54 悪霊達との約束
読んで下さりありがとうございます
あと少しで完結ですが
最後までおつきあい頂けたら嬉しいですヽ(・∀・)ノ
「私の、子供が・・・悪霊?」
あまりに衝撃的な話に茫然としてしまう。
卵とか騒いでいた時点で普通の子供が望めるとは思ってなかったが、自分がちょっと変わってるぐらいの普通の人間として生きているから、レフに言われて少し期待してしまったのが不味かった。思った以上にショックが大きい。
モルディーヌの茫然とした様子にレフが顔を顰めて妖精女王を見る。
「お祖母様、ちょっと待って下さい。俺とモルディーヌの子供が悪霊とは、どういう事ですか?」
「・・・えっ、お、俺とって!?まだ貴方と、そ、そういう事してないじゃない!?」
レフの言葉にハッとして茫然としていた意識を取り戻す。
祖母である妖精女王の前で何を言い出すんだと、慌てて訂正しようとしたら嬉しそうに紫の瞳が煌めいた。んん?
「ああ、まだだな」
悩殺ものの艶っぽい声で囁かれた。
いつもの淡々とした声はどこにいったのだろうと全力で探したい。心臓や脳ミソに大変優しくない殺傷能力を隠し持つなんて卑怯だと睨み付けようとしたが、全く意に介さず瞼にキスされて妨害を受けた。絶対狙ってやってる!
「っ!?」
「やっと結婚する気になったか?」
「―――――っ!?」
何かレフの思い通りに翻弄されているようで少しムッとして頷かなかったら、不機嫌さを表す為に少し突き出した下唇を食われた。
流石妖精というか、これっぱかしでは何も感情が変化しないらしい妖精女王がさらっと口を挟む。
『どうやら賭けの内容は随分と良心的なようだの』
顔を寄せる攻防を繰り返すふたりが止まり、話を促そうと妖精女王に注目する。
「賭けの内容はわからないんじゃなかったんですか?」
『今モディに会うまではな。モディには取り込んだ今、闇の同胞側の記憶は見られるのではないか?』
額に手を翳され、意識に少し靄がかかる。
靄とともに10年前の悪霊達の記憶が流れ込む様だ。
ただただ、何かに餓えている。
何かが足りない。
何かが満たされたい。
その何かは解らない。
惹かれるものを感じて同胞達と群がる様に集まった。
美味しそうな力を垂れ流す小さな人間。今にも死にそうだから食べやすそうだ。少し離れて倒れているのは後回しだ。
この力があれば餓えない?
『ニンゲン、タベレル』
近付くと、目の前に別の小さな人間が立ちはだかり邪魔をしてきた。
海の色した人間。こいつも美味しそう。
「だめよ。この子達は私にちょーだい?」
『ヤダ。オマエモ、タベル。オイシソウ、ナ、ニオイガスル』
「だめよ。私は未来のだんな様のものよ!」
人間の言うことはよく解らない。知らない言葉が多い。
さらに、我らの言葉を聞き取れる人間は少ない。
この小さな人間は聞き取れる様だった。
おかしい。食欲が失せてきた。
この小さな人間は不味いのかもしれない。
『ナラ、ソノニンゲン、クレ。ワレラニ、ヨコセ』
「たぶん、おとー様のお友達の子達だからいやよ。あげないわ」
『オ、トモダ、チ?タベレル。クレ』
「え~、んっと、・・・この子達は私の家族みたいなものだからだめなの!!あなたもこっちの黒い子食べないでしょ?」
『ワレ、カゾ、ク?タベレナイ』
ダンナサマ、トモダチ、カゾクって何?
カゾクとは同胞を指すようだ。
増やす事はあっても消えない限りいる。それがカゾク?
ならば食べない。不味いから。
「良かった、そうよね!だからこの子達も食べないで?」
『ソノ、ニンゲン、タベレ、ル』
その人間は同胞ではない。食べる。
「むぅ。じゃあ、あなたが私の家族になればいいわ!」
『オマ、エ、カゾク、チガウ』
「私が大きくなったら私の子供になればいいのよ。かわいい赤ちゃんになって?そしたら大好きな家族よ!」
何だ?何かが満たされそうだ。
気のせい?
