30 暴走上司と部下 オッカムside
ひたすらレフとオッカムが
イーサンの生死を廻った
攻防戦をします(ノ`△´)ノ
「レフ殿、ストーーーップ!!!待って、タイム!ターーーイム&ストーーーーーーップ!!!!マジで死んじゃいますから!話聞けなくなるんで、落ち着いて下い!!!モルディーヌ嬢の為に!」
モルディーヌと聞いた瞬間ピタリと止まった上司を見て、オッカムは漸く安堵の息を吐いた。
「むしろ、ソイツ・・・まだ生きてます?」
目の前の光景に頭が痛くなる。
いや、多少予想はしていたが、予想以上に酷い。
オッカムはサムと一緒に作戦通り証拠品を探りに行き、見付けたので報告の為に別の仕事があるサムとは別れて上司であるレフの家に帰った。
が、そこは惨劇が繰り広げられていた。
顔を見ても誰か判別できない程血塗れで腫れ上がった酷い有り様。恐らく元はイーサン・スクラープの顔だったであろう男が床に転がっていた。
無表情のレフが容赦なくイーサンらしき男の腹を蹴ると「ぐぅっ!?」って呻き声を上げた。
「あ。生きてますね」
「・・・生きてたか」
おう。この人マジで殺す気だったな。
何で声が残念そうなんだ!?舌打ちした!無表情こわっ!
モルディーヌ嬢の前ではこんなヤバい感じ出さないけど、軍で働く兵士達からしたらこっちが通常運転だよな~。
無表情の鉄仮面、血も涙もない冷血人間。
全く興味を示さず淡々と処理してるか、多少眉を動かして不愉快そうに顔色ひとつ変えずに切り捨てるか。あれ?どっちも似たようなもんか。見た目変わらず無感情か嫌悪感ぐらいの差かな?
また顔もキレイだから超恐いんだよ。
ちょっと慣れたけど、ここ2、3日のモルディーヌ嬢に接する姿が見間違いレベルに別人すぎる。誰だっ!?てなる。
「まあまあ、何があったんですか?予定では、普通にイーサンを捕らえる筈では?」
「モルディーヌが連れてかれた」
「はぁ!?」
マジか!?
あー。それでおキレになられたんすね。
モルディーヌ嬢への愛が日に日に重い気が・・・がんばれモルディーヌ嬢!もはやレフ殿以外の選択肢はないぞ!
君なら大丈夫だ!むしろ君以外無理!!
ん?待てよ。そう言えば、リアンとニーアとか言う使い魔は?
オッカムが首を捻って考えている間、レフはイラついた様子でイーサンを睨んでいた。わぁ~お!また蹴りそう!?
「何かおかしいと思ったんだ。コイツ、話を引き延ばして酒をガバガバ飲んでいたし、嫌に向かいの方を見ていた。直ぐにモルディーヌの危機に気付かなかった自分が赦せん」
「ちょ、ちょっと落ち着きましょう!モルディーヌ嬢が連れてかれたとは?屋敷にはリアンが居たんですよね?」
このままではレフがイーサンを殺してしまうので、執務机に無理矢理座らせた。取り敢えず動くな!目が恐い!
「妖精界の道を使われた。昨夜アン・サットゥルが屋敷に忍び込んでいた時にでも見付けてあったのだろう。リアンの知らせではモルディーヌが窓際の椅子に座る一瞬目を離した間に連れ去られたらしい。追おうにもリアンでは妖精界を通れないから目星を探らせている」
確か以前にレフから聞いた話では、妖精界は時空がねじ曲がっているので普通の人間が入れたとしても出て来られなくなるとか。出られたとしても、運が悪ければ何十年何百年も未来だったり過去だったりするらしい。めちゃめちゃ運が良くて数時間の誤差。
親しい妖精の案内があるか、妖精の血族、悪霊憑きぐらいしかまともに出入りできないヤバい世界の道だ。
「ニーアと言う使い魔は?」
「アン・サットゥルが侵入して連れ去る時、殺意も敵意も害意も無かったから外からの感知が遅れたらしい。遅れて魔力を感じ知らせて来た時には、コイツから聞かされた時とほぼ同時だった」
そう言って手を振り上げようとしたので超高速で執務机の上をスライディングしてレフの手を掴む。おおーいっ!
「ストーーーップ!!今何しようとしやがりました!?駄目ですよ!?」
「・・・手を振ろうかと」
何しれっと抜かしてやがりますか!
