43 果たされる願い
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シリアス中に
おふざけをぶち込み隊( ̄∇ ̄*)ゞ
ふざけてると打つ進みが早い
しかし、話の進みが遅くなる!
さらばブロメル。
15Rの加減がわからないので控え目で。
「―――――グレアムから、ブロメル伯爵が黒幕である事を記す誓約書を預かった儂は、心を鬼にしていつも通りに生活、仕事をした。グレアムに言われた通り、友の最期の――――あの場所にも行かなかったよ。友の遺された家族についても詮索しなかった。儂の存在が目立ち、ブロメル伯爵に誓約書を奪われる訳にはいかないからな。全ては親友グレアムの最期の頼みだったからだ」
のんびりした口調なのに声色は低く掠れている。瞼をきつく閉じたゲオルグの瞳の色は解らないが、全身から熱が噴き出す様な怒気を感じる。
グレアムの処刑前に誓約書を回収できなかったブロメル伯爵はゲオルグも探ったのだろう「そ、それで友人だった貴様も怪しいと思ったのに何も出なかったのか」と、もごもごしていた。
「だが、俺達が馬鹿だった。まさか、そこのクソ野郎がグレアムとの約束を欠片も守らないとは思ってもみなかったわ。グレアムの命日から5年経ち、友の家族から何の知らせも無かったので、儂は捜した。しかし突然消えたかの様に見つけられなかったよ。何とか掴んだ情報から友の妻はあの後病状が悪化し亡くなったと知り、ここまでは何とか納得した。病が治らなかったのは仕方ないが、娘は違うだろう」
射殺さんばかりの憤怒の瞳が開かれ、ブロメル伯爵に向けられた。
ゲオルグの気迫に圧されたのかブロメル伯爵は「奴が誓約書を預けたと言うわしの部下を裏切りで処分したし3年何も無かったから大丈夫かと」とかビクビクしてまごついていた。
「当時マクビウェル班長やグレアムの部下だったにも関わらず、嬉々としてその地位に入れ替わったブロメル伯爵の息子アルマンと、クズ部下イーサンを探ったわ。まさか、グレアムの愛娘を娼婦に貶めていたとはな。儂はこやつらに知られぬ様に何とかエイルズベリー辺境伯に接触を図った。そこで、向かいの若造と知り合い、時期を見て確実にクソ野郎を引き摺り降ろす事になった」
レフを見やったゲオルグの瞳は悲しみで満ちていた。
「・・・儂がもっと賢くて有能な男であれば、グレアムの最期の願いを、上手く叶えてやれただろうがな・・・」
一気に老け込んだ様に項垂れるゲオルグにかける言葉が見つからない。
「先生とキースさんのお父様に、そんな事が――――」
モルディーヌが怒りと涙を堪え小さく喘ぐと、レフがそっと抱き締めてくれた。本当に最近涙腺が緩くて良くない。
此処にいる誰もがモルディーヌより怒りを抱く悲しい過去の関係者だ。レフにすがり付いて甘えない様に自分を叱咤した。
視線を感じて顔を上げると、ゲオルグがその様子を複雑な顔で見返していた。
「儂の可愛い弟子が、儂らの天使が・・・あんな若造に、っくぅ」
「いやいや、今そういう事言います!?」
オッカムがツッコんだ。ですよね。
さっきまで悲しい過去を語っていた人が真面目な雰囲気をぶち壊しにかかり、びっくりしてモルディーヌが堪えてた涙もキレイに引っ込んだ。
「おい、若造!儂の大事な弟子は、まだ嫁にはやらんぞ!!」
「どんな手を使っても近いうちにモルディーヌは俺の嫁に頂きますので、ゲオルグ医師は覚悟してお待ち下さい」
またレフが、しれっと真顔で返すからたちが悪い。
何で義父VS婿候補みたいになっているのか謎過ぎる。
しかも何故近いうちに結婚するみたいな話になっているのかもわからない。
どんな手を使ってもって何だ。恐いわ!
