表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/66

17 10年前の一家  キースside

キースsideラスト!

今回はメインと絡むのでスルーだと「?」になります。


 

 昼食後の人々で賑わう商店街からの喧騒が微かに聞こえる路地裏。人通りはなく、塀の高い家が並ぶせいで見通しが悪い。

 うろうろと落ち着きなく歩き回る依頼人を見ながら、木の影に寄りかかって立つキースは考えていた。

 何でこんな馬鹿そうな依頼人の指示に従わなければいけないんだ、と。

 答えは分かりきっている。金の為、妹の為だ。以前は羽振りの良かったこの依頼人に妹は買われてしまったのだ。


 10年前までキースと妹は良家の子息令嬢だった。父は爵位こそないが、軍でも真面目で優秀な出世頭で、王宮内兵舎所属の第5部隊3班副班長を務めていた。

 それなのに、いや、だからこそ嵌められた。軍部内に蔓延る不正を誤魔化そうとした上役に罪を擦り付けられたのだ。この頃の軍は腐った奴等の集まりで、賄賂など不正に手を染めず実力で頭角を現す父が目障りだったのが目を付けられた理由。

 この時同じ3班で、父と志を同じく班長を勤めていた上司一家暗殺の実行犯に仕立てあげられてしまったのだ。班長が身分ある辺境伯爵の次男だった為に消すのに計画や犯人が必要となり、父に白羽の矢が立った。

 父は、上司と夫人、子供ふたりの殺人で投獄後すぐ死刑が決まる。元々身体の弱い母は病に倒れて亡くなり、没落した家では賠償金や母の治療費を払えず借金の形に妹は売られたらしい。

 らしいと言ったのは、当時18歳で学生だったキースは国外の学校におり、家族の事を知らされたのは父も母も死んだ後だったからだ。それは妹からの別れの手紙だった。手紙には父の冤罪により家は無くなった、名前を棄て帰るな。と書かれていた。

 幸い学費は最後の学期分まで払われていたので、国に帰る旅費はないが卒業できた。ある程度働いてから金を手に入れる事ができたキースはやっと国に戻れたのだ。

 父や母の死は分かっていたので妹を探すが見付からず、探すのに役立つかと秘密の影(シークレットシャドウ)に誘われて入った。まあ、父を嵌めたような奴等が相手だと力が入りすぎて軍務大臣交代とともにクビになったが。

 妹を見付けられたのは3年前。父が嵌められた事件から7年もかかってしまった。

 見付けた時、妹はある特殊な力に目を付けられ娼館から依頼人に身請けされたばかりだった。

 特殊な力のせいで高値が付く妹をすぐに買い戻せる金もなく、それ以降は依頼人の汚ない頼みも聞きながら金を集める日々だ。


「そうか。今日中にお前が始末できれば報酬を倍にしてやろう。その代わり、また失敗したらお前が消える事になると思えよ」

「承知しました。約束忘れないで下さい」


 偉そうに文句や命令ばかりの依頼人に恭しく一礼したキースは、依頼人の側を離れて路地裏の角を曲がり奥へと進んだ。

 歩きながら物陰に向かって声を投げる。


「わたしは兵士(サム)を。あなたはお嬢さん(モルディーヌ)を。今度は殺り方は拘らず仕留めましょう」

「了解、キース兄さん」


 最愛の妹の声が返事をした。







 1回目は失敗。

 2回目に関しては半々だった。

 いや、少しマイナスかもしれない。


 依頼人と別れ、その足で向かった先。

 南区画駐屯所に程近い通りをサムは歩いていた。

 なに食わぬ様子で近付いていき、すれ違い様にフードを少し持ち上げ顔を少しだけ見せると、キースは人好きのする笑顔を浮かべながら会釈した。


「こんにちは。先程ぶりですね」

「あ。貴方はオッカム兵長といらしたっ――――――!?」


 驚愕に目を見開いたサムが視線を自分の胸元へ動かす。

 深々と突き刺さったナイフ。柄を持つキースの手。先程と変わらぬ笑みを浮かべたままのキースの顔を。


「貴方に恨みはありませんが死んでください」

「っぐぶぁ!」


 引き抜いたナイフの先から滴る血をタオルで拭うキースの笑みを見ながら、胸を押さえたサムは崩れ落ちた。

 うつ伏せに倒れた地面に赤黒い水溜まりが広がる。


「ははっ、笑えないな~!」

「は?」

「サムに何をしてるの?」


 突然背後から聞こえた声に振り向くと、息を切らした中区画駐屯兵長オッカムが此方を睨み付けていた。


「・・・」

「だんまり?」


 面倒だな。

 顔を見られていない今のうちに逃げるか?


