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 辺境伯と孫と嫁  エイルズベリーside

本編に名前しか出てこなかった

エイルズベリーお祖父様です。

 

「レフィハルト。狡いと思わないか?」

「何がでしょう、エイルズベリー辺境伯」

「それだ、それ」


 至極真面目な表情でエイルズベリーは孫を見る。

 年をとっても背筋の伸びたガッチリした体躯。孫のレフィハルトよりはやや低いが十分平均より高い背には威圧感があると言われる。

 極めつけは、他者を恐がらせる厳つい顔付き。

 これらが辺境伯としての実力、実績と合わさり、イノンド王国での地位や発言力は強い。

 ただ見ているだけでも睨むような威圧感があるらしいが、孫のレフィハルトは変わらず無表情で見返してくる貴重な存在だ。ただし可愛いげがない。


「それ、とは?」

「何故妖精女王の事は「お祖母様」と呼ぶのに、私を「お祖父様」と呼ばない」


 10年前の事件から、生き残ったレフィハルトやフェレイラの存在が黒幕ブロメルに知れないよう、レフィハルトはエイルズベリー辺境伯の遠い親戚であり、ほぼ他人として私に接していた。

 その間、当然親しげに言葉を交わす事や名を呼ぶ事はなかった。だが、ブロメルを捕らえた今はもう良い筈だ。

 しかし、レフィハルトは訝しげに首を捻った。


「・・・元々、妖精女王の夫である師匠を「お祖父様」と呼んでいました。エイルズベリー辺境伯と顔を合わせるのは殆どが王城。マナーとして、父にエイルズベリー辺境伯と呼ぶよう躾られた上、10年間ほぼ他人のフリをしていたので仕方ないかと思います」

「そうだったが、今は私の孫であることを隠してない。ギギナ様の事を弟子入りしてからは師匠と呼んでいるならば、私を「お祖父様」と呼んでも良いだろ?」


 妖精女王の夫ギギナはレフィハルトの祖父であり魔術の師である。

 10年前の事件後、ブロメルを欺く為にレフィハルトは私に会うことなく、ギギナに弟子入りして2年間妖精界に姿を眩ませた。元々私に頼って来ることなど無かったが、これには自分の不甲斐なさに落ち込んだ。フェレイラは私が預かるからなるべく危険を犯したくなかったのだろうが、もっと頼って欲しかった。

 その後、レフィハルトは魔術師として軍に入隊しても秘密裏に国王の庇護下で育ち、私とは関わらず実績を積んだ。

 5年前、西の隣国との戦で活躍し《イノンドの魔神》として周辺諸国に知れ渡った。それらの活躍から軍務大臣にまで登り詰め、ブロメルを確実に逃がさない準備をした。

 その間ですら、中々私と接触しないレフィハルトにやっと堂々と接する事ができるのだ。呼び方ぐらいはいいだろう。


「・・・身内のみの場でならば承知しました、お祖父様」

「取り敢えずは良しとしてやる」

「はい、お祖父様」

「それだけではない」

「・・・何か?」

「陛下が私の代わりに育ての親だったとはいえ、何故私より先にお前の婚約者に会わせた。しかも、布令まで陛下が出したら半年の婚約公示期間などあってないようなものだぞ?誰も反対できないからな」


 事件解決した2日後の早朝。国王の布令が出て初めてレフィハルトの恋人の存在を知ったのだ。レフィハルトの実の祖父なのに!

