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40 伯爵と息子の罪

読んでいただきありがとうございます


今回はやたらと暴言吐く奴がいます。

 

 1時間程の仮眠後。


 目覚めたモルディーヌは、一通りの処理仕事に区切りがついたレフ達に連れられてブロメル伯爵を捕らえている部屋に向かった。

 部屋に入ると、でっぷりとした身体をギラギラと飾り付けた格好のままで縛られたブロメル伯爵が、部屋の真ん中に設置されたソファにふてぶてしく鎮座していた。

 捕まった罪人の筈なのにとても偉そうだ。

 モルディーヌとレフが部屋に入るのに気付いたブロメル伯爵が顔を此方に向けて不快そうにしかめた。


「さて、ブロメル。何か言い訳はあるか?」


 淡々とした声でレフが聞くと、ブロメル伯爵はレフには目もくれずモルディーヌを睨み付けて怒鳴り出す。


「くそっ、娘!やはり貴様の色で、小僧を籠絡しておるではないか!?ふしだらな売女め!!」


 え?開口一番それとかアホっぽい。


「「「は?」」」


 男性陣の声が揃った。仲良しだね。

 オッカムがわかりやすく驚いた顔でモルディーヌとブロメル伯爵を交互に、レフとキースは嫌悪感丸出しでブロメル伯爵を見ている。


 わかる。この伯爵すっごく悪い奴だし腹立つわよね。

 仕返ししてやりたいもの。

 10年前の件でキースさんも恨みがあるだろうし。


 突然ある事に気付き、閃いた。

 ブロメル伯爵の前に出て、他の人に自分の顔が見えない様にしてみる。

 さらに、目に力を入れながらブロメル伯爵をしかと見据えて口を開く。


「あの時は余計な事言わないように黙ってたけど、籠絡なんてしてません!!大体、捕まえた私が逃げないようにした下着姿を大した事ないみたいに鼻で笑ったの自分でしょ!?本当にムカつく人ね!」


 後ろで「下着姿?」とレフの低く恐ろしげな声と、宥めるオッカムの声が聞こえたが今は無視。振り返らないように気を付けた。


「その娼婦の様な服で言い訳するな!!似合っとらんぞ、あばずれ娘!」


 何て口の悪いじいさんだ。

 しかし、頭に血が上ってくれた方が口が回るらしい。


「これはアンさんのドレスだもの!似合わなくて悪かったですね!!これくらいの肌見せで何を言ってるのよ?ちゃんと夜会出てイブニングドレス見た事あるの?服の趣味悪すぎて淑女に相手された事無かったのならごめんなさいね!!」


 ブロメル伯爵が血管切れそうなくらい顔を真っ赤にして怒った。よしよし。


「馬鹿にするな!わしを誰だと思っておる!?名門ブロメル伯爵家の現当主だぞ!!」

「だから?私だって後3年経てば遺産相続して一時イシュタトン伯爵位を継げますけど?」


 なるべく小馬鹿にしたように鼻で笑って見せる。


「ふんっ、お前に息子が生まれるまでだろ?その前にわしがまた腹でも蹴って産めなくしてやる!!」

「性根が腐ってるわね!貴方がこの人(レフ)馬鹿にしたから言い返しただけで蹴るなんて最低!今も痕になってるのよ!この腫れた頬打った分も覚悟しなさいよ!!」


 やや呆れ困惑したレフが手でモルディーヌの肩をつかみ、制止しようとしてきた。


「おい、待て。何の話だ?」


 と聞かれたが、今良いところなのでレフだけを一瞥だけして無かった事にした。

 たぶんレフは今ので気付いた。肩から手が離れたので理解したのだとホッとした。

 レフなら見られても大丈夫だ。

 モルディーヌの目に力が入り、やや潤んでいるのを。

 ブロメル伯爵家本邸に囚われて居た時に気付いたが、ブロメル伯爵はカッとした時にはベラベラと喋る様だった。

 さらに、10年前の件を自ら喋った時は、モルディーヌがブロメル伯爵に打たれ、痛みに目が潤んでしまっていた時だ。

 涙より効果は薄いが感情を波立たせるくらいならできるのでは?と閃いたのだった。


「大体、自分が用意したハニートラップが失敗したからって、私に当たらないでちょうだい!」

「違う!貴様のせいでアルマンが殺されたからだ!!魔法陣を消しよってからに!」


 やはり、自白効果までとはいかないがよく喋る。


「それこそ違うわよ!!油で魔法陣書くからでしょ!?雨でやたら滑るなって思ってたけど、その時に偶々消しちゃっただけよ。私のせいじゃないわ!!」


 後ろの方で「油の魔法陣!?」とか言っているオッカムの声が聞こえたが無視。もう少しなんで黙っててください。


「偶々消しちゃっただと!?ふざけるな!しかも、贄の分際で逃げおって!わしがこのまま捕まると思うなよ。わし自身は罪を犯してないからな!直ぐに自由になるから覚悟しろ!!」


