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47 彼の妖精の血筋

暗い一室は彼はこの方です。

 

「俺の育ての親(国王陛下)に会うか?」


 やっぱり!?


 とは言え、元々レフの育て親に会うために着替えたので、相手が国王陛下だったとしても会おう。

 ぎこちなく頷くしかない。


「わかった」


 深くため息を吐かれたが、今回のブロメル関連の件での報告と一緒に紹介してもらう事になった。

 オッカム曰くレフに選択権はないらしい。いくら育ての親だとしても相手が国王陛下ならば仕方ないだろう。

 結局、モルディーヌにレフとの真偽を確認したかっただけの王太子殿下はふたりのやり取りに納得したらしく、結婚式までにはレフの妹を連れ戻すと勝手に約束されて別れた。


 王候貴族の結婚は基本政略が多いからモルディーヌの主張の方が少数派らしい。中流階級よりの生活をし、デビュー前で結婚を焦ってもないモルディーヌには納得しかねるが、王城で主張しても仕方ない。

 レフが妥協してくれるなら取り敢えずデートしてから考えよう。平素のレフがどんな感じなのか見てみたい。


 そんな訳で、まだ執務中で王城にいらっしゃる国王陛下の元へとレフとふたりで向かった。


 オッカムはキースやアンの様子を見て、ついでに手続きやらやるべき事があるらしい。表に伏せているとは言え、一応副隊長であるから忙しいのだろう。

 さっきまで暇なモルディーヌに付き合わせてしまい申し訳なくなったので謝ると「レフ殿がたくさん働く様にしてくれれば良いよ!」と、満面の悪そうな笑顔で返されたので、苦笑いを返すに留めた。


「覚悟しろよ」


 急にレフに囁かれたので顔を見上げると、「面倒くさい」と顔に書いてあるようなやる気のなさだった。

 とてもじゃないが育ての親に会う前の顔に見えない。

 いつの間にか国王陛下の執務室の前に着いていたらしく、レフが部屋の前に立つ近衛兵に取り次ぎを頼んでいた。

 しかし、近衛兵がモルディーヌをやたらチラチラ見るのが勘にさわったのかレフが殴った。えぇ!?


