ハロウィン的な
ハロウィン過ぎましたが
何となく書いてみました!
モルディーヌはじりじりと後ずさった。
背中にひんやりとした壁があたる。
「あ、あの・・・何が、えっと、アンさん?」
「ふ、ふふふっ、ふふっ!」
手をわきわきさせ、艶っぽい笑いを浮かべたアンが迫ってくる。アンと仲良くするお喋りするのは好きだが、いつもと違う美女の何だか不気味な様子に笑顔が引きつる。
手の動きが若干厭らしく見えるのは気のせいだろうか。
「さぁさぁ、お着替え下さい天使様!!」
「へ!?」
アンの見掛けによらず力強い手に肩をがしりと掴まれる。
何故だろう。
突然、治療院に現れたキースに王城に強制連行され、放り込まれた部屋に待ち構えていたアンに壁際に追いつめられてひん剥かれてしまったのだ。
秋の終わり頃。
世間を賑わせた連続殺人鬼首なし紳士も捕まり、時の人軍務大臣ブラットフォード公爵であるレフとモルディーヌの婚約話も漸く落ち着いてきた。
正直、何処に行っても注目され過ぎていたたまれなかったし、人前であろうと止まらないレフの溺愛が恥ずかしかったから助かった。
今も油断すると公開羞恥プレイまっしぐらだが、レフとモルディーヌの結婚式の日取りが来春のシーズン頭に決まったので仕事や準備等で忙しくなったレフとは会える時間がかなり減った。
モルディーヌがきちんと働かない人とは結婚しないと言ったのが効いたのか、真面目に働き始めたレフは今まで部下に押し付けていた仕事もこなすようになり多忙を極めているらしい。最近では向かいの家に帰って来ることもままならないらしく、灯り点いている事の方がまれだ。
本来優秀有能なレフは軍のトップなので任される仕事が多い。今までのつけが回ってきても自業自得だと思う。
しかし、あれだけ濃い出逢いだったので少し会えなくなっただけで寂しく思ってしまう。いつもレフは忙しい中無理に時間を作ってくれてるから不満は言えない。言えばまた徹夜仕事をし出す。折角悪霊が抜けて眠れる様になったのだからきちんと寝てほしい。
モルディーヌから会いに行きたいが、家に帰れない程に忙しいのだからきっと仕事の邪魔になるし、軍務大臣の職場とか機密だらけだろうから自分からは気軽に行けない。休憩中だとしてもモルディーヌがいては休めないかもしれない。
そんな事ばかり考えているからか、治療院で手伝いをするモルディーヌは自然とため息が増えてしまう。だが、横でゲオルグはやたらにこにこしている。
「ふっ、若造が調子に乗るからだ。本来1年の婚約期間をもうける事が多いのに半年で嫁にやるんだからありがたく思ってキビキビ働けばいい!その間モルはずっと儂といればいいからな!」
笑顔でボソッと呟くゲオルグに患者達が楽しそうに騒ぎ出す。
「うわっ!ゲオルグ先生本当にモルちゃんのお父さんみたいだなー」
「まぁ、気持ちはわからんでもない。モルちゃんは俺らにとっても天使であり、可愛い娘みたいなもんだ」
「可愛くて性格も良い娘の嫁入りなんざ早くても嬉しかねぇからな」
「婿にとられた感半端ないからなー」
「でもよ。前からモルちゃんを溺愛してるとは思ったが、軍務大臣様とのデート邪魔しようとしたりすんのは大人げねぇぜ、先生!」
「ちげぇねぇ!モルちゃんに嫌われるよ、先生!」