 ちっ。やはりそこは考えていた様だ。

 しかし殺人や悪魔の儀式だけが罪になる訳ではない。

 それに、過去の罪も・・・


「何を言ってるのよ?罪を犯してない?アルマン・ブロメルを生き返らせる為の悪魔の儀式の贄として私を誘拐して、暴力振るったじゃない!!しかも、ブラットフォード公爵を始末したいって言った時、10年前にユリフィス・マクビウェル殺害の黒幕だって自分で言ってたじゃない!完全に有罪よ!!」


 ビシッと、お行儀悪いが指差してやった。

 さぁ、どうする?と煽るように笑って見せる。


「「「は?」」」


 また揃うとか本当に仲良しさんだ。

 ひそひそと「生き返らせる贄?」とか聞こえてくる。

 ここにきてアルマン伯爵がモルディーヌの後ろにいるレフ達に意識を向けてしまった。ちっ。


 慌てて取り繕い始めたブロメル伯爵にうんざりする。


「そ、そんな事は言っておらん!!貴様が勝手に言っているだけだ!!誘拐だってわしは悪霊どもに脅されただけで悪くない!」


 さっきまでベラベラ喋ってたくせに。

 人を嘘吐き呼ばわりし出すなんて、何て奴だ!


「どうせ直ぐに殺すから私には何言っても良いと思ったんでしょ?」

「ち、違う!誤解を招く事を言うな!!貴様の言葉よりわしの言葉の方が軍部で信用されるに決まっておるからな!」


 いやいや、何回殺すと言われた事か・・・

 ん?意外と殺すとは言われてなかったかも。

 贄とか死体とは言ったけど。

 むむ。意外とやるわね。

 でも、奥の手はある!


「どうかしら?・・・・ここで泣いて良い?」


 振り向いてレフと目を合わせて問う。

 ちょっと卑怯だが自白させて言質を取りたいだろうと思い確認すると、首を横に振られてしまった。えー、駄目か。ちぇっ。


「疲れただろ?後は俺が話すから大丈夫だ」


 後ろから然り気無く――――否。堂々と抱き締められた。

 もはや通常運転でこれですかね。

 常に抱える抱き枕的な?


「貴方が?」

「ブロメル達を捕まえたからな。約束通り順番に、君には俺の事を知ってもらおう。ブロメルにも知られた方が話が進むから聞いててくれ。・・・お前は、その上で言い逃れできるならしてみろ」


 モルディーヌへ向ける優しいレフとの変化が激しく、鋭い瞳をブロメル伯爵へ向けた。


「ふんっ、小僧が何を?」


 レフには怒鳴らない様だ。一応、大臣とか公爵で偉い人だからかもしれないが態度の差に腹が立つ。


「では、まず始めに。ブロメル、お前がイーサンに調べる様に指示した人物、レフ=ルト・マクビウェルは俺だ」


 わお!だいぶ直球だ。

 ブロメル伯爵の顔が面白いくらいポカーンとしている。


「・・・は?ブラットフォードの小僧が?」

「そうだ」

「なっ!?な、何故その名を貴様が騙った!!」


 予想外だったのか、ブロメル伯爵が顔を赤くしたり、青くしたりと忙しそうだ。


「騙った?騙ってなどいない」

「し、しかし、そんな馬鹿な、マクビウェルは全員死んだ筈だ!!」

「生き残りがいた可能性は?」


 淡々としたレフの声と、興奮するブロメル伯爵の声の温度差が凄い。


「ユリフィスも、妻も、子供ふたりも間違いなく死んだ!」

「崖から落ちた馬車の中は空だったのにか?」

「死体は馬車から投げ飛ばされたんだ!」

「では、死体を見たのか?」


 レフの声色は変わらないが、モルディーヌのお腹を抱き締める腕に微かに力がこもる。

 反射的にレフの腕に手を添えて撫でると、強張りが多少弛んだ。


「そ、それは、」

「見なかった。そうだろう?」

「だが、あの高さから、死なないなど有り得ない」

「ああ。即死だった」

「・・・は?」


 まるで、その場で見た様な即答だった。

 ブロメル伯爵もそう思ったのか、理解出来ないと体現する間抜けな表情で口を開けたまま固まっていた。


「馬車に()()()()()ユリフィス・マクビウェルと妻メルローラはな。だが、子供は違う」


 レフの淡々とした声は止まらない。

 初めて聞く情報に、モルディーヌも首を捻る。

 マクビウェル夫妻は馬車に乗っており即死だったのは間違いないらしい。その子供は乗っていなかった?


