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42 10年前の友人  ゲオルグside

読んで下さりありがとうございます!


いきなりゲオルグとグレアムの友情と

ブロメルのクソ野郎な所をぶちこみました!!

この話が必要か・・・

ただおじさんの悲しい友情が書いてみたかったんです。

書いてて辛かった。


※ブロメルが嫌いな方は飛ばして下さい

回想話なので余りストーリーに支障はありません



 

 10年前。


 独立したゲオルグが王都中区画の南端に治療院を開いて随分経つ頃だ。ゲオルグの腕が良いとの評判と親身でお人好しな性格もあり、既にそこそこ繁盛していた。

 医師として日々治療院で働くゲオルグには休みなどあまりない。

 しかし、そんな事苦にならないくらいこの仕事が好きだった。

 たまの仕事終わりに友人と飲みに行ければ充分幸せだったのだ。


「やぁ、ゲオルグ!今日はわたしの方が早かったみたいですね、お仕事お疲れ様です」

「お前が早すぎるんじゃないかい?グレアム副班長殿は暇なのか?」


 行きつけの酒場に入るなり声を掛けられて向くと、王都にある学生時代からの腐れ縁であるグレアム・ラットゥールが此方に手を振って合図してきた。

 お互いそこそこの良家出身でお貴族様同士みたいな建前や婉曲な言い回しをしないのと、何だかんだ馬があったので出会って直ぐに打ち解けた。いつの間にかこんなに長い付き合いになっていた訳だが、何十年も友人やってるのはグレアムぐらいかもしれない。

 軽口を叩きながらグレアムの向かいの席に座り、ウェイターに酒を頼んだ。直ぐに酒が運ばれてくるのを受けとるなり、グレアムがふざけて笑い出す。


「フフッ、ゲオルグに早く会いたくて駆け付けたと言うのに酷い友人ですね。学生時代からの付き合いだが相変わらず連れない事を言う」


 肩を竦めたグレアムに顰めっ面を返し、テーブルにあるグレアムのつまみを奪ってやった。


「気色悪い言い方をするな!儂はお前みたいな野郎より綺麗な姉ちゃんと飲みたいわ!」

「フフッ、冗談ですよ。私は綺麗な女性より気心知れた貴方と飲みたいです。それに、わたしは家族一筋ですから・・・」


 へらへら笑っていたグレアムの表情が急に沈んだので、訝しく思い眉をひそめて問うた。


「どうした?」

「最近、妻の調子が良くないんですよ。息子のキースは隣国に出てますし、娘のアンにばかり家を任せてしまって―――――私は、父親失格かもしれませんね」


 項垂れたグレアムの肩を叩いてやる。

 ずっと独り身のゲオルグと違い、グレアムには妻子がいた。

 20程前に上司の紹介で結婚した友人の妻は生来丈夫ではなく、ちょっとした事で体調を崩しがちだった。

 息子と娘は随分会ってないが、幼少期から変わらず成長していれば中々に綺麗な賢い子に育っているだろう。


「俺が診てやろうか?」

「・・・いえ、わたしは王宮勤めですので、一緒に暮らす家族も王宮勤めの医師に診てもらっています。腕の良い貴方に診てもらいたいのは山々ですが、元王宮医師のゲオルグに診てもらった事が知れたら要らぬ確執が生まれます」

「ああ、そうだったな。今の王宮医師だって腕は確かだろうよ」


 何ともしがたい歯痒さに奥歯を噛み締める。


「フフッ、そんな顔しないで下さい。患者に優劣をつけて高給取りの王宮医師より、今の様にどんな患者でも差別なくどんどん診られる方が良くて王宮勤めを辞めたのでしょう?」

「ああ。だからこそ、お前の嫁さんだって診てやりたいと、儂が治せるなら治してやりたいと思うが。くそっ!・・・王宮は、難しいな」


 王宮勤めのままでも、辞めた後でも思うようにはいかない。

 王宮医師のままであればグレアムの嫁を自分が助けられただろうかと考えてしまう。仮に王宮医師のままでも助けられるかは診てみないと何とも言えないし、今の王宮医師とて無能ではないからグレアムの嫁を助けられるだろう。

