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作品集 ~望世録~

時が吠える

作者: 未知空


 『時』が、私の背後で吠え立てる。

 お前の全てを食ってやる、と。

 そのたびに私はいつもより速く歩くのだ。

 それがどんなに辛くても、決してやめることは出来ない。


 だが、そんな『時』も決まって吠えないときがある。

 私が幸せなときと、私が楽しいときだ。

 そのときだけは、『時』の吠え立てる声が聞こえなくなる。


 しかし、いざ私が一人になると『時』は吠え立て始める。

 私が幸福に浸かっていればいるほど、強く吠え立てる。

 まるで、その幸福はすぐに無くなるのだと言うように。

 警告するように『時』は吠えてくるのだ。

 そしてまた、私は歩を速める。『時』に追いつかれないようにと。


 いつからか、『時』の吠え立てる声は聞こえなくなっていた。

 もしかしたら、聞こえていないだけかもしれない。

 決して振り返ることは出来ないが、振り返れば『時』はまだそこにいるのかもしれない。

 『時』の声が聞こえなくても、幸福というわけではないらしい。


 私はもう二度と『時』の声を聴くことはないだろう。

 死が私を旅路に誘うそのときまで、『時』が私に吠え立てはしないだろう。

 そのことに微かな安心を覚える。

 『時』の迫る恐怖をもう感じなくて良いのだから。

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