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28 殺人鬼と依頼人  レフside

シリアス回です。

小ボスイーサンのテーマは

《KUZU》( ̄∇ ̄*)ゞ


話上、悪sideの話は楽しくないですが大事なので頑張ります。

 

 さて。そろそろ来る頃か。

 アイツのせいで・・・


 宵の暗闇がじわじわと空を染め上げていく頃。

 自分の心にもじわじわと黒いものが拡がっていくのを感じた。

 善くない、悪いものが心を蝕もうとしてくる。


 いつものだ。

 考えるな。

 表情にも出すな。

 怒りも、憎しみも、絶望も()せるな。

 こんな力欲しくもない。


 きっと、今夜もまともに眠れないのだろう。


 ・・・いや。

 彼女がいれば違うのか?

 昨夜は違った。

 今朝、彼女の悲鳴を聞くまで温かな気持ちで微睡んでいた。

 彼女が同じ家に、隣の部屋に居たから?

 では、彼女をこの腕に抱いていたら?


 レフは額から冷や汗を流し、つめていた息を吐き出す。

 袖で汗を拭い書斎の真ん中に置かれた執務机から顔を上げた。

 窓から見える向かいの屋敷。灯り始めた明かりをぼんやりと眺めると、心が落ち着いた。

 昼にも会った可愛らしい少女は、今何をしているだろうと思い和らぐ。

 リアンに一家を護衛させているし、外からはニーアに見張らせている。何かあればすぐに解る。


 会いたい。

 抱き締めたい。

 ずっと一緒いたい。

 彼女がいればこの世界で生きていける気がする。

 きっと、あちら側に引き込まれる事はない。


 彼女が、モルディーヌが欲しい。


 最初はすぐに変化に気付かなかった。

 可愛らしい姿を思い出すだけで悪いものに蝕まれる事もない。

 会えれば黒いものの拡がりが止まる。


 腕の中に抱き締めていたら

 俺は幸せで

 心から黒いものが消えていく。


 一度触れたら、とてもじゃないが手離せない。

 他の者に獲られたくない。

 彼女を譲るなんてできない。失えない。

 俺は今どう思われているんだ?

 本当の俺を知られた後も受け入れて貰えるだろうか?


 正直、出会いからして好かれる要素がない。が、何だかんだ嫌われてはいない筈だ。

 昨夜言った様に、全く脈無しどころか嫌われていたらキスを迫った時点で全力で逃げられていただろう。

 殺されるかもという誤解を解いてからは、恐怖心も全く無いようだから、恐怖で動けなかった訳でもなさそうだ。

 可愛い真っ赤な顔で知らんぷりしようとされてもさせられない。

 あの時自信満々に、思っていたより好かれてるなどとよく言えたと思う。

 本当はあそこまで自信など無かった。

 でも、害意が無かったとは言え、逃げられなくて希望をもった。

 朝も気が動転しただけだろうが、すがり付かれ頼られた気がして嬉しかった。


『だいたい、ニーアの事だって、匂いで貴方かと思って油断しっ――――――い、今のなし!!』


 昼の彼女を思い出し、顔が緩んでしまう。

 まるで、レフならば。と取られてもおかしくない言葉に期待してしまう。


「・・・あれは、反則だ」


 レフの呟きを拾う者は誰もいない。

 オッカムは重傷を負ったまま動けず、キースは捕らわれ連行されたという体だ。

 この家にはレフ独りしかいない。

 書斎には入り口近くの壁側に灯された小さなランプがひとつ。薄暗い室内で小さな灯りがゆらめく以外に動くものもない。

 レフの息遣いと、時刻を知らせる時計の針が動く音しかない。

 ふいに、外の気配が変わった。

 幸せな気持ちが霧散する。もう少し感じていたかったが仕方ない。


 カツカツと、人の歩く音が通りから聞こえる。


「来たか」


 レフの居る書斎の薄暗い灯りが窓から見えたのだろう。

 足音がゆっくりしたものに変わる。

 玄関前で足音が止まり、暫くしてから静かなノックが聞こえた。

 扉をレフ自らが開けると、玄関にいた人物は滑り込む様に入ってきた。


「夜分遅くに悪いな。首無し紳士(デュラハン)殿」


 レフが無表情で扉を閉めて振り向くと、暗がりの中でイーサン・スクラープが人の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。