 そんな事分かっている。過ぎたことを後悔しても何にもならない。

 ただ、友人の為に何かしてやりたい。やるせない思いが渦巻くだけだった。


「わたしは貴方の決断は間違ってないと思いますよ。妻だってその内良くなるでしょうし、気持ちだけで充分です。ありがとう、ゲオルグ」

「グレアム、何かあったら儂を呼ぶんだ」

「ええ。何かあったら一番に頼らせてもらいます」


 友人はいつもの様にへらへらと笑っていた。






 次に会う時、友人は罪人として牢屋に入っており、面会するにも一苦労だった。

 王宮勤めを反発から揉めて辞したゲオルグが面会に漕ぎ着けるには正規のルートでは難しく、裏技を使い誰か解らぬ様にひっそりと忍び込まねばたどり着けなかったのだ。

 やっと会えた友人は少し見ぬ間にすっかり草臥れ、ぼろぼろだった。

 殴られ腫れた顔。拷問でもされたのか、逃亡防止の為か不明だが足の関節や指がおかしな事になっていた。

 手だけは無事の様だったが、手錠が掛けられ鎖に繋がっていた。


「・・・おい。大丈夫、じゃないな。グレアム!何でお前が捕まったんだ!?しかも、上司であるマクビウェル一家暗殺だと?」

「やぁ、来てくれたのですね、ゲオルグ。いいタイミングですよ」


 場違いなぐらい、いつもの様にへらへらとした笑顔を浮かべた友人に、ふつふつと怒りが込み上げる。

 あくまで忍び込んでいるので小声でグレアムを叱咤する。


「は?何呑気な事言ってんだよ!どう考えても冤罪じゃないか!!」

「はい。そのようです」

「何へらへらしてんだよ!冤罪なら晴らせばいいだろう!?」

「それが、嵌められたようでして。上の息がかかっている以上難しいですね」


 グレアムの笑みに諦めが混じっているのがありありと分かる。

 確かに、軍部の縦社会で一番に信頼し頼れる上司は死んでしまった。しかも、自分が殺した事になっているのだ。

 だからと言って、友人が死んで良いわけがない。


「は!?グレアム、諦めるなよ!嫁さんと子供らはどうすんだ!?」

「フフッ、キースは国外で卒業後頑張ってもらうしかないですね。まぁ、18歳にもなる成人した男の子なので、できなきゃ困ります」

「だが、病気の嫁さんと娘は?」


 この問いにはグレアムの顔が曇り、笑みが消えた。


「一応・・・取り引きを持ち掛けられました」

「は?取り引き?」

「ユリフィス班長の父上であるエイルズベリー辺境伯にわたしが犯人である。と思わせられれば、妻と娘の今後は秘密裏に良いように対処してくれるそうです」

「誰だ。誰がそんな取り引き持ち出した?」


 暫く沈黙が降りた。

 ゲオルグとしては怒りに任せて怒鳴り付けたいが、グレアムはやんわりこうと決めたら譲らない真っ直ぐな性格だ。長年の付き合いで分かりきっている事なので、グレアムが話すのを待つしかない。