「ば、馬鹿な!そんな筈ない!!確かに走る馬車には全員乗っていたし、確かに全員死んだとアルマ―――――っ」


 あ。口を滑らした。

 ブロメル伯爵が慌てて口をつぐむが遅い。


「ああ。アルマンが言っていた?息子も乗っていたと?」

「くそっ!違う!!」


 レフの役職や身分に構っていられなくなったのか、ブロメル伯爵は怒鳴って悪態を吐き出した。


「そうだ。違う」

「・・・あ、ああ。アルマンはそんなこと、」


 何故か同意したレフに、ポカンとしたブロメル伯爵。が、直ぐに我に返ったのか、もごもごと喋ろうとしたところでレフに遮られた。


「息子は切り殺したと言わなかったか?」

「なっ!?」


 ブロメル伯爵の顔が強張り、白くなっていく。


「潰れた空馬車に、転がった家族の死体。何故か生きていた息子はアルマンが左肩から上半身を切り裂き殺した。そうだろう?」


 レフの淡々とした声にモルディーヌもハッとした。

 先程見た、記憶に新しい左肩から胸や背中に駆けて走る傷痕。

 そう言う事だったのか、と悲しくなる。撫でていたレフの腕をきゅっと掴み、頭をレフの胸元へ擦り付ける。

 モルディーヌを抱き込む様に腕が胸下で締まり、頭上で柔らかい息が吐き出された。


「な、何故それを・・・死体は」

「息子を切り裂いた後、死体は消えた?」

「何故、だ?」


 ブロメル伯爵の声は震えていた。

 その呟きは、何故死体が消えたかではなく、何故死体が消えた事をレフが知っているか確認したくて呟かれたのだろう。


「俺のフルネームを知っている奴は国王陛下や魔術師ぐらいだから気付かなかったか?皆、レフ・フォンデューク・ブラットフォードだと思っているだろうからな」


 因みにフォンデュークの《フォン》はイノンド王国内でも重要な役職に就く爵位に付けられる。ブラットフォード公爵家は王家の次に力を持つと言っても過言ではない五大魔術公爵家のひとつなので公爵(デューク)の前に《フォン》が尽く。


 ブロメル伯爵を見ると、目を丸くして固まっていた。

 きっとブロメル伯爵もレフの言葉通り、その名前だと思っていたのだろう。

 それすら知らないモルディーヌからしたら何とも言えない気持ちになる。


「は?ち、違うのか!?」

「長いからと、国王陛下ですら略すからな。俺の今のフルネームはレフィハルト・フォンデューク・ブラットフォードだ」


 国王陛下略しちゃうの!?

 ・・・それ、愛称では?

 え?国王陛下に愛称で呼ばれてるの?


 ブロメル伯爵が体をぶるぶる震わせて口を開けている、


「レ、レフィハルト!?」

「ああ。10年前、当時13歳の息子の名は、レフィハルト・マクビウェル。まだ幼い妹からレフルトお兄様と呼ばれていたんだ」


 ああ。それでレフ=ルトと名乗ったのね。

 確かに嘘ではない。騙ってはいないわね。

 ・・・当時13歳って事は、今23歳?

 やっぱり、軍務大臣にしては若すぎない!?


 レフはそう言いながらモルディーヌを離すと、上の服を脱いだ。その身体を見たブロメル伯爵が驚愕に目を見開き、口をぱくぱくと震わせた。


「う、嘘だ・・・そんな」


 レフの身体には、モルディーヌも先程見た傷痕。

 左肩から心臓に駆けて走る引き裂いた痕があった。

 それは、アルマン・ブロメルが切り裂いたとされる、当時13歳のレフィハルト・マクビウェルの傷痕と一致する。


「騙ってなどないだろ?」


 レフがどこか歪んだ笑みを口許に浮かべた。



レフの正体ver2です。


次回もまだまだブロメルでます。

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