お呼びでない来訪者達・・・
「・・・意外ね。普通に美味しいわ。」
「なにこれ少し酸っぱい!!腐ってるし!」
紅茶と珈琲を飲んだ二人の反応が真逆である。個人的には入れた元の価格を考えると反応が逆ではないかと思うのだが・・・
「傷んでいるわけではないんだが・・・ミルクと砂糖あるぞ。」
「あ、ありがと・・・」
ミルクと砂糖を惜しげもなく入れてカチャカチャと音を出しながらかき混ぜる。
「・・・渚さん。音をたてずにかき混ぜなさい。あと、カナタ一口頂戴。」
え?何か間違えた?という表情をしている渚にその答えを苦笑いという形で返答をしておく。
「香りがいいわね・・・」
コーヒーカップに口をつけようとし、立ち昇る湯気とともに香る匂いにシャルが微笑む。そして、ゆっくりと口をつけ一口、二口と流し込む。
「・・・いい酸味ね。紅茶程には味を良く知らないのだけれどもこの味、ブルーマウンテンじゃないかしら?女性にいい格好を見せようとしてあなたなら一番高い物のを入れそうよね。そうするとこれブルーマウンテンNO.1じゃない?味もいいわね。夜寝れなくなるから私はもういいけど。」
「・・・味だけで当てて欲しかったけどな。でも味が悪くなくてよかったよ。俺の腕が悪いのかと心配になったしな。こういう時じゃない高い豆を使っての練習が出来ないからな。」
マスターと俺との接客中のサインのやり取りの結果として得たものなのだ。ならばといいものを使わせてもらったのだが・・・サインの内容としては一般人・危険・さっさと行け・なんでもいいだ。
(やっぱ警察か?危ない関係の連中ではなさそうだったし。)
「あ、これなら美味しいかも。」
「・・・カフェラテを初めから頼んだ方がよかったのではないかしら?素材に失礼だわ。」
「え、いいじゃん。美味しいんだし。シャルも飲んでみる?アタシのオリジナル。」
「え、遠慮しとくわ。」
普通に会話が成立しているのに少し驚きを感じる。渚は親しみやすく雰囲気が柔らかいからシャルでも話しやすいのかもしれない。
「さて、アフタヌーンティーも楽しみましたし本題に入りましょうか?」
シャルは紅茶を飲み終えたカップを置くと両肘をテーブルにつき口元の前に両手を合わせる。
「いや、そんな何か重大な話が俺にあるような雰囲気を出しても俺には何もないぞ?」
「そんな見え透いた嘘は私達には必要ないわ。今回は完全に仲間なのだから。」
そんなに真剣そうな表情で今にも何かパターンに青色がついたような状況になりそうな雰囲気で言われても正直困るのだが。
「なんでイジメられてたの?強いのに。」
「え?ああ・・・学校ではこうして、前髪を垂らして授業中は伊達眼鏡をかけた真面目系男子を演じているんだよ。変装のつもりなんだけどね。まー色々と素顔だと・・・あるわけで。イジメられるくらいでちょうどいいんだよ。」
「どうしてそこまで姿を隠すの?」
「それはほら、ヒーローをするには普段は姿を偽っていないと。」
「それは単に周りを巻き込まないようにする為と極東の魔女の義弟だって知られない為よ。裏の仕事をしている人間だと正体が知られれば学園の他の生徒が巻き込まれるかもしれない。仲のいい人間がいると知られれば人質などに使われる。イジメられる立場にいるのであれば確かに正体がバレても人質などの役には立たないわね。後者を隠しているのはより厄介な来客が来るのを避ける為ね。凄腕の魔女狩りの日本人の噂は海外でも有名よ。」
「・・・・はあ、あのなー隠してるには隠しているなりに理由があるんだからそういう風に全てを簡単にバラすなよ。情報を知ってるという事はそれだけで危険なんだぞ?特に本当の無害な一般人にはさ・・・」
そんなことは小さな些事よとでも言いたそうに微かに眉を吊り上げさっさと本題に入れと言わんばかりに苛立ち始めているのがわかる。
「は?裏の仕事?魔女狩り?それに極東の魔女???アタシもカナタに助けてもらって少しはそういうファンタジーな何かじゃないかなとか思ったりしたけど・・・能力者とか・・・」
「ちなみに、シャルは北欧の魔女を継承したその筋では有名な魔女だ。」
「ま、魔女?シャルが?」
何も知らずに普通に友達になったのか・・・よくもまーこんな根っからの女王様体質(姉の前を除く)のやつと損得なしで友達になれたなと少し驚く。見た目の派手さと違い渚は性格がよく常識的な考えを比較的持っている。それにいい女だというのは一夜を共にして知ってはいた・・・・まあ確かにM体質ではありそうだが。
「私の事はいいのよ。今はお姉様の事よ。」
「どういう事だ?義姉さんがまた何かしたのか?」
「またって・・・・」
渚には悪いが義姉さんのやることなす事、ロクな結果にならない事が多く一部の人たちからは災害認定されているのだ。
「いえ、今度はお姉様自身を狙っている奴らがいるのよ。」
「・・・初耳だな。」
狙われているってストーカー?などと驚いている渚だが、そんなものが義姉を狙っているのなら正直、シャルがこんな真剣な表情をしているわけがない。仮にストーカーだとしたら相手に同情をしてしまう。同情と死ぬなよと心で祈ってやる事しかできないわけだが、少しでも義姉が気まぐれにストーカーにでも好意を見せたならばその時は全力でそいつを応援しよう。いい歳なのださっさと誰か引き取ってくれないだろうか。
(おっと家族の愚痴になってしまった。)
「とにかく、俺は初めて聞いたぞ?義姉が狙われているなんて・・・・可哀想に・・・」
「まったく・・・とも言えないのよ。今回は相手も相手よ。万が一があるかもしれない。」
「それを口実に義姉さんに会いに?」
「そうそれを口実にお姉様に会いに内緒で抜・・・ゴホンッ。同盟の友を助けに駈けつけたのだけれど。」
国管理の核弾頭扱いの魔女が国を内緒で抜けて来るなよ。色々と国際問題になるだろう。
「でも誰が義姉さんを狙うんだ?そんな事を出来そうなのはシャルか、西欧の狂乱姫くらいだろう?南の・・・誰だっけ?は10年前の義姉さんに叩き潰されてから再起不能って聞いてるんだけど・・・」
「・・・再起不能ってお姉さんってどんな人なの?ちょー怖そうだし。」
「・・・神よ!」
「・・・悪魔だ。」
あははははっと渚は笑った後、この話題には自分からは振らない方がいいだろうと判断したらしく大人しくなる。
「で?その相手は?今度は何したんだ?義姉さんは。」
どうせロクでもない連中だろう。
「言いにくいのだけれども・・・・今回はどうやら何の絡みもなく一方的に狙われているようなのよ。」
シャルはそういうと思ってもいなかった名前を出してきた。
「イギリス最古参の魔術組織の一つ紅蓮の守護者。組織全体でお姉様を狙ってるそうよ。」