「・・・ゲオルグをわたしの一番の友人として頼みがあります」


 ゲオルグが折れないのが分かっているのか躊躇いがちに、しかし真剣な顔でグレアムが口を開いた。

 その言葉に嫌な予感しかしない。


「・・・」

「フフッ、友人の最期の頼みくらい聞いて下さい」

「・・・何だ」


 仕方なく聞く。

 友人から「最期の」とか言われたら無視もできない。


「今から何も言わず、そこの柱の陰に潜んでいてもらえませんか?」

「は?」

「その後、貴方にあるものを預かっていて欲しい。ゲオルグにしか頼めないのです。お願いします」


 要領を得ない頼みにグレアムをじっと見詰める。


「・・・」

「ほら、早く。貴方まで捕まると困ります」

「わかったよ」


 グレアムに急かされ、牢屋の壁にある柱の陰に潜んだ。




 暫くして、奥の通路口から人の話し声と足音が聞こえてくる。

 此方に向かってくる気配にゲオルグは緊張した。

 医師であって、兵士でも隠密でもない一般人相手に何て頼みをするのだと、グレアムに悪態を吐きたいのを堪える。


 向かってくる足音はひとり分。


 足音がグレアムの前辺りで止まった。

「フフッ」と笑うグレアムの声が牢に響いた。


「ごきげんよう、ブロメル伯爵?」

「ふんっ、ラットゥール副班長殿はよろしくないようだ」


 足音の主はブロメル伯爵というらしい。グレアムのいつにない低い声色やブロメル伯爵とやらの返答から仲が良くないのは明白だ。


「ええ。冤罪被せられてご機嫌だったら、聖人かキチガイですね。況してや被せてきた相手にね?」

「ほう、解っておったか」

「むしろ解らないと?」

「罪人として捕らえられた分際で減らず口が!」


 グレアムの馬鹿にした声にブロメル伯爵が怒るのが聞こえるが、怒りたいのはグレアムだろう。誰のせいでグレアムが罪人になったと思っているのだと、硬く拳を握りしめて堪えた。

 アイツ(ブロメル伯爵)が・・・


「取り引きはよろしいのですか?」

「・・・する気になったか?」

「ええ。どのみち貴方の息の掛かった上層部が決定を覆すとは思えませんし、本当に妻子の安全を保障して下さるのなら」


 そう言う事かと歯軋りをしないように奥歯を噛み締めた。

 あのブタ野郎を殴り飛ばしてグレアムを解放してやりたい。だが、そんな事すれば外の見張り兵士にゲオルグごと捕まり、グレアムはもっと酷い目に遭うだろう。

 何も言わずに潜むのは、ゲオルグにとってとても大変な頼まれ事だった。


「ぶははははっ!いい決断だラットゥール副班長。では、」

「その代わり、誓約書を書いていただきたい」

「はぁ?何を」

「わたしに、敬愛する上司マクビウェル班長を暗殺したとエイルズベリー辺境伯に言わせたいのでしょう?」

「そうだ」

「では、誓約書くらい書けますよね?わたしの死後、約束を守って頂けねば困りますので」

「ぐぬっ・・・いいだろう!」

「文書はわたしが書かせて頂きます」

「ふんっ、さっさと書くがいい!!」


 手錠の鎖がじゃらじゃらと鉄格子に当たり、耳障りな音を奏でる。

 暫く音に耐えると、グレアムが書き終わったのか止んだ。


「此方にサインを」

「ぐっ、貴様!これにサインすればわしが犯人であると、」


 どうやらグレアムの書いた文書にはブロメル伯爵に不都合な事が書かれていたらしい。


「ええ。当たり前ではないですか。貴方の罪を被るわたしの方が死罪になる程のハイリスクですので、ブロメル伯爵にも相応に背負って頂かないと納得できません」

「・・・この誓約書をどうするつもりだ!?」

「わたしが処刑される直前まで肌身離さず持ち、その後は信頼のおける者に送ります。貴方がわたしとの約束を守れば開封されずに処分されます。娘が成人する3年後までに、もし約束を違えたら――――――おわかりですよね?」

