魔女達の束の間の平和の宴
「電気の消された暗い部屋にグツグツと煮えたぎる音だけが響き・・・」
ぐう~~・・・・
「音だけが響き渡る。北欧の魔女が何かを入れ怪しげに鍋を一回・・・二回とかき混ぜる。」
「どうでもいいけど義姉さん。さっさと最後の具材入れてくれないか。また倒れるぞ?」
「うっさい!まじうっさい!人が雰囲気を出してあげてるっていうのに!全く!ホラッ!入れたわよ!」
カナタは隣に座っている渚に手を握られながらこの状況を何とかしなくてはと頭を悩まさせていた。
カナタが義理の姉をソファーに放り投げ、渚が丁寧に空いたスペースにシャルを置いて煩いのがいないうちに夕食の準備に取り掛かっていた時まで遡る。
冷蔵庫を除くとあの義姉は全く自分で料理をする気がなかったようで飲み物以外の場所はここ三日間微動だにしていないようだ。
それならばと一種類を複数作る事が難しいとみたカナタは数種類のおかずを皆で摘まめるようしようと考えた。
渚は一人でテレビを見ていて待っている事に気まずさを感じ手伝おうか?と言いだしたものの思わぬ先輩の手際の良さに動けずにいた。
(あ、アタシだって一人暮らしだし!こんくらい・・・・うわ、手際めっちゃいいんだけど。)
手伝うと言われた後になら適当に作れるの作ってくれと言ったはいいが動けない渚にカナタはしまったと思い渚に白米を炊いて欲しいとお願いをする。
「にしても、すっごいじゃん!手際良すぎ。マジでやる事なくてビビったよ。」
白米を洗剤で研ぐようなありがちな展開もなく、普通にセットし終えると渚はメイン以外の仕込みと数品作り終えている。
ほうれん草のお浸し、冷ややっこ、漬けておいた奈良漬け、茄子のそぼろ和え
今作り途中なのは肉じゃがである。あと40分ぐらいで出来るというカナタを見て渚はヤバいめっちゃ主婦じゃん!先輩嫁にしたいし!と熱視線を向けていた。
(なーんか睨まれてる気がするが・・・何か嫌いな物でもあったか?)
当の本人は全く気づいていなかった。
そんなこんなで数品がテーブルに並び終えるとその匂いにつられた獣が二匹目を覚ます。
「ん~・・・・おいしそうな匂い。これは弟の手料理!アイ ラブ ごはん!!」
誰よりも早く席につきお箸を両手に握るとドンドンッとテーブルを叩き始めている。
「うるせーよ!客人がいるんだ!少しはマナー良くできねーのか!駄義姉が!」
「うっせ!愛しい弟が三日も不良するからいけないんだろ!」
「誰のせいだ!誰の!勝手に人の・・・・」
「人の?」
「・・・・・なんでもない。」
「???」
カナタは危うく口走りそうになった言葉を呑み込む。
「え~いいじゃん!」
とカナタの腕にしがみつく渚を見てムス~っと口を膨らませた時葉は何か仕返しが出来ないかとロクでもない事を考えを思いつく。
「カナタ!鍋追加で!!」
「はあ?」
カナタはどうせ義姉の事だから肉を寄越せというに違いないと考えていた為、生姜焼きをメインにでもしようかと残りの材料と相談しながら考えていた所だったのだ。
それがここに来て鍋とか・・・・
「義姉さん。今から仕込みとかすると時間かかるよ?若干材料も足りないし。」
「材料ならある!!皆が好きな物を3点づつ入れる!それで12個も鍋に物が入るではないか!!」
「・・・・普通に聞くとまあいいかとも思うのだがどうも義姉さんが言うとロクな事を考えてないような嫌な予感がするのだが?」
「ふゅいふゅふゅい~」
「お姉さんって口笛拭けないんですね!同じだし!」
騒いでいる二人。
(このお姉さんを落とせばカナタと・・・公式に・・・)
(へん!今に見てろ!泥棒猫が!愛しい弟は私のもんだ!)