「サムが言っていた心当たりって、君のことかな?」


 そう言ってオッカムが剣を鞘から抜いた。と、思った瞬間には切りかかって来た。ギリギリをナイフで受け止めるが、払って直ぐに顔をぶん殴られた。こいつ、兵士の戦い方じゃない。

 運良くフードはとれず、そのまま打ち合う。相手は身体を鍛える仕事の現役兵長な上、獲物が剣。対するキースはナイフなので分が悪い。押されぎみになった時。

 視界に金属の光がちらつき、オッカムを背後から(共犯者)の投げナイフが襲う。腕や脚に浅くはない傷を負わせる事に成功したらしく、オッカムの動きを鈍くする。


「ちぇっ、2対1はフェアじゃないよ」


 オッカムは吐き捨てるようにぼやき、直ぐにキースに切り返してきた。今度は投げナイフにも気を配り、弾きながらキースに対応しているせいか、オッカムに傷を負わせ始める。

 どちらも、致命傷は負っていないが、刃が掠った切り傷をかなり負った。オッカムはもう十分に動けないだろう。

 長引き過ぎたせいで体力が持たないと判断し、(共犯者)に合図を送る。最後に顔に向かって一太刀押し入れ、オッカムが痛みに怯んだ隙に逃げた。

 そもそも、サムが始末できれば依頼は完了だ。負傷により少しマイナスだが良しとしよう。


「何で此方に来たんですか、アン」

「ごめんなさい。キース兄さんの方に嫌な予感がして心配だったの」

「いえ。結果的には助かりました」


 路地を抜け、姿を隠しながら付いて来ている妹アン・サットゥルを確認する。


「私は今から始末しに行きますので、キース兄さんは帰って手当てをして下さい」


 此所でアンと別れたのが半々の原因だった。

 結果は失敗。

 馬車を突っ込ませたが、今度はレフ=ルト・マクビウェルに邪魔された。

 マクビウェル。この名は彼らと関係あるのだろうか?


 ・・・あったとしたら?

 わたしはどうするのだろう。


 アンにはレフのマクビウェル姓を伝えていない。

 レフが首なし紳士(デュラハン)かも知れない事だけ伝えておく。少女を餌にレフを釣り、彼の御仁からもっと報酬を貰えないかと提案するだけに止めた。

 今夜少女の部屋へは、怪我は負ったが力のあるキースが忍び込み、アンは逃げられた時や少女の叔母家族が気付いて邪魔した時のために廊下で見張る事になった。









 そして最後。

 これに失敗した場合、アンは大丈夫だが使えないキースは切られる。


 少女はまた息を吐き、もう寝る事にしたようだ。

 窓を少しだけ開けてるのか風や雨音がする中、ベッドに潜り込むスプリングの軋む音がした。キースは暫く様子を窺い、寝静まったのを確認する。


 そっとドアを開閉する。閉じる瞬間、アンが心配そうに此方を見ていた。


 歩くと床が軋み、顔をしかめて少女を見るが目は覚ましていない。ベッドに乗るとスプリングが鳴り、素早く上掛け越しに少女を押し潰した。


「な、むぐっ!?」


 咄嗟に叫ぼうとした少女の口を押さえつける。

 上半身を起こそうしたがキースは腹の上に馬乗りになり、両手も挟み込んだ。

 少女がもがいた反動で上掛けが胸下までずり落ちたのでキースの顔がよく見えただろう。


「しっ。喋らないで」


 少女の上に馬乗りになったまま、人好きのする笑顔を浮かべた。左手で少女の口を押さえ、右手に握っているナイフを見えるように翳す。

 見かけだけなら可憐な天使と称されるに納得の少女をじろじろと眺め回す。しかし、少女に恐怖の色がない事でキースは片眉をあげた。中身が可憐とはかけ離れている。


「本当に予想外なお嬢さんですね。普通、もっと恐怖に泣かないかな?襲われるの3回目ですよ?」


 少女は驚きを通り越したのか、キースを睨み付けてきた。

 今日の事を知る筈ないキースの「3回目」という言葉に少女を狙っていた犯人だと気付いたのだろう。


「ここで怒るんですか?わたしも元気ではないので、手短にいきましょう」


 キースの服の隙間から見える首もとや腕には包帯が巻かれており、少女を見る顔にも痣や細かい傷があるのが確認できるだろう。怪我の理由を察した少女が目を剥く。

 キースは薄ら笑いを浮かべた。


「援護があったとはいえ、流石に現役兵士ふたりの相手は骨が折れました」

「んんっ、んぐ!!」

「しっ。静かにして下さい。叔母君や従姉妹たちが駆け付けたら殺しちゃいますよ?」


 わたしではなくアンが。姿さえお嬢さんの前に駆け付けて見せられないだろうけど。


「んっ!?」

「ふふっ。兵士ふたりを始末して怒ってるんですか?自分の身を心配されたらどうです?」


 先程もがいたために乱れた夜着姿の少女の胸元と、膝上まで曝された脚を不躾な程眺めたキースはニヤリと嫌な笑みを浮かべて見せる。こう言う時、男よりも女の方が恐怖を与えやすい。・・・過去にアンもそうだったのだろうかと思うと少しだけ少女が不憫になる。