「誰に送るつもりだ!!本当に信用できるのか!?」

「ええ。処刑直前に教えて差し上げましょう」

「・・・いいだろう」


 偉そうな声で答えたブロメル伯爵がサインをしているであろう紙を滑る音が聞こえた。


「では、妻子をよろしくお願いいたします」

「ふんっ、精々僅かな余生を楽しく過ごすといい!」


 苛立ちからか、怒鳴り散らしながらブロメル伯爵が牢から出ていった。



「ゲオルグ?」



 柱の陰から出たゲオルグは、怒りと悲しみで何を言えば良いのかわからなかった。

 ただ、奥歯を噛み締め友を見詰めた。

 ゲオルグの顔を見たグレアムは、申し訳なさそうな困った笑みを浮かべる。


「すみませんでした」


 呟かれた言葉にカッとなり、慌てて口をつぐむ。

 荒い呼吸を繰り返し、何とか声を潜めて喋る。


「・・・他に、他にも、あっただろ。もっと考えてくれよ――――――くそっ、グレアムの馬鹿が」

「フフッ、ありがとうございます」


 こっちが怒りを抑えて悲しみに耐えているのに、あろう事かグレアムは笑い出した。それも、嬉しそうに。


「何へらへらしてんだ!全然笑えないだろうよ?」

「いえ。自分の為に泣いてくれる人がいるのは嬉しいですね。それが、一番の友人のゲオルグとは・・・ありがとう」


 ハッとして、腕で乱暴に目元を拭う。

 自分ですら友の死の覚悟を覆せないのだと絶望した。


「くそっ、グレアム、あんな野郎のせいで」

「実力主義改革者であるユリフィス班長とわたしを目の敵にしていましたからね。まんまと嵌められたわたしにも落ち度があります」

「そのエイルズベリー辺境伯とやらに本当の事を知らせたら駄目なのか?お前が伝えられなくても、儂なら、」

「駄目です!」


 ゲオルグの声に被せて、いつにない強い口調で咎められた。

 グレアムを呆然と見ると、憎々しげにため息を吐かれた。


「駄目なんですよ。わたしが捕らえられ、信じてくれる部下も多数いました。ですが、エイルズベリー辺境伯の周りにはブロメル伯爵の手の者がいるのか嗅ぎ付けるのか分かりませんが・・・皆、殺されました」

「―――は?嘘だろ?」


 第5部隊は鬼兵士団だ。そうそう遅れを取ったり、簡単に殺られる兵士などいない筈だ。

 ブロメル伯爵は何を使っているんだ。


「本当です。しかも、エイルズベリー辺境伯自身悲しみと怒りでわたしに関する話が通じない。だから、ゲオルグだって例外じゃない。貴方が死んだらわたしが悲しいし困ります」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」

「・・・貴方は、裏から来たのでしょう?」


 グレアムの探るような声に背に冷や汗が伝う。


「ああ。って、まさか、おいっ、預かるって――――」

「つまり、ここに貴方が居た事を知る者はいない。わたしがブロメル伯爵と誓約書を作った事も、わたしがそれを肌身離さず持っている事も、実はそれが友人にもう渡される事も、友人が持ち出して隠しくれる事も、わたしが処刑されても知らぬ顔でいてくれる事も・・・・もし、わたしの死後5年後にでいいんです。家族を確認して、約束が違えられていたら、エイルズベリー辺境伯に渡してくれますか?彼なら何とか奴を引き摺り下ろせるでしょう」

「くそっ、何でお前が、―――――――はぁ、何故、5年後なんだ?アイツ(ブロメル伯爵)には3年って言ったろ?」


 言いかけ、こうと決めたら譲らない真っ直ぐな性格の友に問い直す。


「1、ブロメル伯爵が油断する頃だからです。2、エイルズベリー辺境伯の激怒が少しは落ち着きわたしに関する手紙を受け取って貰えると思われます。この両方ではゲオルグが殺されては意味がない。3、妻子は一応罪人の家族です。秘密裏に移動され、落ち着くにも時間がいるでしょう。これ等の理由から5年後にゲオルグに状況を知らせる様に家族には伝えますので、貴方は治療院にずっと居てください。・・・わたしの最期の頼みです。お願いできますか?」


 牢の鉄格子から手が伸ばされ、誓約書を入れた封をつき出された。

 これを受け取ったら友人の死を受け入れた事になってしまう。

 何とかしたいが自分に何ができるか、どうしたら友を助けられるか、ない頭を捻っても何も浮かばない。

 どうにもならないと、自分ですら友の死を受け入れるのか。


「―――――――っちくしょう!!!」

「ゲオルグ!貴方にしか頼めないんです」

「馬鹿が。こんな馬鹿が、儂の友だなんてな・・・」


 盛大にため息を吐き、歪んでいると自覚していても何とか笑って封を受けとる。

 友の記憶に残る最期の自分を泣き顔にしたくない。


「ありがとうございます。我が一生で最高の親友ゲオルグ」

「ああ。儂の一生でも最高な親友はお前だけだろうよ、グレアム」

「フフッ、後は頼みました」


 もう会うことのできない親友と握手を交わして別れた。






次回でやっとブロメルを潰せる予定です!

ひゃっほーう!!

書くのを頑張ります。


台風の影響で家が停電中さらに電波が無いため

明日更新できるかは電波次第ですので

よろしくお願いいたします!



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