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23 あの時の作戦は  オッカムside

いつも読んでいただきありがとうございます!!


小ボスのイーサンの名前が出たので

13話のその後、オッカムsideです!

 

 時計の針が深夜の1時を回り、本降りだった雨がぱらぱらと落ちる小雨に変わってきた。

 辺りの家々は寝静まり、明かりを灯している所は少ない。

 そんな中、外には漏れない程度に騒がしい家が一件。


「オッカムさん!何を考えてたんですか!?信じられない!!」

「そうですよね。わたしもびっくりです。馬鹿ですかね?マクビウェル卿に怒られたと言うのも納得です」


 モルディーヌとキースの非難に、「そんなー」とオッカムは呟いた。


「仕事中に遊ぶお前が悪い」


 レフにきっぱり言い捨てられ、オッカムは項垂れた。


「ちぇっ。演技力には自信ないからなぁ。その割りに頑張ったと思わない?ライアー氏も騙されたよね?あぢっ、ちょっと、痛いよモルディーヌ嬢」

「わざと怪我したみたいだから、痛い方がいいんじゃないんですか?」


 消毒液を遠慮なくオッカムの傷口にかけながら、つんっと澄ました顔でモルディーヌが手当てをしてくれている。


「天使様に手当てしてもらえているのに、文句を言うなんて信じられませんね。確かに騙されましたが、普通はそんな事しませんよ」

「そうかな?確実にサムを助ける為には有りだと思うけど」


 キースの呆れた目差しを受け、あの時の選択をオッカムは振り返った。



 さて。どちらを追おうか。


「わたしは兵士(サム)を。あなたはお嬢さん(モルディーヌ)を。今度は殺り方は拘らず仕留めましょう」


 キースの言葉を聞き、オッカムはもう迷わず足を動かした。


 向かうはサムの所。

 作戦決行!

 打ち合わせしたいから

 ライアー氏より先に辿り着かないとね!


 依頼人と別れたキースは、その足でサムを探したらしい。思ったより早かったな。

 南区画駐屯所に程近い通りをサムが歩いている時に現れた。

 なに食わぬ様子で近付いていき、すれ違い様にフードを少し持ち上げ、顔を少しだけ見せ油断をさせたらしい。キースが会釈した時にサムを刺していた。

 オッカムは建物の陰から様子を窺う。驚愕に目を見開いたサムが視線を自分の胸元へ動かす。

 深々と突き刺さったナイフ。柄を持つキースの手。キースの顔を。

 引き抜いたナイフの先から滴る血をタオルで拭うキースを見ながら、胸を押さえたサムが崩れ落ちた。

 うつ伏せに倒れた地面に赤黒い水溜まりが広がる。ちょっと血糊多かったかな?

 実は、サムは服の中に特殊な肉襦袢チョッキを着ている。刺した感触もキースを誤魔化せた様だ。

 得物がナイフじゃなくて長剣とか槍だったらアウトだったが、レフの予想が当たった事にオッカムはホッとした。


 この作戦は、モルディーヌが知らぬ存ぜぬしてくれている間に、ターゲットをサムに移すものだった。

 わざと、キースの前であの日イーサンが、目撃現場で拾い物をしていた所をサムが見た、と匂わせた。さらに、軍がイーサンの言う彼の御仁とやらを探っている事も。

 そうすればモルディーヌより先にサムの始末に動くと予想した。

 一度サムを殺された事にして、逃がしたキースと共犯者がイーサンと繋がっていると言い逃れできない状況で捕らえる。

 その間に死んだと思われているサムを動かし、イーサンが持っている彼の御仁とやらの証拠品を回収。さらに証拠品を使って、彼の御仁とやらを引き摺り降ろす予定だった。


 モルディーヌ嬢の方にも行ったかもだけど、レフ殿に任せればいいから、俺はサムに付かなきゃね。

 しっかし、サムめっちゃ演技上手い!!

 兵士より役者の方が向いてたんじゃ?・・・いや、失礼。

 こう言う作戦には向いた兵士だ。

 真面目だし、秘密の影(シークレットシャドウ)にいたら重宝したかもな~。再編成に推薦したいけど、妻子持ちは不採用にされるかな。

 サム地味メンだけど優しいからな。

 奥さん美人らしいし。いいなぁ。

 娘も奥さん似の美人になりそうらしい。サムの血どこいった?

 あー。俺も結婚して、可愛い奥さん欲しい!


「ははっ、笑えないな~!」

「は?」


 は?じゃないよ!

 俺だって可愛い奥さん欲し・・・違った。マジでサム殺ってたら、美人な奥さんと娘泣くだろ!

 あ。サムの娘を嫁に貰うとか?駄目だ。まだ12歳ぐらいだった。後5年くらいまてば、いやいや俺もっと早く奥さん欲しいし。


「サムに何をしてるの?」


 オッカムがかけた声にキースは振り向くと、此方を睨み付けていた。たぶんね、フードで見えないけど。


「・・・」

「だんまり?」


 だよね。むしろ俺がライアー氏って分かってるって知られる方が不味いしね!だまっとけよ!

 俺の役目は、ライアー氏が必要以上にサムに攻撃を追加しない様に、もう死んでるサムを仲間が見付けたから、顔知られる前に逃げよって思わせる役割。


「サムが言っていた心当たりって、君のことかな?」


 誰か分かってませんアピールでオッカムは剣を鞘から抜いた。


 そう言えば、ライアー氏って俺より年上だけど結婚とかしてんのかな?こう言う事してたらないかな。

 でも、なかなか良い顔はモテそうな優男系だし。

 彼女とかは分からんな。いたらムカつくなー。

 んん?