「何やってるの!?」


 軍務大臣の職権乱用しそうな勢いだったのでレフの腕を掴んで止めておく。


「コイツが君に不埒な目を向けるから殴った」


 しれっと何か言い始めた。ひどい言い掛かりだ。


「そんな訳ないでしょう!?」

「この無自覚虫ホイホイめ」


 無意識から無自覚と、また虫寄せみたいな言い方をされたので、レフを無視して近衛兵に声をかけた。


「あの、失礼しました。お怪我は大丈夫ですか?」

「はっ、い、いえ、大丈夫です!!貴女の可憐さに目を奪われたわたしが悪いのでお気に為さらず!」

「え?レフィハルトの言い掛かりに乗ってお世辞まで、ありがとうございます」

「お世辞ではありませんが、その、貴女はもしや、閣下の?」


 真っ赤な顔で喋る近衛兵を睨むレフが「俺の恋人だ」とモルディーヌの腰を抱き寄せる。

 そんな主張せずともと思うが、不機嫌でいられると近衛兵にとばっちりが行きそうなので宥めていたら急に目の前の扉が少し開いた。

 慌てて扉との間を遮った近衛兵が、扉の隙間から中の人と会話し始める。


「えっ!?あの、いきなりどうされ――――」

「さっきから煩いぞ」

「し、失礼いたしました。只今ブラットフォード公爵が参りまして」

「わかっとる。入れろ」

「はっ!」


 近衛兵に促され、国王陛下の執務室に足を踏み入れる。

 ふかふかの転んでもかすり傷ひとつ負わなさそうな絨毯に意識を取られた。国王陛下の執務室は好みの差か王太子殿下より華やかで優しい質感の物を使っているようだ。

 視線を感じて絨毯から顔を上げると、目の前に人が立っていた。


「やぁやぁ、初めまして件の娘よ。ずっと君に会えるのを楽しみにしておったよ」


 そう言って微笑むのは、程好く歳を重ねた40歳半ばぐらいの身なりの良い男性。

 白髪混じりの金髪と顎髭。暖かい青空のような瞳で若い頃はさぞ素敵な美丈夫であったであろう。今も素敵なおじ様という言葉がピッタリで、マダム達にモテそうである。

 スマートな動作でモルディーヌの手を取り挨拶のキスをしようとするのを、横からレフがかっさらって防いだ。

 さらに、男性との間に入りモルディーヌを背に隠してしまう。


「近寄らないで下さい」


 低く冷えきった声で威嚇するレフに、男性が面白そうに笑う。


「ケチだな。少しくらい良かろうに」

「国王陛下に近寄られたらモルディーヌが怯えるでしょう。ご遠慮頂けますか?」


 どうやら、この素敵なおじ様が国王陛下だったらしい。

 髪や瞳の色的にそうかと思ったが堅苦しくなくフレンドリー過ぎて意外だ。

 王国祭などの行事で豆粒サイズでなら見たことがあったが、こんなに近くでは初めて姿を拝見する。


「あまり嫉妬深いと嫌われるぞ?」

「何を吹き込む気ですか?」

「ふむ。期待に応えて何ぞ吹き込んでやろうか」

「お止めください」


 レフの固い声に対して、ニヤニヤ人の悪そうな国王陛下の笑みがオッカムに近いものを感じる。

 ふと、国王陛下が此方を見た。


「この娘を美人ではないと言った事とか?」

「・・・」

「くっくっくっ。美人と言うより、華奢で可愛いんだったよな?レフは一目見て惚れおった。な?」

「・・・」

「こいつは、君をブロメルから守りたくて、態々一晩で引っ越した。本当は城から指示だけで魔術が関わらなければ出向かない予定を勝手に変えおったのだ。君の様な立場の人間、いつもならば囮にするか見捨てるのだが、できぬとな」

「・・・」


 国王陛下相手に無視を決め込んだレフはそっぽを向いている。

 しかし、否定しないのは本当だからだろうか。

 口を挟んで良いものか悩むが、レフが口を開かないなら良いかなと、レフに聞いてみる。


「貴方はそれで向かいに引っ越してきたの?」

「・・・ああ」


 あ。返事した。

 本当にモルディーヌの為に始めから色々していてくれたらしい。

 嬉しくて微笑めば、柔らかい瞳が此方を向いた。

 国王陛下がレフのその様子に驚きながらも拗ねた。


「おい、儂に返事せぬくせに娘には返事するのか!?儂にはいつも冷たい目を向けよって!!」

「国王陛下は俺をからかいたいだけでしょう」

「うむ。当たり前ではないか!平素のお前は何を言っても涼しい顔しおってつまらぬ。しかし、惚れた娘に関してのみ反応が面白い!ならば弄るに決まっておろう?」


 何だがレフが面倒くさそうにしていた理由が解った。

 国王陛下の性格が中々アレだ。


「・・・だから会わせたくなかったんですよ」

「なぬ!?もしや儂に会わせぬ気だったか!?」

「オッカムが勅令と煩くなければ会わせませんでした」

「くははははっ!そうか、そうであろう。王命で注目を集めてしまうと心配か?余程他の男に娘を盗られたくないのだな。しかし、それほど惚れ込んだ娘とまだ婚約はしとらんのか?」