にへへ~と二人で笑い合ってるのを見てカナタはホッとする。
(ああ血の雨が降らずによかったよ、義姉さん知らない女性の事を毛嫌いするからな・・・。)
「はっ、私はいったい何を!」
シャルが目覚めると時葉の提案を聞いて笑顔になる。
「ジャパンの動画で見たわ!闇鍋よね!一度やってみたかったのよ!」
大はしゃぎをしている。
(まさか、闇鍋だったとは・・・入れた食材には責任持てよ、お前ら。)
カナタはやれやれとため息をつくと鍋の用意をするのだった。
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で、話が戻るのだが出来た鍋は香ばしい香りをまき散らしていた。
(渚は料理ができるから安心していいだろう。変な事をしないでくれとアイコンタクトを送っておいた。ばっちりウインクで返された。義姉は何を考えているかわからない。アイツは料理がなまじ出来るがこういう時は自分が食べる事を忘れて暴走する気がある。しかしアイツは料理が出来るから食べ物を入れるのは間違えがないだろう。しかし、シャルは料理が出来るのか?この闇鍋のジョーカーはシャルである。料理できない外人が闇鍋という動画を見て何を学んで来ただろうか?)
「ふふふうふふふ。」
「おほほほほほほほ」
魔女二人から発せられる笑いの声、鍋をグルグルと回す二人はもう魔女そのものである。お願いだからマンドラゴラとかゾンビパウダーとかその手の魔術的な物が入れられてない事を祈るのみである。
・・・・食べたら体調が良くなる漢方などの朝鮮人参とかならいいのだが。この際、味は置いておくとする。
「各位、取り終えたな!では、皆が一口食べたら電気をつける!」
カナタは嫌々ながらも鍋から器に三品入れると三人に声をかける。
「ええ!喰らうがいいわ!私の本気を!」
「お姉様!食べてくださいまし!今宵の為に!」
「え?今宵?」
不穏な声が聞こえてくるが・・・・
『一斉の~せっ!』
カナタは口に広がる味を・・・味がない?あ、少しづつ染み出てきた。を噛みながら電気をつける。
「ぐぼえっ!」
「あ、うまっ!なにこれ!プルプルしてる!」
「・・・・」
二人に言いたい。ブーメランという言葉を知っているだろうか?
義姉の器には具材が3つ。
中々にエグイ状態の牡蠣と蜂の子とイナゴが乗っていた。
シャルの器にはイナゴの足だけが数本混入されておりそれと一品を同時に見た事でシャルが気絶しかけていたのだがメインの中身は
ハバネロ唐辛子と魚の干物とエグイ状態のピータンが何故か入っていた。
カナタの器には
イカゲソ、豚肉、豆苗。特にコメントなし。
渚の器には
スッポンと豆腐と白菜が乗っていた。
当然の事ながら
時葉が持ち込んだ食材はイナゴと蜂の子とピータンである。
完全に嫌がらせとしか考えられない。しかも中華料理系は三日前の夜飯の食材の余りのはずだが・・・大丈夫だろうか。
シャルが持ち込んだ食材は牡蠣とスッポンと乾物である。
二つを食べて燃え上がり過ぎて干からびるまでになろうとでも言いたいのだろうか?女性にも効くかは知らないが食材二つの目的がバレバレである。
カナタは無難である。
用意していて使わないのもなという思いから豚肉と白菜と豆腐の鍋セット。それ以上でもそれ以下でもない。
以外だったのは、渚で。
まともな物しか入れないと思っていたら、見た事ない雑草といいつつ豆苗を入れ。
絶対ないわ。これ凄い奴でしょ?といいながら隠しておいたハバネロ唐辛子を見つけそのまま切る事なく入れ。
イカゲソを何となくゲテモノっぽいからという理由で入れていた。
ハバネロ以外はまだまともだが・・考え方がさりげなく酷い。料理とか何も考えてないに違いない。
まあ、一度揚げてあるゲソなので味がそんなに染み込まないようで美味しく食べさせて頂いているのだが。
「意外と美味しいじゃん!闇鍋!」
ご満悦の渚と普通に食べれるカナタは箸の進まない二人を放置して満喫したのだった。
もちろん、食材は美味しく参加者全員で食べさせて頂きました。
「義姉もシャルも自業自得だ。少しは反省するんだな。」