「うるさいっ。儂の治療院で騒ぐだけなら帰れ!モルは儂の愛弟子だからいいんだ!何だったら若造と別れて一生ここに居てもいいぞ!!」
暫くゲオルグと患者達のやり取りを眺めていたが、切りがなさそうなのでモルディーヌは盛大にため息が吐いて割り込むことにした。
「もうっ!ゲオルグ先生は患者さんにそんな事言ったら駄目ですよ!大体、結婚しても働いて良いってレフィハルトは言ってくれてるんだから、そんなに反対しないで下さいよ。わ、私はレフィハルトと、け、結婚したいから、先生にも御祝いしてほしいです」
後半はちょっと恥ずかしいので噛んでしまった。
患者達の生暖かい視線を感じて俯いてしまう。顔が赤らんでそうだ。
「くうっ・・・若造め。儂には可愛いモルのお願いが断れない!!」
呻くゲオルグの声に顔を上げようとした時、治療院の扉が勢いよく開いた。
モルディーヌを見つけて満面の笑みを浮かべた優男はツカツカと歩みより、華麗な仕草で敬礼をする。
「ごきげんよう!今日も天使様の神々しいまでの美しさと可憐さにわたしは心臓が止まりそうですが、お会いできて嬉しいです、天使様!」
軍服に身を包んだ優男キース・ライアー(元の姓ラットゥール)が、モルディーヌを崇拝するように見つめてきた。
ブロメル伯爵を捕まえた後、第3部隊の副隊長であるオッカムの下で働く事になったラットゥール兄妹は軍人になった。
この事件で知り合ったラットゥール兄妹がモルディーヌを「天使様!」と崇拝するようになったのはこうした訪問で治療院にまで知れ渡ってしまったのだ。恥ずかし過ぎる。
「キースさん!?ご、ごきげんよう、突然どうしたんですか?」
「ふふっ、緊急事態ですので急いで王城にお連れいたします」
驚くモルディーヌをキースは胡散臭い笑顔でぐいぐい押しやり、有無を言わさぬ勢いで外へと連れ出そうとする。
「緊急って、レ、レフィハルトに何かあったんですか!?」
「はい、そんな感じです。貴女に会えなくて苛立ったブラットフォード公爵に部下達が殺されそうなんです。詳しくは城で妹のアンが説明いたしますので、此方の馬車へどうぞ。ゲオルグ医師、天使様をお借りいたしますね」
にこやかにゲオルグ達に手を振ったキースがモルディーヌを馬車へ押し込んで消えるのを、ゲオルグと患者達は呆然と見送った。
「あれ、どう考えても緊急じゃないだろ」
「だろうな。この国の兵士は暇なのか?」
「軍務大臣様の職権乱用か」
「モルちゃんも寂しそうだったし良いじゃないか?」
「・・・若造め」
ゲオルグの呟きに、患者達が肩を叩いて励ます。
「先生。今夜は俺らと飲もうぜ」
ああ。珍しくイライラする。
片付けても片付けても仕事が終わらない。
絶対今やらなくても良い仕事を押し付けられている気がする。俺のやる気がある内に片付け様と部下が必死なのか次々と書類を持ってくる。
今まで最低限しかやらなかったつけが回ってきいるのだろうが、今後真面目にきっちり仕事をやるのだからいい加減先回りの仕事は止めてほしい。
モルディーヌと約束したからサボらないと言っているのに、今までやる気が無さすぎたから信用がないらしい。自業自得だと思って文句を控えていたら調子にのられたかもしれない。
最近全くモルディーヌに会えていない!
