表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/66

25 お泊まり会の朝  レフside

8話のろくでもない会話をニーアと。

レフ謎が続くので、レフの脳内モルディーヌ中心でしかでてきません。

 

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 朝早く。まだ空が白み始めた頃。

 昨夜の雨はとっくに上がっており、屋根に雨粒は残っていない。通りの道端が少し濡れているが、通りを歩く人の靴に泥が跳ねることはなさそうだ。

 城下町の商店は開店前の仕込みや準備に取り掛かり始めた為、少しずつ賑わいを見せていた。

 そんな中で住宅地が多い中区画の南端。一昨日やっと買い手が付き、人が住み始めた家の中で悲鳴が上がった。

 幸い防音設備の良い広い家の為、外に響く事はなかったが、家の中で眠る人々にはバッチリ聞こえた。


「モルディーヌ!?」


 悲鳴がモルディーヌの声だと分かった瞬間、レフは飛び起きた。昨夜のやり取りから、半日でモルディーヌの態度が軟化どころか、とても嬉しい変化をしてくれて、正直浮かれた微睡みから頭を切り換える。

 モルディーヌが使う客室の扉を問答無用で開けると、丁度反対側からも開けたらしい金茶色が勢いよく突っ込んできた。

 レフが咄嗟に抱き止めると、すっぽり腕の中に収まる。4回目だ。

 夜着のシャツの開いた襟から、素肌を金茶色の髪が擽り、温かい額が押しあてられている。


「何があった?無事か?」

「―――――――ぁい」

「モルディーヌ?」

「ぶっ、無事じゃ、ない」


 泣くのを堪えるようなくぐもった声が、しがみつかれた胸元から聞こえた。室内にさっと目を走らせるが、引っ越したばかりだから家具の少ない客室に暗殺者が隠れられる陰はない。敵意ある魔力や殺気等も感じず、動くものもない様だ。

 モルディーヌの小さな肩を掴み、一度離して顔を見ようとしたが、胸元のシャツを握っていた手をレフの背中に回して、きつくしがみつき顔を離そうとしない。強張る身体が貼り付いて、顔や身体の状態を見ることができなくなった。


「怪我をしたのか?」


 胸に押しあてられた額がぐりぐり左右に振られる。どうやら怪我はないらしい。安堵したが、では何が?


「泣きそう?」

「・・・び、びっくり、して」


 また、ぐりぐりと左右に振りながらくぐもった声が答える。

 肩を掴んでいた手をモルディーヌの背中に回して抱き締め返すと、強張っていた華奢な身体が更にぴったりとくっついてきた。

 寝起きだからか、驚きで心拍数が高いからか、温かくて柔らかい。男のゴツゴツした筋肉と大違いだ。いや、別に男と抱き合う趣味はない。

 モルディーヌが深呼吸をしている温かな息を感じ、落ち着いて来た頃を見計らってレフは口を開く。


「ずっとこうしていたいが、そろそろ離れてくれないと既成事実ができあがるぞ」

「あっ」


 ふたりとも起き抜けの乱れた姿。端から見たら完全にアウトだ。俺は構わないが。

 特にモルディーヌは寝る間ローブを脱いでいたらしく、身に付けているのはレフのシャツ1枚。サイズが合わなくて肩が片方ずり落ちているし、膝まで白い素足が見えている。

 そんな姿のモルディーヌを堂々と抱き締めている。オッカムの言う役得というやつだ。

 ハッとして隣の部屋の扉を見たら、ソッと扉が閉まった。ドア口で抱き合っているから、オッカムらにはモルディーヌの服装は見えず、レフに回されたモルディーヌの腕と髪の毛と無事な雰囲気で察した様だ。後で褒美をやろう。

 モルディーヌは躊躇いがちに、少しだけ身体を浮かして密着していた部分に隙間を空けたが、顔は胸に埋めたまま上がらない。地味に隙間を寒く感じる。言うんじゃなかった。


「何があった?」

「私、もうお嫁にいけない」

「は?」


 聞こえてきたくぐもった声に、レフは首を捻るしかない。

 昨日の話の続きかとも思ったが、悲鳴を上げていたし、こうしてレフにしがみついているから、何か別の事を言っているのだろう。


 何があっても俺が嫁にもらうが?

 むしろ、それ以外の選択を与えられる気もしない。


「朝起きたら、ベッドの中で」

「ああ」

「貴方の匂いがしたの」

「うん?」

「私の、胸に顔があって」

「胸に顔?」


 思わずモルディーヌの身体を見下ろす。先程顔以外は離したので、身体との隙間がある。

シャツのずり落ちた白い肩から下に続く膨らみに目を向けて硬直する。勿論、顔はついていなかった。よかった、いや、顔があった方が俺の精神が落ち着いたかもしれない。


「胸を揉んで」

「もん、は?」


 モルディーヌの呟いた言葉に、一瞬脳内の夢に見た願望が洩れたのかと思い焦った。もしくは、これは夢か?