どっちにしても、弱い人間にはそんなのできない。
『・・・オマエ、ワレ、ラ、ウメナイ、ニンゲンヨ、ワイ』
「今、なやんだわね!?うめたらいいの?私強いわよ!!」
『チカラクラ、ベ、カテタラ、イマ、タベナイ。マケ、タラ、ゼンイン、タベル』
どうせ勝つのは我らだ。全員、この小さい人間も食べられる。
そう思ったら、また餓えを感じた。
足りない。満たされない。何が?
「あなたと?いいわ!」
弱い筈の、小さい人間が笑った。
そして、我らは何故か勝てなかった。
上手く力が出せない。何故?
勝てると思ったのに。
我らはこの小さな人間を食べられない。
コドモになる?ダイスキなカゾクになる?
よく解らない。
だけど、何かが満たされた。
何かが足されていく。
餓えを感じない。
何でだ?
この小さな人間がいればいいのか?
ならば、約束を守らせよう。
人間は嘘を吐ける。
我らがまた餓えてしまう。嫌だ。
『カッテモ、ヤクソクヤブル、ダメダ。ソノ、ニンゲン、ノナカデ、オマエガ、ツガイ、ヲ、ミツケル、マツ。ヤクソク、ヤブッタ、ラ、ソノニンゲン、タベテ、ノットル』
「えぇ!?ずるいわ!この子弱って死んじゃったらどーするの?」
『アッチノ、セカイ、ニ、ツレテク。ソノニンゲン、ジョオゥ、ノ、チガアル。オチタラ、イイ、イッテタ』
この器に入ろう。
妖精女王の血があるから我らが入っても直ぐには死なない。
食うより人質にした方が使える。
この小さな人間が約束を守る為に。
約束を破られたら人質の身体を乗っ取って、闇の同胞の世界を統べる事で満たされるかもしれない。
元々食べて力を増したら餓えない気がしただけだ。
やってみてもいいだろう。
「女王の血?おちたら連れてかれちゃう?」
『ヤクソク、マモレ』
急げ。我は早く餓えをなくしたい。
遅ければ人質の心を食べて待つしかない。
死にそうな小さな人間の傷口に入る。
シンゾウが弱ってる。心が弱ってる。
直ぐに死なれたら約束を守ってくれない。
欠けているところを我らが埋めて繋いでおこう。
番が見つかるまで保てればいいのだ。
「あっ、ちょっと!まだ話はおわってないわよ!?」
あの小さな人間が何か言っている。
早く。早く約束を守れ。
「・・・ひどいけがね。死んじゃったらだめよ?」
温かい何かを感じる。
それは我らの餓えをなくしていく。
カゾク。ダイスキなカゾクになる。
「―――――っあ、レフィ、ハルト?」
肩を揺さぶられ気が付くと、険しい目で覗き込むレフと目が合った。
今見たのは、何だ?
下腹部に手を当てると、微かに彼らを感じた。
「モルディーヌ?大丈夫か?」
「・・・」
私のせいでレフィハルトはずっと苦しむ事になってしまったのだろうか。
あの約束を守らせる為の人質。
でも、彼らが入らなければ欠けた心臓が止まっていた。
「おい、モルディーヌ?」
「・・・」
レフの心臓辺りに手を添え、耳を押し付ける。
トクトクと少し早い音が聞こえる。
彼らがいない今も問題なく動いている。
10年の間、彼らが補っている間に再生されたのだろう。
良かった。ならば無駄に苦しませた訳ではなかった。
「大丈夫なんだな?」
心臓に耳を当てたままのモルディーヌをレフが優しく抱き締めてくれる。この人が死ななくて良かった。
モルディーヌと一緒だったから、東屋で眠っても彼らが大人しかったのだろう。
だから、・・・だから早く結婚したがった?
彼らによってモルディーヌに惹き寄せられたから?
