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44 撤収から王宮へ

読んで頂きありがとうございます!

 

「撤収ーーーーーーーーー!!」


 勢い良く扉が開かれ、壁に跳ね返る大きな音が屋敷に響いた。

 驚いて扉口を見るとオッカムが満面の笑みを浮かべながら頬を引きつらせていた。器用だ。


「はい、そこのバカップル!いつまでもイチャイチャしていない!!ブタメル伯爵も泡吹いて気絶したから、王城へ移動しますよ。レフ殿は王宮に報告もありますからね!逃げないで、ついでに育て親に恋人になったモルディーヌ嬢でも紹介したらどうですか?」

「・・・いや、紹介したら絶対面倒な事になる」


 オッカムとレフのやり取りでハッとする。

 13歳に両親を失ったレフには育て親がいるだろうに失念していた。

 モルディーヌにだって後見人の叔母がいるのだ。考えてみれば当たり前の事だ。

 両思いになったレフとはまだ出会って数日と短い。これからお付き合いをする上で貴族同士だったら後見人や親の印象が大事だ。反対されたら他の婚約者でも用意され別れさせられてしまうかもしれない。


「レフィハルトの育て親?わ、私、今の似合わない格好じゃ失礼よね・・・面倒な事って、き、嫌われてレフと付き合うの反対されたらどうしよう!?」


 あわあわとスカートのシワを伸ばしたり、髪を撫で付けたりしてみる。全然何とかなる気がしない。


「え、何ですかアレ。めっちゃ可愛いんですけど、紹介しなくて良いんですか?怒られますよ?」

「見るな、俺のだ。めっちゃ可愛いから紹介したくないんだ」

「独占欲強すぎません?どうせ自分が弄られるの嫌なんでしょう?」

「絶対にモルディーヌに要らん事を吹き込まれる」

「ははっ、その前にモルディーヌ嬢が緊張でヤバいのでは?」


 呑気にオッカムとレフが会話しているが、モルディーヌはそれどころではない。

 壁に掛かっている鏡で自分の顔を見て絶望する。この顔を見て可愛いとか言いキスできたレフが強者過ぎる。


「ど、どうしよう!?私おかしいわよね?ここ5日色々ありすぎて疲労と寝不足で顔色悪いし、打たれたせいで顔腫れて唇切れてるし、やっぱり後日にしてもらった方が、少しでも気に入ってもらえる可能性を上げなきゃ、」


 あっ。治癒の力で何とかならないのかしら?と、掌で顔を覆ってプルプルしながら念じる。頑張れ私。


「・・・どうするんですか?あの可愛い生き物。ふらふらしたまま放っといたら連れてかれて食べられちゃいますよ?」

「させるか。食べて良いのは俺だけだ」

「うわー。モルディーヌ嬢御愁傷様。地獄への片道ツアーへご案内でーす」

「おい、どういう意味だ。何でその話を知っている?」

「え?言われたんですか!?モルディーヌ嬢に地獄って?」

「・・・」

「いや、拗ねないで下さいよ。俺のは冗談ですって。たぶんモルディーヌ嬢が言ったのだって。ほら、あんなにレフ殿との交際を反対されたくなくてそわそわプルプルしてるんですよ?何したらこんな急に好かれるんですか?」

「・・・」

「今喜びましたね!?無表情ですけど喜びましたよね!?モルディーヌ嬢には遠く及ばずとも流石に解りますよ!?」

「煩いぞオッカム。あの人はお前よりも酷く絡むだろうから嫌なんだ」

「ははっ、いつまでも隠せないんですから、勅令を出される前に会わせた方が良いと思いますけどね。婚約前に勅令なんか出されたら大注目でモルディーヌ嬢狙う奴増えますよ?何せ遺産とイシュタトン伯爵位が付いてくる引く手数多の美少女ですから」

「・・・ちっ」


 そんなふたりを無視して治癒の力を使おうとプルプルしていたモルディーヌは顔を上げ鏡で確認した。


「やった!見て!ねぇ、レフィハルト!ちょっとはマシになったかしら!?」


 少し良くなった顔色の頬は腫れが引き、切れた唇はまだ少し赤いが傷が塞がり艶が出た気がする。

 さっきとの違いをよく見てもらおうとレフの袖を引き、嬉しくて笑みを見せた。


「―――――だ、駄目だ」


 (かた)い顔のレフに否定された。ショック、そんなに駄目な顔でしたか。

 育て親は顔面審美眼が厳しいようだ。そりゃそうか、麗しい造作のレフの顔と比べたら見劣りするだろう。イケメンめ。

 モルディーヌに恨めしい目を向けられた事に気付いたレフは焦って訂正してきた。


「そう言う意味じゃない、違う。モルディーヌが可愛い過ぎるのがいけない。王宮の虫どもに見せて誘拐されたら困る」

「へ?何言ってるのよ、王宮に私を誘拐できるほど大きな虫がいるとでも?」


 そんなデンジャラスな王宮あってたまるかと、呆れてじとっと睨むがレフは大真面目に返してきた。


「いる。(たか)るほどいる。だからずっと俺が抱き抱えて移動するからな」

「レフ殿何言ってるんですか。そんなアホみたいな嫉妬で注目集めてどうするんですか」


 また安定の意味わからなさでしれっと公開羞恥プレイを要求してきたが、今度はオッカムがツッコんでくれた。ですよね。


「貴方は一応軍務大臣な上に五大魔術公爵家のブラットフォード公爵なんでしょ?そんな貴方が私を運んだり貼り付いたりしたら無駄に目立つに決まっているじゃない。私はキースさんやアンさんと一緒にいようかしら」