 ガバッと勢いよく顔を上げたモルディーヌの顔はびっくりするくらい真っ赤で可愛くて、潤んだ海の美しさがたじろぐレフの姿を呑み込む。これはきっと夢だ。


「私の胸、揉んでたの」

「いや、俺は、違う!」


 まだ揉んでない!と、混乱した頭で口を開きかけたら、モルディーヌに遮られた。


「ベッドの中の男の子が!」

「・・・ベッドの、男?」


 叫ぶ様に訴えるモルディーヌの言葉に、急激に脳内が覚めた。


 ドア口でモルディーヌにしがみつかれたままだったので、室内のベッドに目を向ける。まさか。

 部屋に入り、くしゃくしゃのシーツの膨らみに近付く。モルディーヌがシャツの裾を握ったまま付いてきた。こんな時も可愛い。

 レフは膨らみを遠慮なく蹴りつけ、『うぎゃっ!?』と呻くシーツをひっぺがす。


 ベッドの上には、雪の様に真っ白な髪に、ぱっちりとした赤い瞳を瞬く13、4歳くらいの美少年が転がっていた。全裸で。

 レフが指を鳴らすと、美少年は緑色の服と灰色のマントを着た姿に変わる。全裸の男が目覚めて自分の身体をまさぐってたら悲鳴をあげて当然だ。変なものをモルディーヌに見せるな!


 レフは冷々とした目に片眉を上げて、不機嫌さ全開で見知った美少年を睨みつけた。


「ベン・ニーア。何している?」

『あ~。えっと・・・』


 美少年の名を呼んで問うと、もごもご頭をかいて赤い目を泳がせた。


「おい。モルディーヌに何をした?」

『ね、眠くて一緒に寝てしまったっす!』


 レフがさらに声を低くして問うと、ビクッと身体を震わせて答えた。コイツ、赦さん。


「ほう。胸に顔を埋めて、揉みながらか?」

『誤解っす!交わってはないっす!ただ、つい気持ちよくて』

「・・・つい?」

あい(イエス)。主を差し置いてすみませんっす!』

「お前、消滅させるぞ」


 美少年の顔をレフは掌で鷲掴みし、ミシミシと潰していく。絶対に赦さん。


『わぁ!!待ってくだせぇ!主がお嬢さんを見張れって言ったじゃないっすか!?』

「確かに、また狙われた時の為に見張れと言ったな。だが、誰が一緒に寝ろと?誰が胸に顔を埋めて揉めと言った?だいたい、何で人の姿になっている?護衛が襲うなどふざけるな!」


 呻き喚く美少年と、その顔面を握り潰そうとする美青年の謎な構図が出来上がった所で、茫然と事の成り行きを見ていたモルディーヌが首を傾げながら呟く。


「え?人、だけど、ニーア?」

『あい!お嬢さん、助けて下せぇ!』

「あの、白い鳩の妖精のニーア?」

『あい!こっちと両方ともオイラっす。止めてー!』


 白い鳩の妖精ニーアは、美少年の姿の状態で、あろうことかモルディーヌに助けを求めた。


「え、嘘でしょ!?こんなに大きな男の子なの?昨日抱っこして、撫でて・・・頭にキスしちゃった?」

『最高っした!主にめっちゃ妬まれやした!』


 顔面を握られたまま会話を続けるニーアから、レフへ視線を移したモルディーヌが驚いた顔で聞いてくる。


「さっきから呼ばれてる、主って貴方なの?て、事は魔術師!?主だから、ニーアは貴方と同じ匂いがしたの?」


 まあ、ベン・ニーアについては驚くだろうな。

 薄々は俺の匂い?とかで勘づいていたんだろうが、此方の事情は何も話していなかったからな。

 俺が妖精の話や説明を普通にして、オッカムと会話している時点で、悪い魔女だと思われずに魔術師だと思ってはくれてただろう。


「ああ。俺の使い魔、ベン・ニーアが朝からすまない。その、コイツの妖精の正体的に胸が好きなんだ」

『あい。でも、主だって昨日お嬢さんの寝起き姿と着替え覗いて乳房を見たじゃないっすか!大好きっすよね?』


 申し訳なくて謝っている下から、アホ妖精が要らんことを言い出した。モルディーヌなら何でも大好きだ。誤解を招く事を言うな!