ハッとしてレフを見上げると、愛おしそうに紫の中で銀糸が柔らかく緩んでいる。
違う。彼らがいようといまいとレフの態度は変わらない。
むしろ、どんどん愛情表現が激しくなっている。
レフ自身モルディーヌの力は関係ないと言ってくれていた。
モルディーヌ自身レフの傷痕にウズウズしたのは彼らのせいかもしれないが、そんなの知る前にレフが好きになっていたし関係ない。
「何を見た?」
黙り込むモルディーヌを心配したレフが背中を撫でながら聞いてきた。
彼らの記憶を覗き、今、一番解らないのは、
「・・・私の子供はどうなるの?悪霊達が子供になるのは、普通の子ではないの?無事に産まれるの?」
いくらレフ達を助けたかったとしても、幼いモルディーヌは無茶な事をしたものだ。
たぶん咄嗟に思い付いたのがあれだったのだろうが。
レフに抱き締められたモルディーヌの顔を妖精女王が覗き込んできた。レフの腕に少し力がこもる。
『どうしようもなく悪意の塊となって生まれる。モディの祖であるメリュジーヌはそれ故に子を殺したがな』
「えっ・・・」
「お祖母様。それは、」
『濁したところで事実は変わらぬ。甘ったれるなレフルト。モディに嘘を吐けぬであろう?』
「そうですが・・・」
苦々しく眉をひそめるレフに、妖精女王はころころと笑った。
『ふたりの、その悪霊がなる8番目の息子を寄越せ。さすればレフルトとの条件としよう。それなら殺さずとも済むであろう?』
何だか衝撃的な話が多すぎてついていけない。
「・・・は、8番目?私8人も子供を産めるんですか?彼らが生まれるのは8番目だけ?しかも条件って?」
『何をぬかすか、メリュジーヌと同じく10番目までおるぞ?余程血が濃いのか、メリュジーヌの子も8番目だけどうしようもなく殺していたからな』
思わず自分の下腹部を見た後に、レフに顔を向けてしまう。
「・・・10」
「―――俺の天使が10人も、天国か」
レフが安定の意味の解らない事を呻いている。
ブレない態度や反応にちょっと落ち着いてきた。天国とやらに羽ばたいた脳ミソに戻ってもらわねば。
「条件って?」
「ん?ああ。妖精女王としてのお祖母様が、人間界に俺とフェレイラが住む事に対して下した条件だ。俺が悪霊に呑まれた場合、俺があっちの世界の王となるか、子孫を寄越せと言われた。母が亡くなり、お祖母様の後継者が俺かフェレイラになったからな」
「あっちの世界?過去の記憶でも悪霊達も言ってたわ」
『闇の同胞が群がる場所、丘の向こうと似て異なる世界よの。妾ひとりでは統治しきれぬ、故にそちらに王を据えようと決めた。そこに妾の血を濃く受け継ぐレフルトが丁度闇の同胞に染まったからの?』
意地悪そうに妖精女王がモルディーヌの頬をつつきながら笑ってきた。
本気でレフが彼らに呑まれても構わなかったのだろうか。
人間と感覚が違いすぎて混乱する。
確かに彼らの記憶でも感情というより欲求で動いていたが、知らないだけで全く感情が無いわけではなさそうだった。
それなら、そんなに悪意の塊みたいな子にならないかもしれない。
「―――い、今は、今はもう、レフィハルトを連れてかないですよね?でも、この子達は私の家族になるって約束なんです。だから、殺したり、直ぐに渡してしまうのは――――約束を破る事になるから駄目だと思います」
どちらも奪われたくなくて、レフに正面から顔を埋めて抱き付くと、レフが安心させる様に背中を叩いてくれた。
「子孫は直ぐにと言うわけではない。8番目と言わず、10人育って本人達が選んでも良い筈だ。ですよね、お祖母様?」
『あい。人間の20年や100年待つぐらい構わぬ。死にかけを寄越さねば文句はないなぁ』
意外な展開に顔を上げるとレフが嬉しそうに微笑んでいた。
「え?これが、昨日東屋で言ってた相談?私が子供の話をしたから?」
「そうだ。君が俺と結婚する前に、先がわからない時に言っても困るだろ?」
「・・・そうね。産めないと困るものね」
「いや、産めないならフェレイラの子か、俺が君から離れ・・・はできないから、君と一緒に行くかだな。どちらにせよ君に逃げられたら絶望して直ぐ様あっちに連れてかれただろうな」
