18 天使の涙と羽根
やっと14からの続きですヽ(・∀・)ノ
「間に合って良かった」
息を吐くレフの囁き声に目頭が熱くなる。
滲む目を凝らしてよく見ると、雨で濡れただけではないのだろう。雨と汗で髪が顔に張り付き、走って来てくれたのか息が荒い。
しがみついた胸の鼓動の温かさが沁みる。レフに抱き上げられたまま肩口に頬を擦り付け、シダーウッドの香りにモルディーヌは安堵の息を吐いた。
「・・・泣かないでくれ」
ハッとして頬を押さえた。雨だけではなく熱いものが流れている。・・・まさか!!
顔を起こしたモルディーヌの瞼にレフが触れるだけのキスを落とす。
「俺以外に君の涙を魅せるな」
「――――な、んで知って?」
「メリュジーヌの羽根が出てる」
視線を動かすと銀色に紺碧の輝きが雨粒を弾いていた。モルディーヌが意識した途端に輝きは雨の中で幻の様に消えてゆく。
恐る恐るレフの瞳を見ると、特に驚くでもなく僅かに微笑みを浮かべて見詰められていた。が、スッと視線がモルディーヌの後ろに向かった。
濡れた地面を這う水音の方へ。
「ち、治療院の・・・天使?」
背後で呟かれた声に振り返ると、ずぶ濡れで地面に座り込んだキースが茫然とモルディーヌを見ていた。
途端にレフから冷気が漂った様に感じたが、直ぐにモルディーヌの身体はレフの外套に覆われた。
「今見た事は忘れろ、キース・ライアー」
「い、今の、は?」
レフの冷え冷えとした声と鋭い眼差しに、キースは混乱したように呟きながらモルディーヌの背中あたりに視線をさ迷わす。
自分すらはっきり解らずに隠していた事を知られた焦りでモルディーヌは冷や汗をかいた。雨で濡れたせいもあり身震いすると、外套の中でレフの温かい腕の力が増す。
「お前、誰の夜着姿を見たと?殺すぞ」
「っへ?そっち!?」
予想外の指摘にモルディーヌは目を剥くと、その様子にレフが不服げに眉を寄せて責めてきた。
「そっち?夫以外が見て許される姿ではない!大体、何で靴を履いてないんだ。素足だって本来は、」
「ちょっと待って!貴方も見たじゃない!?それにベッドに入った所を襲われたから靴はしょうがないわ!」
「何!?ベッドに・・・やはり殺そう」
「いやいや、聞いてる?しかも、もっと他に羽根とかあるでしょ!?」
ズレた会話が続き、モルディーヌの焦りが別のものに代わってきた頃、キースがぼそっ呟いた。
「・・・どのみち、失敗したわたしは殺されます。もはや天使様を殺せる気もしませんし、お好きなようにどうぞ」
「え?どういう事ですか?」
「いえ、――――アンっ!?」
モルディーヌの問いに視線を反らしたキースがいきなり叫ぶ。
そちらに目を向けると、借り屋敷の玄関ポーチからギラギラと光るナイフを投げつけようとする女がいた。明らかに狙いはモルディーヌだ。
しかし、投げる瞬間に白い羽ばたきが女を襲い、手元を狂わせた。
「っぐ!」
「いやぁ!キース兄さん!?」
白い鳩ニーアが狂わせたナイフは、キースの腕に深々と刺さった。
悲鳴を上げた女をよく見ると、昼間ヴォルフォレスト・ハイガーデンでモルディーヌを突き飛ばしたらしき美女だった。
苦し気に腕を押さえて崩れるように倒れたキースを見た美女は、青ざめた顔でじりじりと後退り始めた。
そして、いきなり暗闇に溶けたように消えてしまった。
「悪霊憑きか」
消えた後を眺めながらレフが何の感情もこもらない顔で呟いた。
「悪霊?って、確か、悪い魔女とかが契約する?」
「・・・ああ。取り敢えず風邪を引く前に中に入ろう。・・・おい、オッカム!隠れて見てる程暇ならキース・ライアーを回収しろ」
見向きもせず声をかけたレフは、モルディーヌを抱えたまま自分の家を開けて入ってしまう。
レフの肩越しに玄関外を見ると、建物の隙間から重傷を負って意識を失ったと聞いていたオッカムが現れた。確かに、レフがオッカムに託された物を見た時の安堵した様子からある程度大丈夫だとは思っていたが、動き回れる程とは思わなかった。
オッカムは顔の片側にガーゼを当てており、見える首や手には包帯がチラリと見える。怪我を負っている様だが支障はないらしくキースを肩に担ぎ上げて此方に付いて玄関から家に入ってきた。
「何でオッカムさんが!?」
モルディーヌが呆然とオッカムを見ていると、オッカムがニヤリと笑みを浮かべた後、傷に響いたのか顔をしかめた。
「心配してくれた?レフ殿には無駄に遊ぶなと怒られちゃったよ!ははっ」
「当たり前ですよ!一応重傷って聞きましたから」
「うん。まぁ、中々痛いかな。もうちょっと上手くやられた演技すれば良かったって後悔中」
呻くキースを玄関入ってすぐの床に転がしながらオッカムは返事をくれたが、振り返ってモルディーヌを見ると、ガーゼが貼られた頬を撫でながら肩を竦めた。
ん?どういう事?
