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33 悪魔の儀式まで  アンside

やっと脱監禁です!!


前半アンside

後半モルside


ついにアイツが初登場。

 

 ブロメル伯爵家の古めかしいが力強く荘厳な造りの屋敷。


 屋敷の主であるブロメル伯爵は、でっぷりと突き出た腹を揺らしながらイライラと室内を歩き回っていた。

 部屋の扉脇にアンが控える様に立ち、奥の暗がりに潜む男とブロメル伯爵のやり取りを聞いていた。


 アルマン・ブロメルが死ぬ前に行おうとしていた儀式。


 13人もの力を持つ贄の首を使う悪魔の儀式。

 それは、この男が現れてから始まったのだ。

 アンに悪霊(アンシーリーコート)である赤帽子(レッドキャップ)を憑けたブロメル伯爵の馬鹿息子アルマン。この男に何を唆されたのか、アルマンはとり憑かれた様に新たな悪霊の儀式の準備をし出した。

 アンは3年前にイーサンへ売り渡されたが、赤帽子(レッドキャップ)の契約者であるアルマンの命令には逆らえず、度々アルマンが贄を狩るのを手伝わされていた。

 それが突然、4日前の夜にアルマンとの契約が切れたのを感じた。赤帽子(レッドキャップ)が自由を悦び、殺戮衝動を抑えるのが大変になったのだ。その後、イーサンからアルマンが連続殺人鬼首なし紳士(デュラハン)に殺されたと聞かされた。

 連続殺人鬼首なし紳士(デュラハン)は贄を狩るアルマンの筈なのに可笑しな話であった。

 しかし、兄であるキースがイーサンに依頼を受けたのを聞き、よく分からないがアルマンの死体を見た少女を殺す手伝いをする事にした。唯一の家族である兄キースを助けなくてはと思ったのだ。


 目撃者である少女は、不思議な事に中々死ななかった。

 赤帽子(レッドキャップ)の殺戮衝動に飲まれたら最後、アルマン亡き状態ではアンは自我を失う。なので、血を見ない為に直接少女を殺せず、ナイフを投げては避けられ、馬車に突き飛ばしては助けられ、キースに襲われては2階から飛び降り、またナイフを投げたら邪魔されキースに当たってしまった。あの後殺戮衝動を抑えるのに苦労した。

 少女は何て強運の持ち主なのだろうと思う。

 助けてくれる者もいて羨ましい。

 アンを目の前にしても呑気に笑う不思議な少女。

 お陰で、本当はもっと痛め付けなければいけなかったが、何故かできなかった。幸いな事に、この屋敷にいる者でアン以外に少女が普通の令嬢らしくないのを知る者はいない。あの姿にした事で納得してくれる。

 しかし、少女の強運も終わりだろうか。可哀想に。

 アルマン亡き今、儀式は執念深いブロメル伯爵に引き継がれた。この暗がりに潜む男にアルマンを甦らす為と唆されて。

 今、赤帽子(レッドキャップ)の殺戮衝動はアンの精神力で抑える他ない。しかし、何故かこの不気味な男の力に引っ張られて、アルマンの様に契約者でもないのに逆らうことが難しい。

 正直、これから行われる儀式でアルマンを復活などさせたくないから少女を逃がしてあげたいと思う自分がいる。

 それを読んだ様に男の声がアンの耳に入る。


伯爵(ロード)。何者かが屋敷を出入りしたようですよ』


 暗がりに潜む男が何処から発したのか分からない、気味の悪い声でブロメル伯爵に話しかけた。

 アンも空気の流れが変わったのには気付いていた。普通の人間には察知できない程の僅かな変化。

 ただ、慣れ親しんだものを感じたので気付かなかったフリをしたのだ。


 キース兄さんが、無事に動いている?

 ナイフが刺さった傷は?

 確かにお嬢さんと話した時に何かを言いかけていたけど、あの場で聞くとこの男に知られる可能性があったのよ。

 何があったのかしら。キース兄さんはお嬢さんを助けようとしている?