しれっとかなり大事な事を言われた。
確かに知り合って1週間で話す内容ではない気がする。
レフの気持ちは素直に嬉しい。
ただ、頭が破裂しそうだ。ビックリ箱人間め。
「重いわね」
「言っただろ。俺の愛は重い。逃げるか?逃がす気はないが」
楽しそうなレフにちょっと反撃してやりたくなった。
「―――――っない」
「?」
「逃げる気なんてないわよ。置いてかせないって言ったでしょ?」
「っ!?」
レフの首に腕を回して首をグッと引っ張る。
妖精女王の前だが構うものかと、驚きで半開きの口にキスしてやった。
自分からはしれっとするくせに、モルディーヌからされるとレフは面白いぐらい真っ赤になった。
彼らが言っていた。番が見つかるまでレフの中にいると。
つまりは、もうモルディーヌの心は決まっていたのだ。
が、ここにきて横から爆弾が投下された。
『あい、良かったの。レフルトを眠らせた甲斐があったぞ』
「「!?」」
妖精女王の言葉に驚いて顔を向けると、ゾッとするほど美しい顔が意地悪そうに歪む。
『気付かなかったか?ニーアからぐずぐずしておると聞いてな。レフルトはさっさと話さぬし、モディは頷かぬと。人間は面倒よの。両想いなのにくっつかぬとレフルトの期限は待ってくれぬぞ?』
「・・・道理で、横になって休むだけのつもりだったのに寝てしまった訳だ。お祖母様が俺を眠らせなければもっと持ちましたよ。モルディーヌが来なかったらどうなっていたか」
『そしたらレフルトが王になって統べれば良い。モディを動かせぬレフルトが悪いし、レフルトを失って後悔するなら早く返事をせぬモディが悪い』
無感情に目を瞬く妖精女王が『そうであろう?』と首を傾げた。
やはり妖精は感情で動くより欲求で動く様だ。
解りやすいが、ある意味とても恐ろしい。
『まぁ、結果は妾の予想通りにいかなかったがの?これだからモディは好きなのだ』
急にころころと笑い出し、美しい手でモルディーヌの頭を幼子を褒める様に撫でてきた。
妖精女王自身が思う結果を越えてくるのが珍しく面白いらしい。好意的に見られるのは嬉しいが、その分注目され何されるか解らないから気を付けないと不味い事になりそうだ。
レフに手をはね除けられて不服そうな妖精女王がまた意地悪そうに美しい唇を歪めた。
『早よ結婚式に呼べ、曾孫を抱かせよ、闇の同胞の王を寄越せ、・・・妾は退屈故に何をするか分からぬぞ?』
「善処します」
恐い会話をするのは止めてほしい。
何する気よ!?
これは納得しかねる。
レフがあっさり受け入れているのも納得しかねる。
もうちょっと感情ある人ここにいないのか!
「・・・私、怒っていいかしら?」
「『?』」
ふたりが不思議そうな顔をしたのでイラッとした。
「妖精って本当に勝手ね!結果良かったけど、ふたりともムカつくわ!!」
「え、モルディーヌ?」
『モディは妾相手でも臆さぬのは変わらぬな』
レフが困惑してるのも、妖精女王が愉快そうなのもムカつく。
言いたい事言わないと勝手なのが助長しそうだ。
「覚えてませんけどね!?もうっ!プロポーズとか、結婚祝いとか!頑張ってくれなかったら許さないんだから!!!」
人の気も知らないで勝手な事して、どれだけ恐かったと思ってるのかとぷりぷり怒ると、ふたりが嬉しそうに目を煌めかせた。何で!?
「―――――っ可愛すぎる、幸せ、俺死ぬ」
『したら、妾が可愛いモディを貰うぞ?飽きない友が戻ってくるのう』
「駄目です。俺のですから、お祖母様は友人としてモルディーヌの隣は夫に譲って下さい」
『妾もモディ欲しい』
「駄目です。モルディーヌは俺が先にもらいました」
『ずるいのぅ。妾の方が先に仲良くなったのに』
「自業自得です」
『あいあい。モディがレフルトが良いなら仕方あるまい。早よプロポーズでも、・・・ああ。忘れておったが、奴はどうする?』
ふと、思い出した様に妖精女王が聞いてきた。
「「奴?」」
レフと顔を見合わせると、妖精女王がふわふわと宙を漂いながら指を振った。
途端に周りの景色が変わる。
目の前には、大樹の中の隙間空間のような牢屋に入った人の姿。
完全に忘れていた・・・首なし紳士!




