(熟女)の逆襲 1
陽介は大会直前の不甲斐ない練習を終え、いつもの『これからの時間』に付き合っていた。さすがに練習中にいつもと違う雰囲気で、陽介がメンバーに対し苦言を呈していたので、『これからの時間』も当初重い空気が漂っていた。
「生ビールの人ぉ~!」いつものように像アザラシが吠え始まった飲み会。「ママぁ~、いつものやつぅ~!」これまたいつもの猛獣御一行の餌の時間に行われる一連の儀式が程なく進み、多少腹も満たされたのであろうか、ジャイアントパンダがその大きな口を開いた。
「陽ちゃん、あたし達にあんな口聞いていいの?そもそもあたし達は年齢的にも動けないからボールが落ちても仕方ないのよ!その辺のこと理解してくれないと、困るんだよね!」まるでスポーツをナメているとしか思えない発言に、地元姉さん達(猛獣)に囲まれて小さくなっていた陽介も、さすがに物申した。
「では、姉さんたちは勝負にかかわりなく練習をしていて、そもそも動けないのではなく、動こうとしないことを正論付けているのですか?だとすれば、所詮30分位しか全員で練習できないんだから、いっそうこのラーメン屋で集合して口でバレーボールをやった方が、動かないでいいですよ!大会当日もコートの中で、口でバレーボールをやった方が、きっと楽しいですよ!せっかく縁あってお手伝いをさせていただけるかと思いましたが、どうやら僕には、このチームの雰囲気と皆さんのスポーツに対する気持ちの持ち方は、とても馴染めそうにありません。申し訳ありませんが、たった今この場でお手伝い並びに一緒に練習することを辞めさせていただきます!」と言って席を立った。しかし座った。イヤ座らされた。北極グマの物凄い太い腕につかまれ、否応なしに座らされた。陽介はつかまれた自分の左腕のツメ跡もだが、想像もしない力で引っ張られ、勢いよく座らされたときのお尻の痛さが尋常ではなかった。陽介は心の中で思った「この力をバレーに活かせれば、少しはマシだろうに!」と。
「陽ちゃん、すわりなさい」(ちなみに陽介はすでに座らせられているが…。)北極グマがそう言うと、ひとしきり吠え始めた。「私達は少なくとも負けたくて練習や試合をやっている訳ではないの。勝ちたくてもさっき言ったように動けないから仕方ないのよ。だから楽しくプレーしようとしているだけ。それが大会前の練習なら尚更そう思いながら取り組んでるのよ。陽ちゃんの言い分も分からない訳じゃないけど、所詮私達には無理なのよ。だからそれを理解してもう一度一緒にバレーを楽しもうよ!」と顔をおわばらせながら、吠えた。