「マクビウェル卿が一昨夜見た首なし紳士デュラハンなんですよね?ああ、誤魔化さなくて結構です。貴女方のやり取りで気付いたので」

「・・・」

「マクビウェル卿はお嬢さんに随分御執心のようですね。引っ越してまで見張り、自分が殺す機会を窺っているのか、本気で惚れてるのか。今日はわたしの共犯者の邪魔をされてしまいました。今は何処にいるのか」


 そう言いながら、ナイフの背で少女の頬から首筋をたどり、胸の膨らみで止める。


 お嬢さんにいたずらしたら彼はどんな反応をする?

 怒るか?本性を現す?

 何を考えて動いているのか。

 何故マクビウェルを名乗っているのか。

 ()()()()に殺された、()()()()()()()()()()()()との関係は・・・


 何故かレフを首なし首なし紳士(デュラハン)だと聞いた瞬間の強張りを解き、少女は安堵した。

 キースは面白くなくて苛立つ。こっちも何を考えてる?


「本当に思い通りにならないお嬢さんですね。まぁ、いい。事情が多少変わりまして、首なし紳士デュラハンを彼の御仁に引き会わす必要が出ましてね、お嬢さんには餌になって頂きます」


 困惑と嫌悪の目で見られて嬉しくなったキースは、ナイフの刃で少女の夜着の左の肩ヒモを切り、また嫌な笑みを向けた。


「魅力的な身体のお嬢さんには2つ選択肢をあげます。今から無惨な死体となり彼へメッセージを伝える餌となる。もしくは、彼を騙して誘き出してから、わたしがお嬢さんとの楽しみを飽きるまでは生き永らえる。どちらが良いですか?」


 少女はキースの言葉にぷるぷる身を震わせながら、目をギュッと瞑る。

 後から思えば何かがおかしい事に気付かず、キースは楽しく笑いながら少女を見た。


「ふふっ。恐怖で怯えて泣いて懇願して下さい。獲物(ターゲット)が泣いてすがる姿を見たくてよく依頼(遊び)を引き受けるんですから」


 怯えた様に震える少女に油断した、口を押さえるキースの手が少し弛んだ途端に――――。


「どっちもお断り!!」


 そう叫んだ少女は、上半身をキースがナイフを持っていない方に捻り、キースの背中を膝に入る精一杯の力で蹴りつけてきた。

 キースは顔が枕に突っぷするのを避ける為に手をつく。その隙に少女は少し浮いたキースの股下から腰を捩って引き抜こうともがく。


 そうだった!

 いくら脅したとは言え、この規格外のお嬢さんが大人しく怯える訳がなかった!!

 こんな天使いてたまるか!!


「―――クソッ!待て!」

「きゃっ!?」


 ッドン!バタンッ!!


 キースに左肩を掴まれながらも少女がベッドから這いずると、窓が勢いよく開いた。

 白いものがキースに襲いかかり少女を押さえつける邪魔をした。


「ニーア!!」


 少女にニーアと呼ばれた白い鳩がキースを嘴で突き、爪で引っ張ったり羽ばたいて視界を遮る。邪魔だ!

 キースは少女を逃がしてアンに殺らせまいと扉から遠ざけるように、窓の方へ揉み合いながらも押しやる。


「――――――――っ!」


 窓の下から雨音に混じり、何かが聞こえた気がする。

 少女は突然下を確認もせず、揉み合いながらキースもろとも窓から身を投げ出した。

 一瞬の出来事にキースは「何故?」と呟くが、直ぐにそれどころでは無くなる。




 落下する少女の背に、銀色に紺碧の煌めくものが見えた。




 少女とキースを包む様に一陣の風が吹いたと思ったら、2階から落ちたにしては軽い衝撃を受ける。傷に呻きながらも少女を探し顔を上げると・・・






 レフ=ルト・マクビウェルに抱き止められ、翼を生やした天使(モルディーヌ)がいた。




次回よりメインに進みます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