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20 妖精の血の家系

説明会です。

 

「へ?お父様が、メリュジーヌの家系?」

「ああ」


 茫然と呟くモルディーヌにレフはあっさり頷く。


「じゃあ、私も?」

「当たり前だ。伯爵の実の娘で、歴代で1、2を争う濃い血まで受け継いでるじゃないか」

「濃い血?」

「遠い昔、異国で本物の妖精メリュジーヌと交わった人間がいた。ふたりの子供達は各国に散らばった末、その子孫の1つがイシュタトン伯爵家になった。しかし、血は薄れて妖精の力はほとんど無くなったが君は先祖返りらしい。幼い頃は妖精界によく消えるし、人前で力を使ってやらかさないかと伯爵は大変そうだったからな」


 懐かしむ記憶があるのだろう、レフは遠くを見るように目を細めた。

 その様子にモルディーヌは父イシュタトン伯爵とレフは浅からぬ関係だったのでは?と訝る。


「貴方は父を知ってるの?」

「・・・多少は」


 やや言い渋るレフに質問を重ねようか迷っていたら、横から勢いよくオッカムが手を挙げてきた。


「はい、レフ殿!メリュジーヌってどのような妖精なんですか?翼とか治癒とかよく解らないんですけど」

「水の精霊である母を裏切った人の王である父親を懲らしめた罰を、裏切られても夫を愛する母から受け、半人半竜の姿にされた妖精だ。翼を持つ人魚(セイレーン)とも言われている。だから、モルディーヌが力を使うときに翼が現れる場合があるのだろう。脚は・・・まだ分からないが」


 一度言葉を切り、チラッとモルディーヌの膝を見て目を反らした。そう言えば飛び降りた時に膝あたりまでは見えてしまっていた筈。まだって何だ!?


「先程も言ったが、俺も実物を見たのは初めてだ。力についてはよく分からない。メリュジーヌは愛する者には約束を違えぬ限り幸福を与える妖精だった筈だ。ただ、水の精霊は浄化や癒しに特化した力を持つものが多いから、モルディーヌも治癒の力を使えるのかもしれない」


 成る程と頷いたオッカムが急に深刻そうな顔になり、モルディーヌとレフを交互に見やる。

 見られたモルディーヌは緊張した空気に喉を鳴らした。


「さっきから気になってたんですけど、いつの間に呼び捨てする仲に?モルディーヌ嬢の態度も昨日や昼までと全然違うよね?」

「ぶっ!?い、いきなり真面目な顔して何を言うんですか!」


 予想していなかった問いをオッカムに向けられて噴き出すモルディーヌの横で、レフはちょっと嬉しそうに紫の瞳を煌めかせた。何で?


「オッカムもそう思うか?俺の自惚れでなければ、昼に誤解を解いてからは口説きに素直に照れて可愛ぃ、んぐっ」

「う、うわーっ!ちょっと黙ってて!!」


 要らん事を言うレフの麗しい顔面を両手で押さえつけてモルディーヌは叫んでしまった。

 横を見ると、やはりオッカムがニヤニヤしてからまた顔を痛がってた。ざまみろ!と、モルディーヌが思った隙にレフに手を剥がされ、そのまま抱き締めて捕獲された。ちゃっかり手も押さえられている。


「何するの!?離して!」

「ほら。昨日は頭で何か考えこんで困った感じだったけど、今は照れて可愛い」


 そう言って微かに笑顔を浮かべたレフに見詰められ、モルディーヌは赤いであろう顔を隠せずもがくしかない。


「ふ、不意打ちで笑うの止めて。冗談でも貴方の笑顔心臓に悪いのよ!」

「本気なら問題ないだろ?そう言えば、俺は名前で呼んでくれないのか?オッカムやキース・ライアーは名前だろ」

「私はまだ貴方を信用するなんて言ってないから知らない!貴方が勝手に私を名前で呼んでるだけでしょ?本当の事全部聞くまで私は呼んであげない!」


 ぷいっとそっぽを向いてもレフに笑われてるのが分かる。オッカムとキースが面白そうに見ているのが視界に入り、モルディーヌは居たたまれなくてジタバタするしかない。見世物じゃないぞ!


