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13 馬車と私と彼と  オッカムside

今回は前半モルディーヌ、後半オッカム視点です。

何故かヒーローより先にサブ視点!

 

 咄嗟に頭が働かず、モルディーヌは何が起きたのかすぐに判らなかった。


 掴まれた腕が自分を引き上げるのを感じて反射的にそちらへ飛び込むと、庇うようにきつく腕を回された。

 その直後に馬車が勢いよく駆け抜ける風を背中に感じて寒気が走った。この勢いで轢かれていたら即死か、重傷を負っただろう。

 飛び込んだ先の温もりにすがりついてしまう。

 モルディーヌを引き上げてくれた腕が弛み、包み込むように抱きしめ直された。

 詰めていた息を吐き出し、呼吸を整えながら息を吸い込む。シダーウッドの優しい香りにホッとした。


「怪我はないか?」

「・・・昨日もこんな事あったわね」


 耳許で囁かれた問いに安心し苦笑いが零れた。

 とても心配してるように聞こえない淡々とした声だが、瞳には心配の色が浮かんでいるのだろうか。

 昨夕と違うのは、この人に恐怖を感じなくなっていることだと、レフの胸に額を押し付ける。


「判ってると思うが、俺はあの女の共犯じゃないからな」

「え?何の話?」


 顔を上げると、真剣な瞳がモルディーヌを見ていた。


「君を馬車の前に突き飛ばした女だ。君を助ける間に逃げられた」

「もしかして、さっきの色っぽい美女さんが私を押したの!?」


 苦々しく眉根を寄せたレフが、近くにいた兵士を呼んだ。先程の事態にすぐ動けなかった兵士は、びくびくしながら此方へ飛んで来た。


「おい、お前。先程の馬車と女は見たな?」

「は、はい!!ま、まさか、このような場で貴方様にお会いできるとは!光栄です、レフィ「レフ=ルト・マクビウェルだ!」っか!え?、は、はい!マクビウェル卿!!」


 びくつきながらも興奮した様子の兵士がレフの名を呼ぼうとした時、明らかに不自然に被せてレフが声を張り上げた。


 レフ=ルト・マクビウェルは偽名?

 存在しない人物だから、私が周りに言い触らして首なし紳士(デュラハン)騒ぎの犯人、人殺しだと後々知られても構わないと?

 この兵士はこの人(レフ)の本当の名を知っているのね。


 身を強張らせ訝る視線で見上げられている事に気付いたレフがチラッとモルディーヌを見た。深々と息を吐き、こちらを片手で制する。


「必ず説明するから、今は聞かないでくれ」

「貴方そればっかりね!」

「そ、そちらの可憐な方は、レ、マクビウェル卿の?」


 また言い間違えそうになった兵士が、レフに抱きしめられたまま膨れっ面で怒るモルディーヌを赤い顔でチラチラ見て言葉を濁す。

 その様子にレフが苛立った目で刺す。


「俺の想い人に不埒な目を向けるな。惚れても殺す」

「何言ってるの!?誰も私をそんな目で見てないわよ」

「君は世の男達がどれだけ未婚の乙女に悩まされてると思ってるんだ。俺ですら君の前では危ういんだ、自覚しろ」

「なっ!?は、破廉恥だわ!!」


 真面目な顔で淡々と何か言い出したレフの顎・・・には届かないので胸に頭突きをかまし、横腹を殴るが抱きしめられた距離のせいで全然威力が出ない。

 兵士に生温かい目で見られていることに気付き、逃げ去りたいがレフが離してくれなかった。


「おい、いつまで見てる。さっさと出口に行き、先程の馬車と女の出入りを調べろ」

「は、はい!すぐに行って参ります!」


 逃げようともがくモルディーヌを抱き締めるレフに睨まれた兵士が真っ赤な顔で敬礼し、直ぐに走り去った。その後ろ姿を見ていたら「おい」と、低く冷たい声が聞こえた。

 顔を向けると不機嫌そうなレフがモルディーヌを見ている。


「まさか、ああ言うのが好みか?」

「何でそうなるのよ!違うわよ!」

「違うのか。俺は?」

「――――――――っ知らない!!」


 そっぽを向いたモルディーヌだが、兵士は好みでないと答え、レフに対しては知らない!と答えなかった時点で答えてるようなものだ。


 いや。だって第一印象恐怖だったけど、その時ですらキレイな顔だなって思ったし。

 殺される心配がない目で新たに見ると悪くはない。

 もちろん、前に考えた生理的に無理な人にも当てはまらない。

 あ。この理論だと兵士に濡れ衣だ!ごめん。

 でもこれで兵士が悪くない的なこと言ったら面倒な事になりそうだな。

 あー!タニミアみたいなイケメン大好きではないけど、嫌いではないから好みか聞かれると困る!