顔は変わらず無表情のままであるだろうが、モルディーヌへ会えていない苛立ちから殺気が滲み出てしまっているのだろう。先程から部下達が使い物にならない。
「か、閣下。あの、この書類に、ひいいぃっ!!!」
「・・・」
バタンッ。
「失礼します、ブラットフォード公爵。此方の、」
「・・・」
バタンッ。
「さっきから何ですか!?軍務大臣様がどうか―――」
「・・・」
バタンッ。
こんな調子で俺の執務室の入り口に倒れた部下の山ができていく。せめて用件を言ってから倒れろ。
「うわっ!?何だこれは!?」
「おや。ブラットフォード公爵の執務室が面白い事になってますね」
廊下からよく知った声が聞こえる。
扉入ってすぐの所に山ができているので、此方からは姿が少ししか見えないが、よく見知ったら姿がチラッと見えた。
幼馴染みで弟みたいな友人、王太子のヴォルレムディルとその側近アストンだ。
苛立ったままなので、目が合っても口を開くのも面倒だと黙って仕事を続ける。
「・・・原因はレフ兄上か」
「わぁお!素晴らしい殺気ですね。流石は5年前の戦で敵国から《イノンドの魔神》と言われたブラットフォード公爵です」
「懐かしい名だな。私は当時まだ12歳だったから戦場でのレフ兄上を見れなかったからなぁ。軍務大臣にのし上がる兄上を近くで見たかった」
「殿下が戦に出ても魔術師のブラットフォード公爵とは部隊が違いますよ」
「うるさい、アストン!私だって魔術を学んでいるのだぞ!」
「はいはい、すみません殿下。しかし、この殺気で兵士達の屍の山が?」
「扱いが雑すぎる!・・・大丈夫だ、安心しろアストン。コイツら死んでないぞ。殺気にあてられて気絶してるだけだ」
「そうですか。でも、ブラットフォード公爵の殺気に気絶して山になる兵士ばかりで大丈夫ですかね?弱すぎません?」
「相手が兄上だから仕方あるまい。そもそも、兄上は何故あんなに殺気を?」
「あぁ!最近執務室に缶詰めで、家に帰るどころか愛しの婚約者殿に会えてないからじゃないですか?」
さっきから煩いので軽く聞き流していたが、アストンの言葉にぴくりと手が止まる。
人が仕事をせっせっと片付けているのに冷やかされた様でムッとした。呑気に喋っているなら手伝ってくれ。
「なるほど。モルディーヌだな」
「おや、素敵なお姿。良い仕事をする部下ですね」
ヴォルレムディルとアストンがよくわからない事を呟くのが聞こえた。
その後、ずっと聞きたかった可愛い声が聞こえてきたので幻聴かと疑う。
「あっ、ごきげんよう、王太子殿下とスウィンバーン卿」
戸口のヴォルレムディルとアストンが脇に退き、その横からひょっこり此方を覗く可愛い顔が見えた。
会いたくて会いたくてたまらなかった婚約者モルディーヌの可愛い顔が此方を見ている。そして、何故か頭に黒い猫耳が着いていた。よくわからないが可愛い。入り口の部下の山に困惑している様子も可愛い。
モルディーヌが部下の山を避けながら部屋に入ってきた。
「・・・は?」
たぶん間抜けに口が空いてしまっている。
さっきまで部屋に充満してた殺気による圧が霧散するのがわかる。それくらいに衝撃的な姿だった。
「レフィハルト。ト、トリックオアトリート!」
黒い猫耳を着けたモルディーヌはいつものおさげではなく、本来の耳を隠すように二つに結われて毛先がくるくると遊んでいる。服装は耳の色に合わせたのか黒いフリフリレースの袖無し夜会スタイルのドレス。惜しげもなく盛り上がった胸、滑らかな首筋から肩にかけての白さとドレスの黒とのコントラストが眩しい。触りたい。
ほっそりと括れたウェストラインから編み上がったリボンは胸の谷間を強調して窮屈そうだ。腰から下はふんわりとボリュームがあり、モルディーヌが動く度にふわふわ揺れて、後ろに着いている細長い尻尾がチラッと見える。撫でたい。抱き締めたい。
しかも、その姿で頬を赤く染めながら、椅子に座る俺の膝に乗ってきたのだ!可愛すぎる。鼻血が出そうだ。
今ばかりは無表情がデフォルトで良かった。表情に出ていたらだらしない顔を晒す嵌めになった。
お菓子をあげないでいたずらされたい。
むしろ、いたずらしたい!