まるで、わざと怪我してやられたみたいな?
レフが片眉を上げてオッカムを睨み付けた事で、モルディーヌの思考は一旦切れた。
「オッカム、後にしろ。先に身体を拭いた方がいい。そいつも手当てして縛っとけ」
「承知しました!」
腕がモルディーヌで塞がっているレフは、キースを顎で指しオッカムに指示を出す。オッカムはチラッとキースとモルディーヌを見やり、納得したように頷いた。
床に倒れるキースを世話し始めるオッカムを確認して、レフに向かって返事は期待できないだろうが問う。
「キースさん、どうなるんですか?」
少し考える様子を見せたが、レフは首を振って溜め息を吐いた。
「まだ何とも言えない。後で話を聞いてからだな」
そう言いながら、2階への階段を登っていく。
靴が無いため抱えて運ばれるがままのモルディーヌは、ようやく家の中を見回す。3年前から外観だけは知っていたが、今まで買い手がなく招かれる機会も無かったので、中を見るのは初めてだった。
白壁とダークブラウンの扉や柱等でまとめられたシックで上品な内装で、きちんと手入れがされていたのか、傷んだ所は見当たらず窓や扉はピカピカに磨かれていた。柱や階段の手すりの細工も繊細で滑らかな仕上がりだ。
とてもじゃないが、軽くぽんっと買える様な価格には見えなかった。レフをチラッと見上げる。
でも、この人一晩で買うこと決めたのよね。
夜寝る時間含め半日引っ越しにかかってないし。
オッカムさんにぼんぼんって言われてたけど何者!?
タニミア情報ではひとりで住んでるらしいので、使う部屋も少ないのだろう。はっきり言って無駄が多そうだった。
レフが寝るのに使うであろう寝室に運ばれた。引っ越したばかりだからか、ベッドとチェスト、衝立に洗面所しかない最低限の寝室だった。
ベッドの上に下ろされたモルディーヌが見上げると、頭からシーツを被せられた。
「ぶっ!」
「ちょっと被って待ってろ」
シーツ越しにガタガタとチェストを開ける音がした。
何とかシーツから顔を出そうともがいたが上手くいかず、大して待つこともなくレフにシーツから顔を出してもらう。
目の前に、厚手のローブと男性用夜着のシャツを突き出されたので手を出して受けとる。シーツが滑った瞬間にレフが顔を素早く背けて衝立を指差した。
「取り敢えず、お湯で拭いてからそれに着替えろ。夜着は繕わせる」
「え?っひゃあ!!」
言われて夜着を見下ろすと、レフと接していた部分は無事だが、雨に塗れた部分は透けて張り付き。ただでさえ大きく開いた胸元はキースに切られた肩ヒモが垂れ下がったせいで、左側がかなり危うい事になっていた。
赤面したモルディーヌがシーツで身体を隠してレフを見やると、視線を感じたのかレフは顔を手で覆った。
「ずっと抱えていたから極力は見てない」
「ほ、本当に?見てない?」
「・・・できうる限りは」
あ。これ見たやつだ。
「不可抗力だ。とにかく扉の前で待ってるから早く着替えろ」
そう言ってレフはさっさと寝室を出て行った。
キリ時がわからないので
意味わかんなくてすみません(ノд<)
モルさんは妖精とか悪霊とか、
チラ見だけなのでよく知りません。