「俺としてはモルディーヌ嬢を良いなって思ってたので失恋しそうで残念ですが、良かったですね。今のレフ殿見たら、上の方は勿論、部下達なんて泣いて喜びますよ。普段のレフ殿は鉄仮面の冷血人間だと思われてますからね」

「おや、そうなんですか。しかし、天使様が妖精であろうと、わたしや皆さんの天使であることに変わりはないですからね。マクビウェル卿に射止められるかはまだ分かりませんよ」


 勝手にやり取りを始めたオッカムとキース。数時間前にお互い剣を交えたとは思えないやり取りだ。色々聞きたいのに話が脱線している。


「キースさん、天使様って呼び方止めません?話を戻しますけど、大層な呼び名があっても私に妹さんが助けられるかも分かりませんし。あの、妹さんって・・・」

「天使様の力であれば可能かと、なので天使様は天使様ですね。先ずは、順を追ってわたしや妹の事情を話しますね。妹は現在アン・サットゥルと名乗っています。家が10年前に汚名を被せられ没落してしまい、家名を棄てざるをえなくなりました。わたしも妹も個人名はそのままに家名だけ変えています」


 ここまででキースは一度話を切り、モルディーヌからレフに視線を移した。10年前という言葉に抱き締めてくるレフの身体が硬くなった気がする。・・・まだ離してくれないのは何故!?


「マクビウェル卿は何かしらご存じですか?10年前。当時王宮内兵舎所属の第5部隊3班副長グレアム・ラットゥールがわたし達の父の名です。グレアム・ラットゥールが実行犯とされた、上司一家の暗殺事件。上司は同じ第5部隊3班ユリフィス・マクビウェル班長。今も議会で絶大な権力をお持ちのエイルズベリー辺境伯の次男でした。彼は貴方の血縁者ですか?」


 冷えびえとした空気がレフから流れた気がした。オッカムが険しい顔で口を開きかけたがレフに眼で制され、また口を閉じた。


「キース・ラットゥールか・・・お前はあの事件の真相を知っているか?」


 相変わらずの無表情のまま、レフは淡々とした声でキースに質問を返す。

 キースは苦々しく口を歪めて目を鋭く細めた。


「真相、ですか。貴方の言う真相が何を指すのかは知りません。当時、わたしは隣国の島国ベヌフォワの卒業間際の学生でした。国外下では詳しくイノンドの事件を知ることなどできませんでした。ただ、軍部に在籍しながら不正を嫌う実力主義派のユリフィス・マクビウェル班長や父が目障りで、彼らを消す為に仕組まれた事件だとは知っています。この件で弱った母は病に亡くなり、妹は父の罪の賠償借金で売り飛ばされました。知ったのは売られる直前に妹がくれた手紙で、それが無ければ事件すら卒業するまで知らなかった筈です」


 自嘲気味に笑い、キースは呟くように続けた。


「・・・7年かかりました。世間知らずの若者が卒業して、働きながら金を貯め、やっとイノンドに帰国し、秘密の影(シークレットシャドウ)に入ってまで妹を捜し、やっと見つけたと思ったら、あの男に買われてしまっていた!特殊な力に目を付けられたせいで、3年経った今でも買い戻す事の難しい額で。これがわたしの知る真相ですよ」

「そうか。お前は本当の犯人を知っているか?」

「いいえ。国に戻るまでに時間がかかり過ぎました。父たちを邪魔に思った上役としか知りません」


 ゆるゆると力なく首を振ったキースが項垂れた。

 レフは少し思案した後、モルディーヌを一瞥してからキースへと向き直る。


「後でお前の質問に答えよう。その他にも、お前には知る権利がある。その前に、モルディーヌを狙っておいて助けてほしいとは?妹が悪霊(アンシーリーコート)憑きなのはどういう事だ」


 背筋を正したキースが、またモルディーヌに恍惚とした笑みを浮かべて懺悔するように喋りだした。


「まず、わたし達が愚かにも天使様を狙ったのは、依頼を受けたからです。理由は妹を買い戻す金を手に入れる為と、馬鹿な依頼人が妹の所有者で逆らえないからです」


 一度言いづらそうにモルディーヌを見やり、キースは申し訳なさそうな顔をした。


「依頼内容は、首なし紳士(デュラハン)の殺害現場で()()()を見た少女を殺す事。軍務大臣を失脚させたい依頼人から、できるなら連続殺人鬼首なし紳士(デュラハン)の犯行に見せる様にと。――――依頼人は現第5部隊3班副長イーサン・スクラープのクソ野郎です」

「あの文句ばっかりのムカつく兵士ね!!」


 イーサンの名にあの夜の態度を思いだし憤慨するモルディーヌをレフが宥める。その様子に苦笑いをもらしたキースが頷いて先を続ける。


「そうですね。そして、元々妖精を僅かばかり見る素質のあった妹は、娼館にいる時にある男に目を付けられた。アンは詳しく話してくれませんでしたが、娼婦にされ心も身体も滅入っていた時にその男に悪魔の儀式を行われたようです」


 レフが吐き捨てる様に呟いた。


「・・・ブロメルか」

「ご存じでしたか。男の名は現第5部隊3班長アルマン・ブロメル。反魔術師派の筆頭ブロメル伯爵の嫡男です」






登場人物が増えてきたので

キャラ紹介を追加します!ヽ(・∀・)ノ

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