 でも、この人が何者かもわからない今深く考えたくない。

 もし万が一好きになって、嘘だったとか、どうしようもないとか、無理な人とかだったら・・・


 モルディーヌの言葉にレフは機嫌を直したらしく、一先ず落ち着けるように過保護なぐらいがっちりエスコートし、馬車騒ぎで空いてきたカフェに入った。







 少し遡り。

 昼過ぎの現場検証後、キース・ライアーを南区画の家まで送り届けた中区画駐屯兵長オッカムは近くの路地でジッとキースの家の様子を窺っていた。

 昨夕もキースを送ったが、直ぐにサムへの伝達やレフ=ルト・マクビウェルに合流するべく後にしたのだ。

 レフとモルディーヌを思い出し笑みが零れる。


 まず、レフが急にオッカム管轄の中区画に引っ越してきて驚いた。仕事もあって連絡だけ受けていたが、何故?と思った。

 さらに、夕刻に南区画の駐屯所に首なし紳士(デュラハン)の件で向かっている最中に飛び込んできた治療院の天使モルディーヌ・イシュタトンと接する様子。

 誰だ!?と、普段のレフを知る者なら目を疑うレベルだ。モルディーヌが顔を上げた時、微かに笑みを浮かべていたのだ!いつも無表情か僅かに眉を動かすしかしないのに!

 その後も抱き締めたまま手を離さないから、モルディーヌが可哀想な事になっていた。面白すぎて、助けを求められていると解っても気付かないフリをしてしまった。ごめんねと、一応心の中では思っていた。

 だが、これでレフが態々引っ越した理由を理解した。

 狙われる事になってしまった彼女を人任せに出来なかったのだろう。レフとは別に報告を上げたとき、一時期レフの親代わりであった()は大爆笑して喜んでいた。

 しかし、そのせいで早く片を付けないとモルディーヌはますます危なくなる事も決定した。レフの正体が向こうの黒幕にバレたらモルディーヌが(にえ)にされてしまう。

 駐屯所サイドで唯一レフの正体が事務次官室の事務員ではないと知っているオッカムとしては、モルディーヌに事情を説明(正体をバラ)して安全な場所に監禁して死んだことにするか、囮にして黒幕を誘き出せないかと思ってしまう。


 死んだことにも、囮にもしたく無いんだろうな。

 きっと、モルディーヌ嬢の中でレフ殿は謎の塊だろうに、あれで口説こうとするレフ殿は強者過ぎるよ。

 前々からモルディーヌ嬢の事は可愛いと思ってたし、本当にチャンスがあったらとか多少思ったんだけど。

 息のぴったりあったダンスを見せつけられて、治療院での面白いレフ殿とモルディーヌ嬢見てるのも悪くないって思っちゃったんだよな~。


 感慨に耽っていたオッカムは、キースが家を出て来たのを見て、慌てて路地の陰に身を潜めつつ様子を窺った。

 キースはオッカムに気付かず、路地裏の寂れて人のいない所へ向かっていく。昼食後の人々で賑わう商店街からの喧騒が微かに聞こえる場所に着いたキースは木に寄りかかり人を待っているようだった。塀の高い家が並ぶせいで見通しが悪いのを活かし、オッカムは塀内側の隙間から路地の様子を把握する。


 直ぐに男がひとりやって来た。さらに、男には気付かれないように物陰に女が潜んだのがチラッと見えた。

 男はキースを怒鳴り付け、随分苛立った様子だった。


 成る程。アイツが件の家に通じてたか。

 証を持って行き、モルディーヌ嬢の始末を任された。

 それを自分で殺らずキースを雇った。屑だな~。

 物陰にいるのがライアー氏の共犯者かな?


 偉そうに文句や命令ばかりの男に恭しく一礼したキースは、男の側を離れて路地裏の角にある物陰に近付くように奥へと進んだ。男はキースと逆方向に歩いて行った。


 さて。どちらを追おうか。


 オッカムが考えている内に、キースは歩きながら物陰に向かって声を投げる。


「わたしは兵士(サム)を。あなたはお嬢さん(モルディーヌ)を。今度は殺り方は拘らず仕留めましょう」

「了解、キース兄さん」


 艶めいた声が返事をして、ふたりも路地を去って行く。

 オッカムはもう迷わず足を動かした。







 そして、ヴォルフォレスト・ハイガーデンのカフェにいるレフとモルディーヌは知らせを受けた。


 サムが首なし紳士(デュラハン)に殺され

 オッカムはサムが襲われた所に助けに入り

 重傷を負った

 意識は無く首なし紳士(デュラハン)の姿もわからないと。









レフ視点はネタバレするので保留中です

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