 アンの中で疑問が渦巻く。

 男の言葉にブロメル伯爵がイライラと動かしていた足を止めて振り返る。


「何だと?誰が、――――贄は?贄は部屋に居るのか?」

『はい、贄は部屋から出ずに居るようです。侵入者は彼女の仲間ですかね?くくくっ、儀式を邪魔されないといいですね?』


 慌てるブロメル伯爵を面白がる様に男が笑った。

 気味の悪い声にブロメル伯爵の顔色が悪くなり、急に怒鳴り出した。


「くそがっ、どうせブラットフォードの手の者だろう!アルマンを甦らす邪魔はさせん!!時間には早いが、赤帽子(レッドキャップ)と一緒に贄の娘を儀式の場所まで移動させるぞ!おいっ、赤帽子(レッドキャップ)は馬車に娘を移動させろ!!」

「・・・はい、伯爵」


 アンは赤帽子(レッドキャップ)と呼ばれるのを不快に思いながらも大人しく頷き、ゆっくりと部屋を出て行こうとした。

 その耳に、暗がりから不気味な男の声が響き足を止める。


『馬車を、わたしの馬で引きましょうか?妖精界を通れば、そのブラットフォードとやらでも簡単に追い付けませんよ』


 顔が見えたらニヤリと笑っていそうな声で男が提案をした。

 男の馬を想像したのだろう。ブロメル伯爵が青くなった顔で視線をさ迷わせて考え込む様子を、アンは冷めた目で眺めながら返事を待った。


「た、確かにあやつの人間の部下は連れ込めぬが、ブラットフォードは魔術師だぞ?」

『魔術師とて所詮は人間です。普通の人間と違い妖精界で迷いはしませんが、我らの様に自由に動ける訳がない』


 確かに、魔術師とは言えそうであろう。

 アンとて赤帽子(レッドキャップ)が憑いているので迷う事は無いが、好きなところを自由に出入り出来る訳ではない。

 妖精界にも力関係や相性がある。悪霊(アンシーリーコート)でも赤帽子(レッドキャップ)より力が強く容赦しない者には酷い目に遭わされるし、良い妖精(シーリーコート)からは疎まれていて通れない道がある。


 ブロメル伯爵は男の言葉に青い顔のまま頷き、アンに手を振って支度するように指示を出した。

 アンはゆっくりと扉を通りながらチラリと暗がりの男を見た。


「そうか。で、では、馬車はお前の馬に引かせよう。わしを含め3人乗るから御者はお前がしろよ!」

『ええ、伯爵。儀式の為に協力は惜しみませんよ。わたしとコシュタ・バワー(首なし馬の馬車)にお任せ下さい』


 暗がりから男が姿を現す。

 立派な紳士服に身を包んだ優雅な身のこなしの背の高い男である。

 ただし、首から上が無い。

 本物の悪霊首なし紳士(デュラハン)だ。


 この首なし紳士(デュラハン)が、ブロメル伯爵が最後の贄としてあの少女を選んだと知った昨日。何故かギリギリまで生かせと言い出した。

 さらに、アンが少女を拐いやすいように妖精界を繋ぐ手助けまでしてきたのだ。







 モルディーヌは移動する馬車に揺られながら周りを窺う。


 馬車に同乗しているブロメル伯爵は向かいの席に幅のある体躯を押し込め、苛立った様な怯えた様な顔で座っている。暑いのか冷や汗なのか髪が湿っていて馬車の中が汗臭い。

 モルディーヌの左横に座るアンは何の感情も見せず馬車の外を眺めている。アンからは身動ぎする度に良い匂いがするので、ブロメル伯爵には外に出ていただきたい。

 同乗者ふたりは、モルディーヌがブロメル伯爵に打たれ腫れた頬でぐったりしているので逃げだされる警戒をあまりしていなさそうだった。だが、馬車に乗る前に伯爵が煩く、念のためか格好はそのままで(一応ショールだけはアンが掛けてくれた)靴も脱がされ裸足だった。