この上司は正気を失っちまった!!
マジでモルディーヌ嬢無事でいてくれ!
何かあったらこっちがヤバい!!
うぉーい!何故もう片方も振ろうとしてる!?
「ノォーーゥ!!殴る蹴るよりヤバイから止めて!何まだ振ろうとしてんすか!?魔法の方がヤバイでしょう!?モルディーヌ嬢の居場所吐かせないといけないでしょ!!」
「ちっ、今ニーアに探らせている。コイツに喋る気があると思うか?」
「ちっ、じゃない!!モルディーヌ嬢にチクりますよ?嫌われてもいいんですか?助けに来たのが王子じゃなくて血塗れ大魔王とか全力で逃げられますよ!?」
「・・・嫌だ」
あ。大人しくなった。
急に超素直!?
マジでモルディーヌ嬢大好き過ぎるだろ。
ずっとこの調子でいて頂きたい。切実に。
「で、では、水でもぶっかけて吐かせましょう」
水を取るために掴んでいたレフの手を離した。途端にイーサンにバケツの水をぶっかけた様な水が降り注いだ。この人振りやがりました!
ジロッと見たら不思議そうに無表情で目を瞬き返された。
「何だ?水をかけて良いんだろ?」
「・・・いや、俺が悪かったです。レフ殿はそういう方でした」
「何やらいい気のしない言い方だな。早く吐かせろ。吐かなければ殺して次行くぞ」
うん。
この人イーサンが吐かなきゃちょっと関わっただけの容疑者でも片っ端から殺るかもしれない。
マジで全力で吐かせよう。
「ぅぐっ、げほっ!」
「あ。やっとお目覚めですかイーサン殿、俺に感謝して下さい。この方抑えるの大変だったんですよ?」
「がはっ、な、何だって?」
呻くイーサンの身体を起こし、壁際から引いてきた椅子に座らせた。執務机に座るレフが腫れ上がった目でもよく見えたからか、チラチラと気にして震え出した。うん。お前が悪い!
「モルディーヌ嬢どこに連れ去ったのか喋る気あります?」
「し、知らない!」
ぶるぶる震えてる血塗れたイーサンの顔が青くなるかわりにどす黒くなっていた。早く吐いてくれないとあちらで手を振りそうな方がおります。待てっ。
「ははっ、やだなぁ。知らない?そんなわけ無いでしょう?殺されたいの?」
「お、俺が何故殺されるんだ!!副班長だぞ!こんな事して、こ、この殺人鬼が捕まるだけだぞ!?お前も、軍の駐屯兵長なのに共犯か!?」
コイツ馬鹿だーーーーーーーっ!!
真面目に状況考えろ!ヤバい人いるだろ!
ヤバい人誰か解ってる?
オッカムは必死に視線だけでレフを押し止めた。長くは保てない!
「おや、まだ解ってなかったんですか?町方の民や一介の平兵士ならともかく、イーサン殿は王宮内兵舎所属の第5部隊3班副長ですよね?」
「な、何がだ!?」
マジで気付いてないのかよ!!
ってか、知らないとか!
そんなわけないだろ!?
ちゃんと見てくれ!