 更に、今朝早くから国王に自慢されて大変イラついた。大人げない国王の嫌がらせだ。中々に腹が立つ。国王でなければ殴っていたかもしれない。

 実の孫に関わりたくとも関われなかった立場なのが悔やまれる。


「ブロメルの後処理で報告が遅くなりすみません。布令に関しては陛下のお考えに異論ありません。むしろ、被害を減らす為に必要です」

「レフィハルトはモテるからな。お前を射止めた婚約者が他の令嬢達から怨まれ何されるかわからないのでは仕方ないか」


 夜会などでレフィハルトに集り群がる熱狂的な令嬢達を思い出して頷く。あれらに怨まれ上手くあしらえる令嬢はそういない。

 しかし、レフィハルトは首を振って否定した。


「いいえ。俺がモルディーヌに集る虫を嫉妬で殺さないように必要な措置です」

「・・・あの、他人に無関心なお前がか?」


 予想外の言葉に驚いてしまった。

 嫉妬するほど人を愛するという感情が持てたのかと。


「はい。あまり殺りすぎてモルディーヌに逃げられては困ります」


 嘘や冗談など言わないレフィハルトの言葉は全て本気だ。

 レフィハルトが殺ると言ったら、綺麗な顔からは想像できないほど容赦なく相手を始末する。

 前の戦や軍での訓練を知るものなら容易に予想できた。

 しかし、それらの事実である噂を聞いても群がる令嬢の数は減らない。


「お前相手に逃げる令嬢がいるのか?」

「俺の事を嫌いになったらモルディーヌは全力で逃げるでしょうね・・・どちらにしろ、今更逃がす気はありませんが」

「随分と惚れ込んでいるな。これと決めた女性にブレず一筋なのはエイルズベリーの血筋か。私とユリフィスもそうだったからな」


 自分の亡き妻や息子夫婦を思い浮かべる。

 だが、昔から淡々とした声で無表情なレフィハルトが婚約者を溺愛する姿が想像できない。


「人間らしいところが似て何よりです」

「お前の感情がまさかの恋愛でわかりやすく出た事を喜ぶべきか、相手の令嬢を不憫に思うべきか悩むな」

「・・・お祖父様」


 レフィハルトの声の温度が下がった。

 成る程。面白い事になりそうだ。


「いや、会ってみればわかるか。今夜辺りにでも婚約者殿とディナーを一緒にどうだ?」

「わかりました。モルディーヌに都合を聞いてきます」

「ああ」


 モルディーヌ嬢という孫の婚約者に会うのが楽しみになってきた。





「お祖父様。俺の婚約者モルディーヌ・イシュタトンです」

「初めまして、エイルズベリー辺境伯様」


 レフィハルトと共に現れたのは、予想以上に華奢で可愛らしい小動物のような令嬢だった。魔術師とはいえそれなりに体格の良く高身長のレフィハルトと並ぶと体格差がすごいなと見比べてしまう。


「初めまして、モルディーヌ嬢。いやはや、レフィハルトのタイプは君のような女性だったのか」

「いいえ、モルディーヌのような女性ではなく、モルディーヌがタイプです」

「ちょっと、レ、レフィハルト!?」


 余程惚れているのだろう。入って来たときからモルディーヌ嬢の腰をがっちりホールドして離さないレフィハルトに苦笑いするしかない。

 レフィハルトの腕の中で頬を赤らめ慌てるモルディーヌ嬢は大変可愛らしい。そこらの令嬢では太刀打ちできないからレフィハルトも令嬢達による妬み嫉みによる被害をあまり心配していないのかもしれない。初見だけでは度を越した令嬢達に対抗できる社交術があるのかわからないがどうだろう。

 確かにモルディーヌ嬢は男達の庇護欲をそそるタイプだ。しかし、それだけではレフィハルトの軍務大臣や五大魔術公爵という立場、妖精女王に絡む特殊な環境についていけないだろう。中身が伴わなければ、レフィハルトの感情を唯一動かせるモルディーヌ嬢の存在自体がレフィハルトの弱点となり精神を危うくさせるだけだ。

 そんな中身のない令嬢にレフィハルトが惹かれるとは思えないから、先ずはどんな令嬢かを知るところからだ。


「さて、食事をしながら君達の話を聞かせてくれ。私はここ10年のレフィハルトのことすら詳しく知らないからな」


 結論から言えば、モルディーヌ嬢は規格外の令嬢だった。素晴らしい。


 ブロメルの事件に関わったこの1週間でのアクシデントとよんで良いのかわからないが、巻き込まれ、命を狙われ、妖精にも追われと様々な苦難を乗り越えた規格外な令嬢らしい。普通の令嬢なら即死だろう。色々と強すぎる。

 この時点で好きな娘をそんな危険な目に合わせたレフィハルトを不甲斐なく思う。確かに、そのうちモルディーヌ嬢に見限られて逃げられる心配をする気持ちもわからんでもない。

 私はブロメルが予想以上にクズだったのもあり、思わず周囲の人々から恐れられてしまう顰めっ面になってしまった。モルディーヌ嬢に好印象を与え、恐がらせないように気を付けていたのだが。

 しかし、モルディーヌ嬢は全く気にした様子がない。むしろ、顰めっ面のままその様子に驚く私の顔を見て微笑んだ。全てを包み込むような優しい笑みに恐れは微塵もない。これはレフィハルトが惚れるわけだ。


