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9 治療院と男3人

複数人会話が多いため分かりにくかったらごめんなさい

 

 週の中日である今日の午後は、往診でゲオルグが居ない日だ。午前のみ治療院を開けるので、朝から昼にかけて大忙しである。


「ゲオルグ先生。包帯巻くの代わります!」

「ああ、頼む。終わったら奥から午後の往診用に消毒の予備を出してくれ」

「はい!」


 シーズン中の7ヵ月だけとはいえ、もう手伝って3年になる。簡単な処置ならできるモルディーヌは、忙しいゲオルグを助けるべくきびきびと働いた。勿論、笑顔や声かけも忘れない。

 今いる患者で終わりだと腕捲りを直し、包帯を丁寧に巻く横で、治療後に待合室で談笑している常連患者たちの声が飛んでくる。


「あぁ~。今日もモルちゃんに癒されるなぁ」

「何てったって、この治療院の天使だからな!」

「そういやぁ、昨日の夕刻女房がモルディーヌちゃんが恋人らしき紳士と仲良く歩いてるのを見たって言ってたぞ!?」

「おりゃ、昼間に良い男とランチしてるの見たって聞いたぞ?」

「昨日デートしてたのかい?」

「何だと!?モルちゃん好い人ができちまったんか!」

「誰だそいつぁ!俺らが見極めてやる!」

「つ、遂に、俺らの天使が!?」

「モルちゃんは嫁に行ったら、此処には来れなくなっちまうのかい?」

「そんなぁ!!嘘だろ!?」


 騒いでいた患者達が、一斉にモルディーヌを見る。昨日の事は人目についてると思っていたが、予想以上に噂が出回るのが早い事に頭を抱えたくなった。

 包帯の巻き終わりを止め、弛くないか確認しながら答える。


「違いますよ!彼は昨日引っ越して来たお向かいさんで、親切に送ってくれただけです!恋人どころか仲良くもありません!」

「・・・へぇ。ところで、ランチしたのは誰だ?」

「えっ!?」


 思ったよりも力強く否定をしてしまったモルディーヌは、背後の入り口から発せられた低く淡々とした声にびくりと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。

 そこには、渦中の見目麗しい寝不足原因がいた。レフは端整な顔を歪め、不機嫌そうにモルディーヌを見ている。目が合うと、唇から胸元へ視線をさ迷わせた後にそっぽを向かれた。何なんだ。


「ご、ごきげんよう?えっと、何故此方に?」

「昨日の、夕刻の件で確認したい事がある。この後時間はあるか?」

「・・・ふたりで?」

「不服か?ランチの男のせいか?」


 夕刻の件とは、ナイフによる襲撃にあった事だろう。正直また襲われるかも知れないから出歩きたくはないが、もやもやするのを解決するためには、いろいろと確認したい。

 だが、例え首なし紳士(デュラハン)で無かったとしても、人殺しをした人間を信用してふたりで出かける事はしたくない。


 不機嫌そうな顔をされてもな。

 殺されたくないし、当然不服ですけど!

 何なんだこの人は!

 淡々とした興味なさそうな声なのに、声の調子に内容と顔が一致してないんですが?

 ランチランチしつこいよ。

 ん?いや、待て。ランチの男って、


「ランチは俺の事かな?」

「いえ。わたしでは?」


 はい。何か増えました。

 タニミアにイケメンと呼ばれた、良い男らしきふたりです。

 またイケメン日和!?


 レフが立つ入り口から、にょきりと顔を出したオッカムに続き、キースまでいた。息を吐いたレフがふたりに目を向ける。


「ははっ!レフ殿に睨まれるとドキドキしちゃうんで止めて下さい。タニミア嬢とのランチの邪魔して少し話しただけですよ」

「わたしも同じく。お嬢さん、ふたりではなく4人ですのでご安心を」


 いきなり入り口に現れた見目の良い3人に、先程まで騒がしかった患者達が呆気に取られ静かになっていた。

 ひとりの患者がハッとして気を取り直す。


「な、なんでい!誰も恋人じゃねぇじゃないか!」

「お前が早とちりして要らんこと言うから」

「え?俺のせいか!?」

「いやいや、俺らの天使はモテるからな。いつそうなっても可笑しくない」

「現にコイツらほんとに顔良いしな。女集は騒ぐわな」

「ちっ。顔かよ!モルちゃん顔に騙されんなよ!」

「おうおう、兄ちゃん達はモルちゃん狙いか?玩んだりしたら俺らがぶっ殺すぞ!!」


 ひぃっ!止めて!

 不吉な事言わないで~!

 たぶん違う意味で狙ってる人がいるから!!

 リアルに命の方が玩ばれそうです。

 おじさん、きっと返り討ちにされるよ!


「本気なら問題ないんだろ」

「へ!?」


 本気で殺る気!?

 止めて!

 誰にもまだ人殺しって口外してないから!

 こっちに意味深な目を向けないで下さい!!