「レフ殿も、言ったらさっさと片がついたのでは?」
「気付かない方が悪い」
「まぁ、普通は薄暗い室内でも気付きますよねー。イーサン殿は上司の顔をご存知ですか?」
「は?」
いやー、ボッコボコな顔のオッサンがきょとんとしてても可愛くない。早く話を進めたい。
「まさかイーサン殿は小者過ぎてご存知ない!?上司は3班班長のアルマン・ブロメル以外にもいませんでしたか?いますよね?他班の班長や副隊長、部隊長よりもっと上。近衛兵長や騎士長や魔術師長とか言ったら俺が殺りますよ?」
やっと解ったらしい。イーサンはレフの顔をぶるぶる震えながら凝視していた。どう考えても自分の方が処罰される側だと理解して。
「はっ?う、嘘だ!!」
「イーサン殿は誰に向かって嘘とか言ってるんですか?俺がぶっ殺しちゃいますよ?」
この人絶対に嘘は吐かないからね。と、ニッコリ笑ってオッカムは剣の柄に手をかけて脅した。
イーサンはそれどころでは無いだろう。冷や汗が気持ち悪いぐらい額から流れて血と混ざり大変な状態になっていた。
「ほ、本物!?え、だって8年前からマクビウェルって、え?確かに8年前から軍部に、でも、名前が。5年前には軍の」
「8年前?レフ殿は何をイーサン殿に言ったんですか?」
「本当の事を少しだけ」
「・・・嘘ではない分ズルいですね。まあ良いでしょう。それで、イーサン殿は喋る気になりました?後ろ楯も完璧に潰すから頼れないですし、命乞いするなら今しかないですよ?」
オッカムの言葉に観念したのか、やっとイーサンがボソボソと喋り出した。早く喋れば良かったものを。
「ブ、ブロメル伯爵邸の物置部屋に閉じ込めているら、らしく。明日の宵の刻までは生かされ、に、贄にする?とかで、アンに弱らせるのを任されている筈だから、無事かは知らない。た、頼む、命だけは助けてくれ、く、下さい」
「贄?てっきりレフ殿の正体に気付いたからモルディーヌ嬢を人質にして交渉材料にするのかと思いました」
新たに出てきた話にオッカムは首を捻った。妖精やら魔術に詳しくない身としては訳が解らない。
しかし、レフは眼光鋭くイーサンを睨み付けた。視線で殺りそうだ。
「おい。誰が贄を使って儀式をするんだ?アイツは、アルマン・ブロメルはあの夜、俺が殺した筈だ」
悪い魔女。
アンにした儀式より、大掛かりな悪魔の儀式をする為にアルマン・ブロメルが連続殺人鬼首なし紳士として12人もの人々を殺していた。
13人の首を揃えて呼び出す悪魔の儀式をする為に。
しかも、アルマンはただ無差別に選んで殺していなかった。
精霊や妖精が見える素質のあるものばかり選んで死体の首を集めていたのだ!
ブロメル伯爵の後ろ楯のせいで、犯人がアルマンだと分かっているのに証拠が揃わず軍務大臣側は手が出せない。
だが、あの夜13人目を殺させる訳にいかなかった。儀式が完成してしまう。
そこで、魔術師であるレフが自ら囮に出て、逆にアルマンを返り討ちにした。
これがモルディーヌに言えなかった理由その1。
妖精の血族であるモルディーヌは贄として最適だ。
しかも、アルマンの死体を見た為口封じが必要だった。駐屯所に駆け込まずに逃げていれば狙われる事もなかった。すぐに、見間違いで何も覚えていないフリができたら違ったかもしれない。
オッカムやレフが注意した時にはブロメル側にしっかり認識されてしまっていた。
だから、サムやレフと言う別の餌を撒いた。が、ブロメルのモルディーヌへの執着は強かった。何故か?
「儀式!?儀式なんて、贄って儀式の?、し、知りません!あ、貴方様がブロメル班長を殺った事を知ってるのはあの小娘と、班長の父ブロメル伯爵とその家人ぐらいです」
「モルディーヌはあれがアルマン・ブロメルと知らない。奴の他に魔女がいる筈だ」
「他にって、ブロメル班長が魔女だったんですか!?だから殺されて?くそが、班長のくせに首なし紳士に殺られた事を隠すためじゃなかったのか?なんで、じゃあ、10年前も?」
イーサンが混乱した様に呻いている。ずっと首なし紳士をレフだと思っていて、アルマンがだだ弱くて殺られたのを隠すためにモルディーヌの口封じをブロメル伯爵に依頼されていると思っていたなら仕方ないだろう。にしても、まぬけ過ぎるなぁ。
「10年前に金で買収してきたある人物はアルマンなんだろ?アイツは実力のない自分が班長になりたくてユリフィス・マクビウェルを殺し、無実のグレアム・ラットゥールを排除した。黒幕、後ろ楯は、当時から実力主義を快く思わなかったブロメル伯爵」
「し、知ってたん、ですか?」
「俺は見ていたからな」
「は?まさか!?」
面白い顔になったイーサンを縛り上げ、外から呼んだ兵士に託す。全て片付くまで、牢屋にでも入れておくしかないだろう。何なら牢屋の中が一番安全だろう。今モルディーヌに何かあったら真っ先に殺られるのはイーサンだ。
「さあ、オッカム。もうイーサン・スクラープに用はない。早くモルディーヌを取り戻しに行くぞ」
「はい。レフ殿」
愛する少女に関しては簡単に暴走する愉快な上司の後ろをついて家を出て敵地に向かった。
やっと言えない理由その1公開。
もう、レフの正体ver1かver2が解ったかと思われますが、
モルディーヌさんは全く知らないので
まだ書きません(^-^ゞ