 正直、夕刻になる前に連れ出されるとは思わなかった。馬車に乗り込む前に空を見た陽の高さから朝日が昇ってすぐだろう。

 今は妖精界を通っているので時間は分からない。

 そう、本物のコシュタ・バワーによって妖精界を移動中なのだ。首なし馬を悪霊首なし紳士(デュラハン)が御者として操っている。ホラーな上に奴等に前が見えているか気になるところだ。事故しそう。

 どうやって、レフ達に知らせれば良いのか分からない。いつ逃げ出せば良いのかも分からない。

 レフがモルディーヌの父と昔話した中で、幼いモルディーヌはよく妖精界を出入りしていた様だ。しかし、幼かったせいか妖精に関する記憶が無い上に、父が亡くなってからそんな事をした事もない。

 そんな状態では逃げ出しても、妖精メリュジーヌの血族とは言え妖精界をさ迷って無事に出られるか分からない。

 やはり、儀式の場所に着くのを待ってから逃げ出した方が良いのか。それとも、儀式を人間界でする保障も無いのだから、隙を見てさっさと逃げ出すべきか。


「もうすぐ着きますよ」


 急にアンが呟いた言葉にギョッとした。もう?と言う気持ちと、逃げる事を考えていたのがバレたのかと思ったのだ。だが、何かが違う気がする。


 何だか、薄々思ってたけど。

 ひょっとして。

 アンさんは然り気無く情報をくれて、私が逃げるタイミングを図れるようにしてくれてる?

 でも、何で?


 アンはモルディーヌやブロメル伯爵には見向きもせず、先程と変わらず外を眺めながら口をまた開く。


「妖精界を上手く通っている様なので、丁度人間界の夕刻に儀式の場所に出そうです」

「そうか」


 満足そうに頷きながらブロメル伯爵が安堵の息を吐いていた。

 不気味な馬車から早く降りたいのだろう。

 モルディーヌとしても、ブロメル伯爵のせいで臭い馬車からは早く降りたい。むしろ、ブロメル伯爵だけ降ろして良い匂いがするアンと帰りたい。


「着いた様です。やっと妖精界から出ますよ」


 アンの言葉にハッとして馬車の窓から外を見ると、視界に白いものが過った。まさか!?



 その時、大きく馬車が揺れて横向きに倒れた。



 モルディーヌは衝撃で、強か肩を打ち付け悲鳴を上げながら、アンが座っていた方に倒れ込む。

 力が入ったせいか、キースによって結び直された縄がキレイに解けていた。急いで下敷きにしてしまったアンの上からどき、馬車の中を見る。

 向かいではブロメル伯爵が頭を打ったのか、額から血を流して呻いていた。

 アンも、割れた窓ガラスで手を切ったのか血を流して倒れていた。


「アンさん!」


 アンの肩を揺すりながら声をかけ、呻くアンがぼんやりと目を瞬く様子を見てモルディーヌは咄嗟に手を離した。


 目がおかしい!


 チョコレート色だった瞳が、赤黒く血走り瞳孔が開いていた。


「・・・赤帽子(レッドキャップ)?」


 モルディーヌは慌てて口を手で塞ぎ、アンから目を離さずに後退ると馬車の床だった所に背が当たった。

 視界の上端に見える馬車の扉のハンドルをそっと掴み上に押し上げると、新鮮な空気が馬車の中に入り込む。

 アンは不思議そうに血の流れる自分の手と、ブロメル伯爵の額の血を見ていた。

 その隙にモルディーヌが上にあるドア壁に手をかけて力一杯這い上がった瞬間。


 アンの血走った目の焦点がモルディーヌに合う。





脱ブロメル臭!!(ノ`△´)ノ



読んで頂きありがとうございます♪

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