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15 何て楽な仕事だ  キースside

キースsideは

内容ほぼそのままなので、

キースが何を思ってたか興味ない方はスルーして頂いても問題ありません( *・ω・)ノ

 

 最初に依頼を受けた時、キース・ライアーと名乗る男は「何て楽な仕事だ」と思った。

 獲物(ターゲット)は小動物の様に可愛らしい年頃の令嬢、モルディーヌ・イシュタトン。飲食店通りを歩く金茶色の髪をしたおさげの少女の姿を見ても、楽しくなりそうだと思っただけだ。

 彼女は、イシュタトン伯爵の遺児で。親族は叔母と従姉妹3人のみ。日中は治療院を手伝う変わり者の為、ふらふらと外に出歩くからチャンスは多い。

 始末した後も、いなくなった事をすぐには気付かれないだろう。


「しっかり殺れよ。あの娘が昨夜の事で余計な事を喋るとまずい」

「誰に言ってるんですか?」


 依頼人にそう言って、キースは通りの人混みの中に紛れて少女を尾行した。

 騒がしい食堂とは違い、品の良く洒落たレストランでランチをする少女達をこっそり観察する。昼時で席はほとんど満席の為、隣の席しか近くが空いていなかった。騒ぎを気にせず毒殺するなら獲物(ターゲット)の後ろが都合良かったが仕方ない。

 まぁ、予定では共犯者を使い、首なし紳士(デュラハン)に見せかけて殺すつもりだ。

 食後の紅茶を飲んでいる時に、少女達と顔見知りらしい中区画駐屯兵長のオッカムという青年が顔を出した。

 会話を盗み聞きしたところ、彼女は治療院の医師に口止めされ、昨夜の事は医師とオッカムにしか話していないらしい。

 その内容すらも、依頼人が喋られたくない事に触れていない。


 何て好都合。

 もしかしたら、このお嬢さんは見てないのか?


「モルディーヌ嬢が黙っていれば殺さないつもりなのかもしれないから、とりあえずは見間違いにしときなよ。こっちはこっちで、一応探ってみるからさ」

「わかりました。何か解ったら教えて下さいね」


 オッカムのこの言葉に、少女の警戒心が少し下がったのが分かった。連れの従姉が化粧室の前で友人と会ったのか話が盛り上がっている様子が見え、まだ話し終わりそうに無いと判断し、オッカムが退いた席に座った。

 少女が驚いた顔で此方を見たが構うものか。

 人好きのするであろう笑顔を浮かべて頭を軽く下げる。


「いきなり失礼しました。可愛らしいレディと知り合いになりたかったもので。と、言いたいところですが、先程の兵士との会話が隣の席だった為偶然聞こえました。その内容が仕事上気になったので、少しお話よろしいでしょうか?」


 そう言ってテーブルの上に名刺を差し出す。大衆向け新聞社の会社名と偽名が載っているのを見て少女が呟く。


「キース・ライアーさん?」

「はい。気軽にキースと呼んで下さい。名刺の通り、しがない記者をやってます。――――表向きは」


 人差し指を口元に持っていき、キースは声を落とした。


「お嬢さんは、《秘密の影(シークレットシャドウ)》をご存知ですか?」


 知っているのであろう。

 困惑したような表情を浮かべる少女を見てキースは笑みを深めた。


「ご存知のようですね。話が早くて助かります」

「噂程度ですが。先程の話と関係あります?」

「はい。実は、わたしは元々秘密の影(シークレットシャドウ)の諜報員でした。あ、一部の輩と違い汚職には関与してませんでしたよ。五年前にブラットフォード公爵閣下によって組織は廃止解散されましたが、わたしの様に無実の諜報員は密かに集められ、新たな諜報組織が再度設立されました」


 元々諜報員であった事だけは本当だ。加虐趣味が高じて諜報活動中勝手をするから、廃止時に完全にクビになったが。

 だからこそ、少女の始末依頼がきた。

 嘘にひとつの真実を混ぜて信憑性を出す。

 おそらく機密事項であろうことを、あっさり話すキースに疑問を持ったようだが、何を思ったか少女は勝手に納得してくれたようだ。

 此度の事件が中々解決しないせいで、ブラットフォード公爵閣下が困っていること。そのため自分達諜報員が少しでも解決の糸口を見つけるべく情報を集めていると伝える。


「もしよろしければ、昨夜の現場まで案内して頂けませんか?昼間の陽の光の下なら、昨夜見えなかったものが見つかるかもしれませんし、わたしは諜報員としての視点でお助けできるかと」