「・・・モルディーヌ嬢は私の顔が恐くないのか?」


 私が問うと、楽しそうに笑って返された。


「何故ですか?・・・あっ、もしかして辺境伯様の威厳に恐がるべきところでしたか?」

「いや、そうではない。大抵の者は私が怒ってなくとも眉を動かすだけで恐れる。年若い令嬢などは青ざめ逃げたり倒れたりと忙しいようだからな」

「それは、何というか。失礼な方ばかりだったのですね」


 モルディーヌ嬢が哀れむでもなく怒ったように眉をひそめた。


「失礼・・・まぁ、そうだな。相手になめられない為には有効だから私自身利用しているが、貴女には効かないようだ。私に笑い返せる人間は限られている」

「そうなんですか?辺境伯様が怒っていないのに?」

「私の顔からは判断できないようだからな」

「レフィハルトとそっくりですね」


 にっこり微笑みながら意外な事を言い出した。

 レフィハルトもモルディーヌ嬢の発言に片眉を上げたのが見えた。見てくれは欠片も似ていないから、私も顰めっ面になってしまった。


「レフィハルトと?」

「はい。レフィハルトも無表情故に感情を他者に伝えられないようです。辺境伯様の威厳あるお顔も同じなんですね。よく見れば解るのに勿体ない」

「・・・解るとは?」

「モルディーヌは俺の目を見て感情が解るようです。お祖父様の厳つい顔も目で判断できるのでは?」


 レフィハルトが若干嫉妬するように私を見てきた。

 ・・・ん?嫉妬?レフィハルトにしては表情に出ている気がする。


「本当か?この、たまに眉を動かすだけで表情筋が死滅した無表情レフィハルトをか?私より解りにくいぞ?」

「え?レフィハルトはお祖父様の前では笑わないの?昔から?」

「は?レフィハルトが笑う?」


 この令嬢は何を言っているんだろうか。

 モルディーヌ嬢は私の言葉に驚いてレフィハルトに確かめている。

 私とモルディーヌ嬢に注目され、レフィハルトはやや首を傾げて淡々と返してきた。


「・・・そもそも、笑顔とやらが作れるようになったのはモルディーヌに出会ったここ数日の事だ」

「そうなの?素敵なのに勿体ない」

「・・・」


 モルディーヌ嬢に甘く微笑まれ、レフィハルトの表情が柔らかくなった。私は呆気に取られ、間抜けな面を晒してしまった。

 成る程。喜んでいるのがわかる。

 幼少の頃、妹のフェレイラには唯一見せていた柔らかい顔だ。それでも笑顔を作ることはなかった。ユリフィスが「レフィハルトが笑ってくれない!」とか喚いていたからな。

 10年前に両親を亡くしてからは更に表情がなくなった。眉以外ピクリとも動かさない孫に、自分の無力さを突き付けられたようで落ち込んだものだ。

 妖精界への影響など、力のない私では何も助けてやれない。泣く泣くユリフィスの妻メルローラ側の祖父母に託すしかなかった。

 イシュタトン姓を聞いた時点で予想していたが、モルディーヌ嬢はメリュジーヌ家系と言い伝えが残るイシュタトン伯爵家の血を濃く受け継いでいる為、妖精も見えるし治癒などの力もあるらしい。レフィハルトの力にも理解があるのだろう。

 先程のモルディーヌ嬢の発言から、彼女とふたりだとレフィハルトはもっと表情豊かになるのかもしれない。

 孫の成長が嬉しい反面、成長に関われず祖父としては寂しいような複雑な心境だ。

 しかし、この規格外なモルディーヌ嬢ならばレフィハルトと幸せになれそうだ。


「レフィハルト、良い相手を見つけられたな」


 厳つい顔付きでは強張った様に見えるらしい笑みでふたりを見ると、ふたりはお互いの目を合わせて微笑んだ。


「はい、最高最愛の人を見つけられました」


 私はレフィハルトの笑顔を初めて見た。自分に向けて初めて孫が笑いかけてくれたのだ。

 ちょっとだけ、嬉しくて泣きそうになったのを咳払いで誤魔化したのは気付かれずにすんだと思いたい。


 更にこの後、レフィハルトからモルディーヌ嬢への正式なプロポーズ。

 婚約の布令が出されたのに、まだプロポーズしてなかったのかと呆れたが、見届け人になってくれとレフィハルトに頼まれたので黙って頷いた。初めて孫が私的な頼み事をしてきたのだ。

 モルディーヌ嬢には感謝でいっぱいだ。可愛いし強いし本当に良い娘だ。レフィハルトと似合いの夫婦になるだろう。

 そんな訳でモルディーヌ嬢を凄く気に入った。

 可愛がり過ぎてレフィハルトに嫉妬されるのですら楽しいし嬉しい。


 曾孫もたくさん生まれるらしいから精々長生きしようではないか。






お次は誰でしょうか

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