 仲間が切られて相手を普通に逃がすのもおかしくない?

 レフ殿に、上手く油断して逃げられるフリしろって言われたけど、切りかかっちゃ駄目とは言われてないな。


 と、思った瞬間には切りかかってしまった。あ、うっかり。

 いいとも言われてないが、やってしまったらしょうがない。

 キースにギリギリのところでナイフで受け止められたので、払って直ぐに顔をぶん殴っといた。こっちは現職兵士の筈なのに、ナイフで受けとめられるとか、つい。

 運良くフードはとれず、そのまま打ち合う。セーフ!剣のオッカムに対するキースはナイフなので分が悪いだろう。押されぎみになった時。

 視界に金属の光がちらつき、オッカムを背後から女共犯者の投げナイフが襲ってきた。あれ?こっちに来たの?

 腕や脚に浅くはない傷を負い、演技忘れてた!と、思い出したオッカムは動きを鈍くする。


「ちぇっ、2対1はフェアじゃないよ」


 オッカムは吐き捨てるようにぼやき、直ぐにキースに切り返した。今度は投げナイフにも気を配り、弾きながらキースに対応しているので、余裕がなくなっても演技と思われないだろうと、オッカムは傷を適度に負いながら弱った演技を始める。


 どちらも、致命傷は負っていないが、刃が掠った切り傷をかなり負った。オッカムはもう十分に動けないアピールをして、そろそろ止めを刺しに来るか、逃げるだろうと予想した。


 長引き過ぎたせいで体力が持たないと判断したのか、たぶん共犯者に合図をキースは送った様だった。最後に顔に向かって一太刀押し入れてきた。致命傷にならないと判断したオッカムがわざと受け、痛みに怯んだ隙にキース達は逃げた。


 そもそも、サムが始末できればオッカムに用はない筈だ。思ったより負傷したが良しとしよう。これで、オッカムが元気に動けるとは向こうも考えないだろう。


 と、呑気に構えていたが、起き上がったサムにも「オッカム兵長何やってるんですか!?死んだフリしながらハラハラしました。勝手に作戦変えるの止めて下さい!」と注意され、血を拭うのに使った布に手紙を書くという演出をしたレフへの手紙で先に謝ったのに、レフにも怒られた。

 やっぱり手紙に《すみません。遊びました!働くのに支障無。むしろフリー2で得ですよ》とか書いたのが不味かったかもしれない。上役に軽すぎたか!


「そう言う意味じゃないと思いますよ!きっとオッカムさんを心配したんだと思います」


 急に耳に響くモルディーヌの声にハッとする。

 どうやら考えていた事が口から出ていたようだ。


「ん?俺喋ってた?」

「手紙についてだけ呟いてましたよ。あの布手紙だったんですか。悪趣味な演出ですね。あの人の目を見て大丈夫だとは思ってましたけど、それでも一応心配してたのに損しました!」


 呆れたモルディーヌに怪我してない部分をぺしっと叩かれた。


「レフ殿の目?」

「はい。今日の昼間にじっくり話してたら、意外と目で感情が解るんだなって気付きました。早く読めてればあんなに殺されるって怯えなくて済んだのに!」


 ぷりぷりと怒るモルディーヌを唖然と見るしかなかった。


「いや、いやいや!!普通に読めないよ!?レフ殿は鉄仮面かぶってんのかってくらい無表情だよ?目だって冷々してるし、俺笑ってるところなんて、モルディーヌ嬢の前でしか見た事ないよ!?」

「そうなんですか?でも、オッカムさんが重傷って聞いた時、驚いてたし、目に心配が浮かんでましたよ?多分よく見たら解るんじゃないですか?」


 当たり前の事を言ったとばかりのモルディーヌの顔をあんぐりとアホ面で見るしかなかった。


「・・・本当に、まさか本当に?マジか・・・は、ははっ、はははっ!!―――――っああああっ!!半分ぐらい本気だったのに失恋決定!まぁ、うん。見てるの楽しんでた時点でアレか。ここまで解ってくれる人に出会えた上司を祝福するかー!これで他のヤツにかっ拐われるとか無しですよ、レフ殿!」

「急にどうしたんですか!?頭打ちました?」


 いつの間にか手当てが終わっていた。いつもオッカムが自分でする適当な手当てと違い、しっかり薬やガーゼで傷が覆われている。さらに、妖精の血族である治療院の天使様の力ですぐに治るのだろう。


「あとは、顔の傷だけです。一度ガーゼ外しますよ?」


 オッカムの顔に伸ばされたモルディーヌの手を反射的に掴んだ。


「これは、このままでいいよ」

「え?顔なのに、たぶん痕が残っちゃいますよ?」


 何かの直感的なものがオッカムを止めさせた。仕事の反省?失恋記念?ふたりへの想い?何かもっと違うもの。


「いやー、うん。・・・ちょっとぐらい残した方がカッコ良くない?」

「は?まぁ、オッカムさんが良いならいいですけど・・・」


 キースの手当てを始めたモルディーヌに「やっぱり治したくなったら言って下さい」と言われたが、から返事をしてしまった。


 客間の用意をさせてきたレフが戻った頃にはキースの手当ても終わり、ありがたく皆で泊まらせてもらった。一応キースは捕虜状態だが、むしろ居場所がないから喜んで従った。

 モルディーヌが最後まで帰ると抵抗していたが、今夜キースに襲われた時点で離す気のないレフに連行されていった。





オッカムに可愛い奥さんはできるのか・・・

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