 そこで首なし紳士(デュラハン)の犯行に見せて殺す。

 いろいろと可愛い少女で遊びたいが仕方ない。


「先程の話を聞かれたなら解ると思いますが、駐屯兵の方でも気にかけてくれる様なので、私達が行かずとも情報は集まるのでは?」


 少女の言葉にキースはゆるゆると首を振った。


 行かなければ殺せないじゃないか。


「いいえ。正直なところ、先程の兵士を疑う訳ではないですが、兵士達をあまり信用しない方がいい。お嬢さんも噂等でご存知かと思いますが、軍内部は少々揉めてます。汚職に少なからず関わっていた輩は処罰を受けてなくとも、仕事や収入源が減り肩身の狭い環境になりました。ブラットフォード公爵閣下を逆恨みし、失脚を狙っている輩は事件が解決してほしくないでしょう」


 そう言いながらキースは内心嗤うしかない。

 まさに、あの短気な依頼人の事だった。恐らく、その背後にいる彼の御仁も。


「証拠を見つけても、揉み消されると?」

「残念ながら。その為に我々がこうして、町方駐屯兵とは別に動いています」


 少女の疑問にキースは白状するように言い肩を竦めて見せた。


 町方駐屯兵が真実に辿り着く事はない。

 その前に揉み消させてもらおうじゃないか。


 夕刻に少女と現場へ行く約束を取り付け、キースは大いに満足した。

 時間までに共犯者へ連絡を取り、シンプルな作戦を立てる。

 恐怖で失神でもしてくれると楽だが、本物の首なし紳士(デュラハン)に遭っても、駐屯所へ駆け込む元気がある少女だ。そう上手くはいかないだろう。

 仕方がないので、ナイフで少女の顔を潰し、痛みに呻いているところで首を落とす。

 これなら首から下に傷なく、今まで通りの連続殺人鬼首なし紳士(デュラハン)の犯行に見えるだろう。


 これで、楽して報酬が貰える。









 結果から言うと失敗した。


 まず、スタートから何かがおかしかった。

 少女が何かから逃げてきたのだ。


「どうしたんですか、お嬢さん」

「っはぁ。し、視線を、感じて・・・」


 息を切らし、何とか呼吸を整える少女を見て、キースは辺りを見回す。昨夜の件は見間違いと処理されたが、近隣住民は悲鳴や物音を聞いている。警戒して夕刻には人の姿は消えていた。


「特に怪しい人影は無いようですね。姿は見ましたか?」

「い、いえ。・・・自意識過剰かもしれませんが、さっきまでは視線が」

「そうですか。案外、お嬢さんに惚れた誰かが見てただけかもしれませんね」

「・・・あははっ」


 昨夜の件もあって、ピリピリしているだけだろうと思い深くは考えなかったのが間違いだった。


「とりあえず、現場を見てみましょう。もし何かあっても、わたしが守りますよ。諜報活動で多少は鍛えられてますから」

「そうですね。ありがとうございます」


 少女を促し、通りを曲がった先にある現場の捜索を始めた。


「雨で流されたのか駄目ですね。キースさんの方は何かありましたか?」

「いえ。残念ながら血や足跡の痕跡はないですね」

「そうですか」


 ため息を吐き出し、少女は肩を落として項垂れている。キースは慰めるように肩を叩いた。


「もう、駐屯兵によって隠蔽された可能性もありますが・・・・お嬢さん、この痕は?」

「どこですか?」


 キースは少女の肩を掴み、共犯者が狙う標的(ターゲット)が動かないようにした。


 ――――と、いきなり白いものが視界に飛び込んで来た。


 咄嗟にキースの手が弛み、少女は顔を背けながら屈みこんでしまった。

 そのまま白いものの助けをかりた少女にはナイフが全然当たらなかった。


 馬鹿な!ナイフが全て避けられた!?





後2回ほどキースsideです

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