「・・・は?」

「モルディーヌ嬢良いこと言うね、そうしよう!俺もむさい兵士と一緒より美少女と美女といたいんでご一緒するよ!そんな訳でレフ殿はさっさと王城の仕事終わらせてから合流して下さいね!!仕事のできる男はすぐですよね?」

「・・・」


 すっごくレフに見られているが絶対に目を合わせたら駄目だ。しょんぼりした姿が可愛く見えるかもとか思ってしまったが、今流されたら公開羞恥プレイが待っている。

 諦めたのかため息が聞こえた。


「わかった。すぐ終わらせるから、それまで他の男を寄せ付けるなよ。間違っても誘惑するな」

「誰に言ってるのよ!?そんなふしだらな事しないわよ!」

「無意識虫ホイホイめ」

「虫ホイホイって何よ!?失礼ね!!」


 パーーーーーンッ!!


 またオッカムが手を叩いて会話を中断された。


「ははっ、モルディーヌ嬢とレフ殿、ふたりとも無意識フェロモン拡散機なんでイチャイチャ無駄話してないでさっさと仕事して下さいバカップル」


 良い笑顔なのに目が怖かったです。







 社交界デビューしていないモルディーヌは初めて王城に来た。

 屋敷からチラリと見るのとは違い、間近で見る王城には驚きの連続であった。

 近年、大きな戦は無いが防衛戦や籠城できるように頑丈な造りの城壁。見張り塔など守衛目的の筈なのに計算された美しさで建設されており、柱や扉、柵までもがその辺の屋敷とは比べ物にならない。

 なんと言っても、もの凄く広大な範囲を城壁で囲われた中は謁見の間や舞踏場、さらに官僚、大臣、王族の執務室が入った王城で囲われている。その内外に兵舎や訓練場、大図書館、魔術塔や実験場等々。そのまた中に、またかなりの広さの森の様な庭園が大きく分けて4つ。それらの中心部に豪華絢爛な王宮があった。

 どこの迷宮だと言いたくなる広さと入り組んだ建物の層だ。


「はぐれたら絶対迷子になるわ」


 初めての王城での感想はそれに尽きる。

 回廊から周りを見ながらモルディーヌが呟くと、横にいたオッカムが笑い出した。

 キースや意識の戻らないアンは一応殺人未遂、誘拐の罪があるので着いて直ぐに王城預りになったが、竜の目(ドラコ・アイ)に入る扱いで減刑されらしい。後は被害者のモルディーヌが減刑を希望したのもあるだろう。

 ブロメル伯爵やイーサン以外の協力者、反魔術師派の権力主義者達も知らぬ間にレフの指示で大漁捕縛されていたらしく、レフは別行動でそれらの処理に追われている。

 王城にて用意されていた部屋で、レフが身だしなみを気にするモルディーヌの為に手配してくれたデビュタント色の白ベースのドレスや装飾品をメイド達に全身を磨かれてから装備された。

 何故かぴったりサイズで似合うドレスに王家御用達デザイナー服飾店の力を感じる。値段は考えたくないが。

 今はオッカムとふたりで時間潰しがてら王城探索中だった。


「ははっ、そうだね。初めての王城の感想がそれとかレディにしては珍しいけどモルディーヌ嬢だしね。間違ってないね。迷わず全てを把握してる人なんて片手で数えられるくらい、いや、彼しかいないかな~」

「彼?」


 オッカムの目線の先を追うと、回廊の向こうからふたりの人が歩いて来るところだった。

 無駄にキラキラした雰囲気の人と、半歩下がって従っている人。

 ふたりとも若そうだけど明らかに身分高い人だ。


「オッカムじゃないか。こんなところで何をしている?」


 近くまで来た時、キラキラした金髪碧眼の美少年の方がオッカムに気付いて笑顔を見せたが、横にいるモルディーヌに気付き嫌そうな顔をした。失礼すぎる。

 従っていた赤髪に榛色の瞳の爽やかイケメンの方はにこやかな笑みを崩さずに会釈してくれた。この差は何だろう。

 赤髪の方も思ったのか、キラキラ金髪に注意してくれた。


「殿下。ご令嬢を前にその顔は失礼ですよ。見たところお相手が決まった方な上に、殿下にこれっぽっちも惹かれてない様子なので自意識過剰ですね」

「う、煩いぞ、アストン!先程集られた後なんだから仕方ないだろ!」


 ふたりの応酬にビシリと固まる。


「でん、か?」


 今、聞き間違えでなければキラキラ金髪の方は殿下と呼ばれていた。

 殿下。今現在王城に居る若い男性で殿下と呼ばれる人間はモルディーヌの知る限りひとりしかいない。


「失礼した。少し警戒してしまった事は詫びよう」

「うちの殿下がすみませんね、ご令嬢」


 キラキラ金髪と赤髪に謝られるが、この人達はこんなに簡単に謝って大丈夫な人だったろうか?