 首無し紳士(デュラハン)はレフだと信じて疑ってもいない。


「ようこそ。スクラープ副班長殿、ひとりか?」


 どう見てもひとりだが、手駒を把握していると臭わせる為に聞くと、イーサンは鼻を鳴らし苦々しい表情を作った。


「ふんっ、死に損ないのキースが喋ったか?奴の妹のアンは別の仕事があるから気にしなくて結構だ」

「そうか。では、書斎で話を」


 書斎の椅子を勧めたがイーサンは座らず、壁際のデカンタから注いだ酒だけを受け取って一口であおる。

 レフは執務机の椅子にかけながら自分の杯をゆっくり傾け、薄暗い室内を彷徨くイーサンの様子を見ていた。

 連続殺人鬼と接しているのだから緊張しているのは解るが、あまり余裕のない様子に何か違和感を感じた。


「伝言は届いたようだな」


 聞きながら壁際を差し、2杯目をイーサンに勧める。

 酒が好きなのか、気をまぎらわせたいのか、壁際へよりデカンタから新たな酒を注ぎながらイーサンが返事をよこした。


「間違いなくな。アンから報告は受けていたが、キースの切られた髪がこっちに届いて驚いた。捕らわれてもう虫の息らしいがこっちは死んでくれた方が助かるから取り引きには使えねぇぞ?首無し紳士(デュラハン)殿、いや、マクビウェル卿とお呼びした方がいいか?」


 確実にイーサンを誘き寄せる為に、キースの髪を一部拝借した。

 勿論捕虜感を出すのに身体の一部を切り落としても良かったが、モルディーヌに却下をくらうのは分かっていたし、キースは崇めるモルディーヌに言われたら直ぐ様髪を一部切ったので使う事にした。アイツのモルディーヌ信仰心は力に()せられただけじゃない気がする。


 唯一の灯りがデカンタ近くの壁際にあるので、酒を注いでまたあおってから振り向いたイーサンの様子がよく見える。イーサンの瞳の奥に怪しい光が過るのも。


「アンから、キースはあんたが首無し紳士(デュラハン)かもしれないと言っていたと聞いて調べさせて貰ったさ。あんた、表向きマクビウェルを名乗ってるみたいだな。だが、今この国にマクビウェルの姓を名乗る血筋、エイルズベリー辺境伯の分家は残っていなかった筈だ」

「・・・10年前に一家全員死んだからか?」

「くっくく、当然知ってるな。何故首無し紳士(デュラハン)が、その名を名乗ってんだ?エイルズベリー辺境伯は知ってんのか?」


 多少聞かれるとは思っていたが、イーサンがここまで気にするとは思っていなかった。違和感の正体はこれか?


「それは、お前の言う取り引きに関係あるか?」

「こっちは金さえ手に入れば関係ない。だが、彼の御仁が気にしておられてな。マクビウェル班長と過去に何があったんだか知らねぇが、こっちはユリフィス・マクビウェル班長がグレアム・ラットゥール副班長に殺られてくれて大助かりだ。なんせ当時奴等の部下だったのもあり、急遽後釜の副班長に25歳の若さで昇進できたからな。お陰でアンも手に入れられた」


 イーサンがまた酒を注ぎあおる。いやに呑むな。

 酔って口がまわる分には構わないが落ち着きのない様子に内心首を傾げるが、顔には出さずに話を続けさせる。


「そうか。彼の御仁とやらの為に教えてもいいが。しかし、スクラープ殿こそ、何故悪霊(アンシーリーコート)憑きなど買った?」

「ラットゥール副班長が生きている頃からアンを狙っていた。邪魔するラットゥール副班長は目障りだったが、まだ14歳だったアンが良い女に育つのはわかっていたからな。悪霊(アンシーリーコート)とかもよく知らねぇが、裏の依頼に使えると思った。何だ?アンを貸して欲しいのか?」


 殺人鬼としての事や汚い仕事でなく、娼婦としてだとイーサンの卑猥な表情が語っており、レフはヘドか出るかと思った。

 変わらず無表情を保てる自分に今は感謝した。

 そもそも、モルディーヌ以外の女など興味もなければ必要もない。


「いらないな。困ってない。元から目を付けていたなら何故売られる前に助けなかった」


 困ってないと言った後舌打ちされた。「あんたなら女が寄って来そうだな」とイーサンが薄暗い中でレフの顔を見ようと目を細める。

 髪色や瞳の色が分からずとも整った顔の造作ぐらいは見えるだろう。唯一欲しい彼女は寄ってこなかった顔だがな。役に立たない。


「まぁいい、助けなかったんじゃない。息子を殺られたエイルズベリー辺境伯がキレたせいで賠償金がはね上がった。当時は平の兵士じゃどうにもできねぇ額だ。まぁ、身体を買うには娼婦に堕ちてからのが楽だったし、良いこと仕込まれた後のが楽しめるから仕方ないが、身請け額が上がると知ってたらあのやり方に協力しなかったぜ」

「あのやり方?」

「ちっ、喋りすぎた。これは、あんたとマクビウェル、ラットゥールとの関係が知れたら教えてやろう」


 流石にこれ以上はぺらぺら喋らないか。

 さて、どうする?

 真実は限られた者しか知らない。

 まずコイツが知ったら口を割らなくなる。

 嘘を吐かずに、本当の事を知られないように話すか?