「ちょ、ちょっと、何を先生に言ってるのよ!?ま、まだ貴方と結婚するなんて私は一言も言ってないわよ!?」
「そ、そうだよな?モルに結婚はまだ早いよな!なっ!」
慌てて止めに入ると、ゲオルグがホッとした様に頷いた。が、そんな空気をぶち破るのがレフだ。
「相思相愛と分かった今、俺が君をみすみす逃がすわけない。まだって事は俺の努力次第なんだろ?絶対に口説き落とすからな」
そう言いながら端整な顔を寄せられる。
口説き落とすんじゃなくて、口づけを落としそうです。
こんな人前で何をするんだと必死で顔を背けた。
モルディーヌに好かれていると分かってから手が早すぎないかと抗議したいが、レフの接近する麗しい顔と艶めいた声に心臓が痛すぎて今は無理だ。
「ふぇ、 近いわよ!?貴方心臓に悪いのよ、恥ずかしいし、ド、ドキドキするから、止めてよぉぅ、」
恥ずかし過ぎて声が消え入りそうになる。
チラッと見上げたら、レフは目元を片手で覆って「可愛い過ぎてヤバい」とか呟いている。
ゲオルグは涙目になって「儂のモルが若造と相思相愛!?」と呻いていた。
何なんだろうこの人達。真面目な話どこいった状態だ。
オッカムとキース、兵士等からは生温かい目で見られていた。恥ずかしすぎる!
そして、すっかり忘れ去られていた豚が鳴いた。
「くそがっ!!本当に貴様ら何なんだ!?わしを馬鹿にしておるのか!?」
「え?ずっと馬鹿にしてるけど?どうした、ブタ野郎?」
「ぶぴゃっ!?」
オッカムが良い笑顔で毒吐き、ついでとばかりにブロメル伯爵の頬を一発殴っていた。わぁお。
さっきからちょいちょい思っていたが、オッカムは本来口が悪く乱暴ぎみなのだろうか。
さらに横ではニコニコしながらナイフを構えるキースが、子供に言い聞かせるようにブロメル伯爵に説明する。
「ゲオルグ医師の持つ誓約書により父がブタメル伯爵に嵌められた冤罪である事と、ブタメル伯爵が黒幕、馬鹿息子アルマンが実行犯である事は動かない事実となりました。あと、何か言うべき悪事はありますか?」
「ぅぐぐ、貴様さえいなければ・・・」
ブロメル伯爵の唸り声を聞いたゲオルグがドロリと険を孕んだ目差しを向けた。また既視感。
「おい。お前のセリフじゃないだろう?それはグレアムのお前に対するセリフだわ。もしくは、此処にいる親を失った息子達のな―――――これで、グレアムの願いを果たせる。お前に逃げ場はない」
明らかな劣勢。
自分がもう罪から逃れられないと、漸く理解したブロメル伯爵が喚き出した。
「―――――――っわ、わしはまだ、し、死にたくない!!死刑は嫌だ!!!」
「ふふっ、すぐに死刑だなんて、ブタメル伯爵。貴方は簡単に殺さないから大丈夫ですよ?」
爽やかな笑みでキースがナイフを振り下ろした。
「ぶぎゃっあ、!?――――あ゛ぁぐぅ」
素早くレフの胸に抱き込まれ視界を塞がれたが、僅かに見えてしまった。
ブロメル伯爵の手の指らしきものが一本飛んでいる所を。
「大丈夫です。止血しながらやれば、後19本楽し――――――」
キースが話す途中で耳も塞がれた。
遠くでレフが誰かに声をかけているのが耳に伝わる振動で解る。
視覚と聴覚が塞がれ、段々と自分の心音が耳に響く音しか聞こえなくなると、モルディーヌの頭の中は真っ白になった。
ぐるぐると渦を巻くように引き込まれる。
それは良くない感情。
渦の中にあるのは、あのドロリとしたもの。
ゲオルグの瞳だけではなくブロメル伯爵やキース達。今だけでなく、もっと昔にもたくさん見た。
そして、自分にも見つけてしまった。
酷く黒く粘着質なそれ。
あの頃は、それに怯えて逃げて泣いて・・・
「――――っモルディーヌ!?」
気が付いたら別室に運ばれていた。
何度か呼ばれていたらしい。
心配そうに瞬くレフの瞳がモルディーヌを覗き込んでいた。