「・・・」


 本当だが肯定したくない時にレフは無視するらしい。

 まただんまりを決め込んだレフに、婚約をしていない原因であるモルディーヌが口を開くことにする。


「あ、あの、私がまだ早いのではないかと、」

「すぐにでも君とデートしてプロポーズする」

「だ、だから、そう言うのを人前で言わないで!!国王陛下の前なのよ!?」

「そんなのは知らん。煩いが空気だ」

「失礼すぎるわよ!?」


 国王陛下の御前で騒がしくしてしまったが、全く気にした様子もなく首を傾げられた。


「ふむ。両想いであるなら、デートなんぞ婚約してからすれば良いだろ?合わなければ式までに婚約解消すればよい」


 やはり王候貴族思考なのか、モルディーヌの考えは通用しなかった。確かに、婚約して初めて顔合わせやデートする貴族が多数派なこの国では仕方ないのか。

 レフが嬉々として食いついた。


「国王陛下、今ほど貴方が育ての親で良かったと思った時はありません。是非ともその方向でいかせて頂きます」

「おい、何ぞ引っ掛かる言い方だな。しかし可愛い息子の願いだ。儂が婚約の布令を出してやろう」

「ありがとうございます」


 国王陛下の布令に口を出せる訳もなく、すんなり婚約が決まった。

 仕方ない。まだ結婚式の日取りは決めてないから、のんびりデートして冷静に考える時間はある筈だ。


「ところで、レフの両方の祖父母には紹介したのか?」


 国王陛下の言葉にぎくりとする。

 さっきの王太子殿下からの流れで嫌な既視感。


「まだです。エイルズベリーはともかく母方はモルディーヌに詳しく話していないのでどうしたものかと」

「えーっと。首なし紳士(デュラハン)を預けた妖精のお祖母様?」


 一応確認したら、レフが躊躇いがちに口を開いた。


「・・・聞いても怒らないか?」


 あ。これは、またな気がする。

 まさか・・・


「俺のお祖母様は妖精女王なんだ」


 やっぱり!?

 私、聞くとも怒らないとも言ってない!!