「俺は8年前までイノンドの地ではない別の国に住んでいた。エイルズベリー辺境伯とは一応親戚でな。此方に移り住む時に空いていた姓をもらっただけだ。今は関わる事もない」


 嘘は吐いていない。

 但し、大分肝心なところを省いたが。


「ほう。では10年前のラットゥール副班長の暗殺事件には関係無かったのか。エイルズベリー辺境伯とも親しくないと?」

「親しくしていないな。すれ違えばマナーとして会釈と一言ぐらいの挨拶はするが、個人的に会うことなどない」


 本当の事を言ってはいるが、この男は馬鹿なのか。

 全く気付く気配もない。

 いや、知られたら()()()が危ない。

 まだだ。アイツを始末するまでは。


「キースを生かして、アンにも興味がないならマクビウェル一家暗殺事件での復讐心もなさそうだな。エイルズベリー辺境伯に言わないなら教えてやろう」

「会うことなどないから、俺の口から漏れる事はない」

「いいだろう。あのやり方とは、グレアム・ラットゥールを暗殺の実行犯にする事だ!」


 どうだ!と言わんばかりの顔だが知っている。

 この先も知っているが、俺が欲しいのは言質だ。

 さっさと喋れよ。

 しかし、さっきから酒をガバガバ呑んでいるが大丈夫か?


「協力したとは?」

「ラットゥール副班長を嵌める作戦にだ。毎年有給休暇で王領地の森にあるエイルズベリー家が所持する屋敷にマクビウェル一家が行くのは知れた話だ。その道中馬車を賊が襲い、不運にも崖から墜ちる。そして、偶然任務で近くにいた第5部隊3班の班員達が事件を聞きつけ賊を捕らえた。なんと、グレアム・ラットゥール副班長が雇って一緒に襲ったというじゃないか!?繋がる証拠にラットゥール副班長の紋入りナイフまで持っていた為、泣く泣く班員達はマクビウェル班長の(かたき)だとラットゥール副班長を捕らえた。真相はある人物経由で買収されたこっちの協力で嵌めただけで、奴は目障りなだけの無実な男だったがな」

「金で上司を売り渡したのか。思い切ったな」


 レフが無表情で頷いて返すと、イーサンは悦に入ったように酒をまたあおった。


「奴等は実力主義改革者だった。今の軍務大臣ブラットフォード公爵と一緒でな。だからあんたとの取り引きも簡単だ」


 落ち着きなくデカンタのある壁を離れず、レフを通り越した壁を見るイーサン。


「軍の反魔術師派で首無し紳士(デュラハン)を捕らえないようにする。正体もバラさない。だから、ブラットフォード公爵が失脚するまで王都で殺しまくってくれ。失脚したら王都以外で好きに殺ってくれれば文句はない」


 何を焦っている?


 話の内容自体は、レフが殺人鬼だとしたらイーサンに不利な内容ではない。嫌な胸騒ぎがする。


「だから、あの小娘が始末されても良いだろう?」

「は?・・・あの小娘とは?」


 レフの心には一瞬ふたりの少女が浮かんでしまった。

 どうしても失いたくない少女。

 だが、今イーサンが言っているのは間違いなく、


「分かってんだろ?モルディーヌ・イシュタトンだ」


 言われた瞬間。頭が真っ白になり、気付いたらイーサンを魔力で床に押さえ付けていた。

 片手を翳しただけで、床と仲良しになったイーサンは呻き、何とか声を絞り出す。


「畜生が!あんたが魔術師・・・いや、殺人鬼だから憑かれた魔女か!?何でだ?あんな小娘いいだろ?邪魔しやがって!自分で始末したいのか?ならさっさと殺らなかった自分を恨め。此方だって依頼をこなさなきゃヤバイんだ!」

「誰の獲物だと思っている?横取りさせない」


 イーサンは呻きながら顔を上げ、ニヤリと下卑た笑みを浮かべてレフの後ろを見た。

 背筋に嫌な汗が伝う。まさか。

 灯りがある壁側の反対側。

 レフの執務机の向こうの壁側にあるのは、窓!

 向かいのモルディーヌが居る屋敷が見える窓側だった。

 ずっと落ち着きなく話を繋ぎ、様子を見ていたのか?


 無表情のレフが眉をひそめたので、イーサンがさらに嫌な笑い声を上げた。


「残念だったな、さっき合図があった。もう小娘は連れてかれ、っぐぅ!?」


 思わずイーサンの顔を踏み付けてしまった。


「何処に連れていった?正直に話したら命だけは、いや、モルディーヌが無事でなければ殺す。関わった者全員消滅させてやる」

「っう、――――な、がっ、ひぃぃっ!?」


 ああ。

 黒いものがやってきた。

 彼女を探さないと。

 早くしないと。

 モルディーヌを失ったら、


 あちら側に連れていかれる。




シリアスで書くと

レフの愛が思ったより重くなった!


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