 固まるモルディーヌを不思議そうに見て何を思ったのか、礼儀に乗っ取り目上の方から名乗ってくれた。


「私はイノンド王国現国王陛下が第一子で王太子ヴォルレムディル・フォンターネ・イノンドだ。連れはアストン・スウィンバーン侯爵子息だ。貴殿の名は?」


 やはり、王太子殿下でした。無駄にキラキラしてる筈だ。

 確か今年で17歳で成人するモルディーヌと同じ年だ。まだ少年らしい細い背丈に色白な綺麗な肌、長い睫毛のパッチリ目に、少し高い声の美少年。其処らの令嬢より何倍も可愛い美少年の隣に並びたくない。

 しかも、従えてたのも侯爵子息様でした。王太子殿下より1、2歳上だろう、まだ伸びそうなスラリとした体躯の優男系の爽やかイケメン。女の子慣れしてそうな、ちょっと軟派な雰囲気だ。


「あ、はい。私はモルディーヌ・イシュタトン、亡き父の現在伯爵位預りでございます」

「イシュタトン?ああ!レフ兄上の恩人の家か」


 何だか王太子殿下とレフは仲が良さそうだ。

 嬉しそうに微笑む顔が絵になる王太子殿下に父親との事まで把握されているとは、レフは一体どれだけ顔が広いのだろう。


「ご、ご存知でしたか。ありがたき幸せにございますヴォルレムディル殿下。ブラットフォード公爵との事をご存知とは、」

「堅苦しいのはやめろ。集る虫といるようで不快だ」


 話してる途中でぶった切れられた。

 また集る虫の話。レフも言っていたが王城にはそんなに虫がいるのだろうか。デンジャラス過ぎる。

 まぁ、虫に集られたら不快だろう。良くわからないがちょっと砕けて話せば良いのだろうか。


「す、すみません?」

「いや、普通に殿下が理不尽ですよ。お相手のあるご令嬢に慣れ慣れしすぎますよ」


 また、アストンが王太子殿下に注意してくれた。できるイケメンだ。

 しかし、ちょっとだけ引っ掛かる。さっきも言っていた。


「あの、お相手って?」

「違うのですか?その形の首飾りに自分色の宝石を加工して婚約者や奥様に贈るのが流行っているのですよ」


 モルディーヌの問いにアストンはきょとんとしたが、直ぐに爽やか笑顔で返してくれた。まさかの爆弾投下。

 横でオッカムが腹立つくらいに笑い出す。


「へ!?―――――まさか、オッカムさん。知っていて黙ってましたね?」

「ははっ、レフ殿の愛だからね。首飾りどころか全身レフ殿の色で、俺のものアピールが凄くてツッコめないよ!」


 爆弾に被爆した。

 騙された気分でいっぱいになり、この姿でうろうろしていた事に羞恥が込み上がる。


「レフィハルト色って――――」


 じわじわ顔が火照って、きっと真っ赤になっているだろうと俯くと目に入る自分の服装。

 イブニングドレスは、社交界デビュー前だからデビュタント色の白だと思っていた。だが、細部のベース刺繍で光の加減で色が変わる銀の糸が使われており、縁や目立つ刺繍、アクセントリボンとレースはレフの瞳と同じ紫色メインに、モルディーヌの海の瞳を模した碧い糸が混じる様に使われていた。

 首飾りは銀の台座にダイアモンドとアメジストが煌めいており、言われて見れば完全にレフ色だった。

 色が合いすぎていて既製品じゃないのだろうかと考え、ちょっと恐いので考える事を放棄した。

 王太子殿下はモルディーヌと違った意味で混乱した様だった。


「は?レフ殿とかレフィハルトって、まさかレフ兄上の事か!?」

「はい。えーと、フルネームがレフィハルト・フォンデューク・ブラットフォードの事ですよ?」

「あの噂は本当だったのか!?おい、こっちで話を聞かせろ!」


 あの噂って、まさか兵士達が騒ぎ、リアンやブロメル伯爵にまで伝わったあの恥ずかしい噂が王太子殿下にまで伝わったのだろうか。

 話って何だとは思うが、王太子殿下相手に拒否権がある筈もなく、ずるずると引き摺られる様に連行された。






やっと王城についた!

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