 しかし、お祖母様の正体に関しては予想外過ぎる。

 レフが首なし紳士(デュラハン)に妖精なら誰もが知っている的な事を言っていたが、確かに妖精女王を知らない訳ないだろう。

 モルディーヌの涙の影響が無いのは妖精女王の強い力を継いでいるからだったのか。

 詠唱や魔法陣なしで魔法を使えるのも、妖精界を自由に動き回れるのも、妖精界に感情で影響を与えるのも、全部妖精女王の最強過ぎる力のせいと考えたら納得だ。

 ちょっと人外に近い綺麗な顔や、変わった髪色に強い力。

 さらに人間界では名門エイルズベリー辺境伯家の出身で、育ての親が国王陛下に弟みたいな王太子殿下。

 現在は軍務大臣を務め、国で五本指に入る強い魔術師が任命される五大魔術公爵家のひとり。


 ・・・ハイスペック過ぎる。


 冷静に考えると、最初に思っていた連続殺人鬼首なし紳士(デュラハン)が大した事ない様に思えてきた。いや、大した事だけど。


「これで、今回の件が片付くまで話せなかった俺の事は話せたが・・・モルディーヌ、怒ったか?」


 恐る恐るレフに声をかけられた。

 頭の中で考えている間に結構時間が経っていたらしい。

「怒る?」って何で?と首を傾げると、レフが歯切れ悪く返してくる。


「その、イシュタトン伯爵の事もあって、言い辛くて後回しにしたから」

「お父様?ああ、対価の話?」

「そうだ」

「・・・妖精女王に会えるのって、一度だけなのかしら」


 妖精女王と父のやり取りはレフに関係無いので怒る事はないが、そう簡単に会えない場合に父との事を聞くべきか先程聞いたばかりで急には決めかねる。


「いや、条件を満たせば会える」

「条件?」

「妖精界でたどり着けるか、妖精を繋ぐ力があるか、願う場合は対価を払う覚悟があるか、後は、お祖母様に会う気があるかだな」

「会う気がないと?」

「姿を現さない」

「それって多いの?」

「さあ?俺は孫だからか基本会える。国王陛下は一度だけで後は会ってもらえませんよね」


 レフが話を急に国王陛下に振った。そういう場合があるのかと、モルディーヌも国王陛下を見るとあっさり答えた。


「うむ。嫌われておるからな」

「え?国王陛下が何故!?」


 何で嫌われたのか是非とも聞きたい。

 モルディーヌも嫌われたら二度と会ってもらえなくなってしまう。その場合父との事を聞きたくなっても聞けない。

 レフが呆れた目を国王陛下に向けてため息を吐いた。


「また下らない事をお祖母様に言ったのでしょう」

「言っとらんぞ。随分と昔に、レフの母であり妖精女王の娘メルローラを妖精女王の血筋欲しさに王妃にと言っただけだ。このままだとヴォルディも駄目かもしれぬな!」


 しれっと凄い事を言い出した。流石はレフの育ての親。と言うか、ここ数日ビックリ箱人間にしか会っていない気がしてきた。


「お祖母様にそんな事言ったんですか?それは怒りますよ。陛下がアホな理由で結婚しようとしたのが悪いです」


 レフが国王陛下をアホ呼ばわりしたが、もはや気になるのはそこではない。

 娘の結婚について口出しをして怒ったならば孫の場合は?王太子殿下も駄目とは?

 レフとの交際報告どころか、国王陛下によって婚約報告になったのだから、モルディーヌも反対される可能性があるのではと焦る。


「えっ、じゃあ、私も貴方との事反対されるんじゃ・・・」


 モルディーヌの呟きを拾ったレフが訝しげに首を傾げる。


「何故そうなった?俺がモルディーヌを好きで嫁に望む限り反対はされない」

「でも、王太子殿下も、」

「あの馬鹿ヴォルディはフェレイラを口説けるかにかかってるだけだ。血筋欲しさとか抜かしたら消されるだけだからな」

「そうだな。儂がやらかした上に、ヴォルディも求婚をやらかしたから本気で孫姫に惚れて口説き落とさないと危うい」


 何だが物騒な言葉が出てきた。王太子殿下の扱いが皆ひどい気がする。


「そ、そうなんですね・・・」

「お祖母様もモルディーヌに会いたがると思うが会う気はあるか?先にエイルズベリーに行くなら急ぐ必要はない」

「お、お父様との事もあるし、少し考えさせて?」

「ああ、そうだな。ここ数日慌ただし過ぎただろうから、ゆっくり考えると良い」


 あっさり頷いてくれたレフにホッとした。これで急かされたら後で後悔しかねない。

 話のキリが着いたからか、国王陛下に楽しそうに笑って提案される。


「さて、ふたりとも。今日は我が家に泊まるかね?可愛い息子と婚約者を招待しようじゃないか!」


 結局、もう遅い時間なのと、ここ5日の睡眠不足と精神疲労に昨夕誘拐されてから心労の限界が来たモルディーヌはありがたく王宮に泊まらせてもらう事になった。


 レフは国王陛下への報告の後にも仕事が山積みらしく、王宮に用意された部屋にモルディーヌを送った後、名残惜しげにニーアを付けて去って行ってしまった。


 叔母達へは、誘拐されてからの事、モルディーヌが無事だと伝えるのと、レフとの婚約、国王陛下からの名誉な招待に是非にと泊まらせて頂く有無を手紙にしたためる。


『お嬢さん、書けたっすか?』

「ええ、お願いできる?」


 白い鳩の姿の妖精ニーアが片足を出したので手紙を渡したら器用に掴んだ。

 兵士が運ぶより早いと、叔母達に手紙を届けてくれるのだ。


『あい。オイラは手紙(これ)を届けてくるっす!直ぐに戻って護衛するんで、主が先に戻ったらよろしく言っといてくだせぇ!!』

「もう狙われてる訳じゃないから急がなくて大丈夫よ?」

『付き合いたてなのに、主は自分が傍にいられないと不安なだけっすよ。ま、頑張ってくだせぇ!』


 窓を開けるとニーアは直ぐ様暗闇へ飛び立った。

 暗闇の中小さくなる白い姿が消えるまで目で追い、戻って来た時入れるように少しだけ開けて窓を止める。


 今日は5日間の中で一番色々あった。

 誘拐されてからの疲労、妖精界の時点で体力の限界を迎え、それからは気力で持たせたようなものだ。


 モルディーヌはひとりになった部屋で気が抜け、目の前にあるふかふかベッドに崩れるように沈み込んだ。






やっとレフの正体ができった!

伏線回収もあと少し。


後数話で完結しそうです。

あと何話かは、

その場のノリで書いているので

まだ分かりませんが

よろしくお願いいたしますヽ(・∀・)ノ

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