 心臓がバクバクなんで

 ほんと止めて!

 見逃して下さい。


 全力で念を込めた熱い瞳でじっと見つめると、口許に手をやってそっぽを向かれた。駄目って事か、涙出そう。


「あれ?チャンス有るなら俺も本気で口説こうかな。どう?モルディーヌ嬢。レフ殿より逞しくて性格も明るいし楽しいよ!結構、優良物件だと思うけど」

「おや、そう言うことなら。わたしは如何ですか?おふたりより、がたいや背は劣りますが、その分威圧感もなく優しいし、責任持って最期までお付き合いしますよ」

「お前ら便乗するな」

「ははっ、普段顔色ひとつ変えないのに。レフ殿の眼差しに本気で心臓がヤバいです。俺ときめいちゃいますよ~」

「若さですかね。目で人を殺せそうとはこの事ですね。羨ましい限りです」


 何だか人をネタに遊び始めた人達が入り口を塞いでいる。迷惑な人達だ。お引き取り願いたいがひとりの目がヤバい恐い。

 その時、隣の診察用の衝立からゲオルグが最後の患者の診察を終えて顔を出す。


「さっきから何の騒ぎだ!騒ぐ奴は帰れ!」

「あ。ゲオルグ先生」

「おい、モル。どうした?顔が真っ赤だぞ!?誰がお前を困らせた?泣くな!」

「泣いてませんよ」


 モルディーヌの顔を見て飛んできたゲオルグは、小さな子供に問いかけるように両肩を掴んで目線を合わせてきた。


 そんなに困った顔して、るよね。

 こっちは殺されたくないから必死だからね。

 心拍数上がってるせいで顔が熱いし、目が潤んで大変だわ。

 泣かないけどね!

 いや、泣いて解決するなら泣くけど。


「はい!モルディーヌ嬢を泣かしたのはレフ殿で~す」

「おい、オッカム」

「だから、泣いてませんよ」


 ふざけた調子のオッカムが、レフの左手首を掴み挙手させていた。昨日から思っていたが、このふたりの関係性が謎過ぎる。

 ひどい顰めっ面のレフを見て、何か忘れている気がした。何だろ?


「ふんっ、向かいの若造じゃないか!――――っ、おい!手を見せてみろ!」


 レフを一瞥して片眉をあげたゲオルグの言葉に思い出した。


「あ!そうだった、すっかり忘れてた。さすがゲオルグ先生!貴方、切り傷あったでしょ?」


 一昨日の夜目撃した時、他に目がいきすぎてすっかり忘れていたが左手首に軽い傷を負っていた筈だ。

 人殺し確定証拠を集める為にも、早く確認すべくオッカムから腕を引ったくる。目を丸くしたレフを無視して左袖を勝手に捲る。手首に巻かれていた包帯をするするほどいて、血の染み込んだガーゼを外した。

 あの時は暗くてよく見えなかった傷をよく見て、見立てに誤差が無かった事に安堵する。少々傷痕は残るだろうが、防御創にしては傷は浅いようだ。

 ゲオルグに確認してもらおうと、レフの左肘辺りを右脇で挟み込み、手首の外側を掲げるようにして連行した。


「先生!1日半経過の刃物による切り傷で、見た目程は深くはありません。傷薬は18か20で、良く動かす部位なのでEテープで開くのを塞ぎ、ガーゼと包帯で処置はどうですか?」

「どれ?ん~そうだな。染みても平気なら18の方が早く治るだろうな。だいぶ判断出来るようになったな!」

「ふふっ!」


 うんうんと頷きながらゲオルグが頭を撫でてくれたので、モルディーヌは笑みをこぼした。

 そのまま、騒いだ迷惑料としてレフが処置の練習台になってくれると、何故かオッカムが請け負ってくれる。

 処置するために、脇で固定していた腕を離して振り返ると、レフは目を右手で覆って上を向いていた。ガーゼ剥がしたのが痛かったのかもしれない。

 周りを見ると、オッカム以外の人が憐れみの目をレフに注いでいた。


「え?そんなにガーゼ剥がしたとき痛がってたの?気付かなくてごめんなさい」

「いや、痛くはないが、その、―――が、当たってたから」


 ぼそぼそとした返事で何を言っているか聞こえない。淡々とした声はお留守のようだ。

 因みにオッカムは、ものすごーく肩を震わせ腹を押さえながら笑いを堪えていた。


 何が?

 まぁ、恐い目で見られてない方がやり易いしいいか。

 手当てして恩を売る訳じゃないけど

 見逃してくれないかなー。


 とか思いつつ、モルディーヌは包帯を巻き終わった。

 その後、4人で軽くランチしてから昨日襲われた場所に向かったが、ランチの間中レフと目が合うとすぐ反らされた。


 精神的に平和だ!




レフと、オッカムが書き始めの時に思ってたキャラと違う方向に進み始めました。


モルさんの精神むらは若い子特有の謎だと思います。



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