「・・・俺の可愛い天使。いや、仔猫が膝に乗っている様に見えるんだが。しかも、その格好・・・俺は疲れすぎて頭がおかしくなったのか?」
「私は幻でも何でもないわよ。この格好はアンさんがハロウィンだからって無理矢理着せて―――わ、私だって、は、恥ずかしいのよ!でも、疲れたレフィハルトが絶対喜ぶからって言われて」
顔を真っ赤にして恥じらうモルディーヌが可愛すぎる。
「でかした、アン・サットゥル」
「はっ!天使様の事でしたらお任せ下さいブラットフォード公爵」
モルディーヌを案内して入り口に控えたアンが満面の笑みを浮かべてサムズアップしてきたので返しておく。本当に良い仕事をしてくれた。
「モルディーヌに会いたかった、部下の山ができる程に」
「・・・みたいね。キースさんが迎えに来たから何事かと思ったわよ」
呆れたように兵士の山と俺を見比べるモルディーヌが首を動かす度に猫耳が微かに揺れた。
「貴方の軍服姿初めて見たわ」
「そうだったか?」
「うん。事件の時は軍人としてじゃなかったし、私から仕事中に会いに来る事なかったもの。デートの時は着替えてたでしょ?」
「そうかもな」
「こんなにカッコいいなら、もっと早く差し入れとか持って見に来とけば良かったわ」
「カッコいい?」
いつも照れてそう言うこと言わないモルディーヌが無意識なのか言った後にハッとして首を横に振る。
「あっ、違う、ちが――――――やっぱり、違わない。だから、会えなくて寂しかったら来ても良い?」
否定しかけて、真っ赤な顔で肯定してくれた。
潤んだ瞳でおねだりされて駄目なんて言う訳がない。むしろ来てくれるとか、何のご褒美だ。
イラついてしまったが真面目に仕事頑張ったからか?
忙し過ぎて会えなくて寂しがってくれていたのか。
嬉しすぎて固まったままだったのを誤解したのかモルディーヌがしょんぼりしてしまった。心なし耳と尻尾が垂れた様に見えるのは気のせいか?可愛すぎる。
「お願い。お仕事の邪魔しないから!」
「っ!?」
むしろ来てくれと伝えようとモルディーヌに顔を向けたら、柔らかいものに包まれた。
恐らく首に抱き付こうとしてくれた時に顔を向けたからだろう。露出したふたつの豊かな膨らみに顔を正面から埋めてしまった。不可抗力だがヤバい。殴られるかなと思ったが、更にぎゅっと押し付けられた。本当にご褒美か。
柔らかいし良い匂いするし幸せだが、そろそろ圧死するかもしれない。
谷間に挟まれながら、もごもご喋って緩めてもらおうとしたら「にゃっ!?」って可愛い声が聞こえた。これ、結婚前に襲ったとしても文句言わないでほしい。
「っはぁ。モルディーヌはいたずらされたいのか?」
「――――ちがっ、だって、」
「今すぐ食べていいと?」
「馬鹿っ!」
耳まで真っ赤にしてそっぽを向く姿が本当に仔猫みたいだ。
可愛いがそろそろ誤解は解いておこう。
「来て良い。むしろ俺の為に来てくれ」
「本当に?」
嬉しそうに微笑むモルディーヌにキスしたくて顔を引き寄せたら、横から咳払いに邪魔された。
モルディーヌが慌てて顔の距離を離してしまう。ちっ。
恨めしげに見ると、ヴォルレムディルが呆れたように立っていた。
「レフ兄上もモルディーヌも何やっている。扉はずっと開いているし、屍になっていた部下達も目を覚ましたから大注目だが良いのか?」
「!?」
モルディーヌがぷるぷる震えながら入り口に目を向けていた。人がいるなど今更だ。うっかり忘れっぽいモルディーヌが気付くまでは思う存分イチャイチャできるから問題ない。
俺としてはモルディーヌ以外の事などどうでも良いが、真っ赤な顔の最高に可愛いモルディーヌを他の男に見せるのも勿体無いので、腕に囲い込んで隠しておく。ぎゅっと抱き付いてくるモルディーヌが可愛すぎる。
「さて、勤務中に長々寝ていたお前たち。起きたなら俺への用件をさっさっと言え。今なら機嫌が良いからすぐ片付けてやる」
「「「「「はいっ、閣下!」」」」」
その後、俺の殺気を抑える為にと部下達に拝み倒されお菓子を大量に貢がれ困惑するモルディーヌを嬉々として膝に抱えたまま仕事をした。
ハロウィン、いい日だ。
来年も何かアンが見繕ったものをモルディーヌに着てもらおう。
その後のアホな子達です。
絵は鼻血出ないように押さえてるところです!笑
黒猫なのは取り合えず羽と尾びれないやつという、何となくなので深い意味はありません。