「大丈夫、じゃ、ないな」
小さく息を吐かれた。
ビクッと身体を揺らしてしまい、レフが困った顔になった。
「さっきのが恐かったか?」
首を振ると、困惑された。
「恐かったんじゃないのか?」
「―――――っ、ちが、うわ」
泣くのを我慢しているせいで上手く喋れない。
駄目だ。今の感情で泣いてはいけない。
こんな良くないものを出してはいけない。
今はレフしかいないから、感化される人はいない。
だけど駄目、だからこそ駄目だ。
だって、そんな事したら、
「うん?」
「わ、私、ひど、い人間みたひぃ」
「ん?」
「あいづ、ブロメ、ルは、伯じゃぐ嫌いで、もっとぐるしめって、死んじゃえって」
「ああ、それで。今は周りに人はいない」
「今、なぃだら、だめっ。あなだに嫌わぢゃう!」
遂に堪えきれず涙腺が崩壊した。
想像してしまった。レフに失望されて、嫌われて離れて行かれてしまう。
レフが狼狽える声が聞こえるが、それどころではない。
「・・・は?待て、どうしてそうなった?」
「だっで、ひっぐ、わだしが強いから好きなんでしょぅ?負の感じょお出し、ぇ、泣ひだら嫌われぢゃふぅ、うっ」
「俺に・・・嫌われる、から?」
「だめらの。いやぁ、わたじを、ひっ、ひどりに、ひないでぇ、みんな、わだしを、おぃてっちゃぅの?」
レフに甘えたい。でも駄目だ。
今すがって拒絶されたら立ち直れないかもしれない。
こんな自分を見せたくなくて、手の甲で涙を拭い顔を俯ける。
「モルディーヌ!」
「ふぇっ、」
珍しく荒らげた声で、手首をきつく掴んで顔を上げさせられた。
いつもの柔らかさも優しさもない、厳しく怒りを湛えた瞳に怯えてしまう。
ビクッと震えてしまったのが分かったからか、レフの瞳に苛立ちが加わった。
「ご、ごめんなひゃ」
「・・・俺が嫌う?」
「すぐ、泣ぎやむ、からぁ。おごらないでぇ」
「はぁーーーーーっ、くそっ」
苛立つレフの悪態に、呆れられてしまったのかとビクビクしてしまう。
「君は馬鹿か?いや、俺が悪いのか?確かにはっきりとは、だが、―――――こんな時も可愛いとかズルいだろ。怒りづらいな」
「っへ?」
急に怒気が収まり「あー」とか「うー」とか唸るレフに驚き、だんだん嗚咽が治まってきた。
頃合いを見計らったかの様に涙を指で拭われ、両頬を挟まれた。
視界いっぱいに綺麗な顔が見えて、自分の酷い泣き面を隠したくて堪らないが、顔をビクとも動かせずただただレフを見詰めるしかない。
レフの瞳から苛立ちや怒りは消え、真剣な色がモルディーヌを射していた。
「俺は、モルディーヌが好きだ。簡単に嫌いになると思われるなど心外だ。君相手でも流石に怒る、いや君だからこそ怒るぞ。強さに惹かれたのは切っ掛けで、優しいところも可愛いところも度胸があるところも好きだし、俺を頼って俺の前で泣いてるところも好きだ。笑いかけてくれると可憐な天使にしか見えないし、俺は君に触れて抱き締められるだけで幸せで、君の全てが愛おしい。モルディーヌがいなければこの世界で生きていけないと思っている」
「ぁ、え?な、何を」
だいぶ予想外の告白をされた。
「何度でも言うが、俺の愛は重いぞ。君をひとりにも置いていったりもしない。今更俺を嫌がっても逃がすつもりはないからな」
真剣な無表情。
私が彼の事情を全て知らない様に、彼も私の事情を全て知らない。
たぶん、レフに比べたら大した事ないだろう事情。
何に不安がっているか漏れた声から何となくを咄嗟に判断して答えてくれている。
今、必要だと、しなければと思ったから?
「ふふふっ、私と同じだわ」
モルディーヌの笑みに安堵したのか、レフも微かに笑みを浮かべ、
――――――ゆっくりと唇が重なった。
レフとモルさんが難しい。
スッキリ終われる様に頑張ります。