「おいっ、黙れアホ妖精」

「・・・へ?昨日、覗く?」


 ああ。モルディーヌが拾ってしまった。いや、スルーしてもらえるとは思わなかったが。


『お嬢さんが枕に叫んでるのが聞こえて、窓から主と一緒に様子覗いたら、枕叩いて揺れてるのがバッチリと』


 アホ妖精め。

 覗くとか言うな、ストーカーみたいだろ。

 でも、うっかり見てしまったのは事実だ。

 くぐもった悲鳴が聞こえたから、何事かと思ってつい。

 惚れた子の可愛い寝起き姿から視線を外すのは至難の技だ。しかも、露出の多い夜着姿で。服の上からでは分からなかった、すっごくそそる身体を朝から見せ付けられて、何の褒美かと思ってしまった。

 ・・・言い訳できない。

 まぁ、昨夜と今の格好は近距離で見てしまっているが。

 むしろ、抱き上げたり抱き締めたりと、しっかり触れてしまっているから少しぐらい許して欲しい。


「な、え?私の寝室が見えて?」

『あい!お嬢さん、あんな薄着で窓際に立っちゃ駄目っすよ?通りの奴に見えたら大変だからって、主が部屋の奥に行かせろってうるさかったっす!』

「貴方、見てたの?」


 赤らんだ頬のモルディーヌに困惑した瞳で見られ、気まずくなったレフは目を逸らした。特に今の格好はいろいろ不味い。俺が襲いそうで不味い。

 ソファに置かれていたローブをモルディーヌの肩に掛けて、前を併せて隠す。


「君が叫ぶから、不可抗力だ」


 そう。見た切っ掛けは、わざとではないが・・・このせいで嫌われたらどうしよう。


ない(ノー)。俺が居る間ずっと見張ってたっす!』


「ベン・ニーア!いつまでそこにいる?魔法で無理矢理戻すぞ」

『バレてもいーんすか?・・・男の嫉妬は醜いっすよ』

「モルディーヌの着替えを堂々と見るな!」

『主だってちゃっかり見てたくせに』

「お前がそこで要らんこと(吸い付いたり)しない保障がないからな」

『オイラのせいじゃないっす!』

「妖精の(さが)を理由にするな!」

『でも、最高っすよ!主も頑張ってくだせぇ♪』


 って話してたっす!』


 ぺらぺら喋るアホ妖精め!


「吸い付く?」

「・・・今の話で、よりにもよってそこを拾ったか。・・・このアホ妖精の正体《泣く妖精(ベン・ニーア)》は《嘆き妖精(バンシー)》の変種なんだ。バンシーは基本、黒髪に緑の服、灰色のマントを着た女の姿の妖精だ。気に入った家の人間が亡くなる時を泣いて知らせる妖精だから目が赤い。ベン・ニーアは変種だから白鳩だが、バンシーはバズヴと言う大鴉とも呼ばれる。・・・一説では、その、交わった相手に加護を与え、バンシー自身の胸を吸うと、願いを叶えると言われているが・・・」


 モルディーヌの疑問にアホ妖精の主としてレフがいやいや説明をする。諸悪の根源はレフの掌の中で呑気に笑っていた。腹が立つ。


『オイラは男だから乳房を吸わせてくれたら、願いを叶えるっす!可愛くて胸のおっきなお嬢さんなら大歓げっ、ぎゃっ!?』

「吸わせるか!モルディーヌに卑猥な事を言うんじゃない。本気で消滅させるぞ、アホ妖精」


 ギリギリと、さらに掌に力を込め魔力をそそぐ。ニーアが悲鳴を上げて人の姿から鳩の姿へ変わった。

 変わった瞬間にレフの手から逃れ、ベッドのボードに止まっていた。レフとの距離をジリジリとって逃げようとしている。


『いや~、痛かったっす!冗談っすよ!主の番になるお嬢さんなら冗談で許してくれるかと思ったのに!寝惚けて触ったのは悪かったっす。でも力を使うなんて酷いっす主!!』

「そう言う問題じゃないし、まだ付き合ってもないのに嫌われたらどうしてくれる。しかも、俺がモルディーヌと夫婦になってから冗談でもやったら赦さん。むしろ、俺の嫁に守る時以外で無駄に触れたら消滅させる。おい、待て。鳩に戻って逃げるのか?」

『主が手を離してくれないから、顔が潰れかけたっす!可愛い使い魔に何するんすか!!お嬢さんに逃げられたら主の魅力不足っすよ?オイラのせいじゃないっす!』


 話ながらレフは距離を測り、ニーアは逃げようと後ずさる。


「ねえ、ニーア」

『あい?』


 いきなりモルディーヌがニーアに柔らかい笑顔で声をかけた。笑顔が最高に可愛い。

 と、レフもニーアも油断した瞬間。

 モルディーヌは目にも止まらぬ速さでニーアをひっ捕まえていた。

 足を持ちひっくり返されたニーアは、モルディーヌの手にぶら下げられた状態で羽ばたこうとして、上手くいかずにバタついている。


『わわっ!?お嬢さん、何するんすか!?』

「私、男の子と同じベッドで起きて、本当にお嫁にいけないって、好きな人と結婚できないんだって、泣きそうなくらい、パニックになったのよ?」


 いやにハッキリ区切りながら告げるモルディーヌ。口は弧をえがいているが、目が笑っておらず、冷々と凍り付くようだ。


「妖精だからって、赦さないわよ。ニーア?」



 最高に可愛い天使がキレた。





ブックマークありがとうございます( *・ω・)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