それは偶然のような出会いで
舞台は移動しバイト先へ
三人は午後の授業をサボり校外へと抜け出していた。
向かった先はカナタがアルバイトをしている喫茶店である。向かう先を電車に乗りながら説明している最中にまさか渚から「うちの学校ってアルバイト禁止なんじゃ」と言われるとは思わなかったカナタである。
(同じ校則違反仲間がそれを言うか!!)
と心の中でツッコミをいれるに留めておいた。
「ここがそのバイト先だ。」
学園からは4駅とそう遠くない場所にあるが降りてから商店街を抜けたさらに先にある為、学園からは乗り継ぎを含め30分といった所にある木造の雰囲気のある店である。
喫茶店、月の雫。
『おお~』
二人が同じ反応をするが、シャルに至っては目が輝く程に興味を示していた。
「お前、こういうの好きだったんだ。」
「いかにもって感じじゃないの!」
いかにもって何がいかにもだかはわからないのだが、そうだなと適当に相づちをうっておく。
「アタシこういう喫茶店って初めてかも・・・漫画でも見ないし。こういう所のコーヒーって美味しんでしょ?楽しみ!!」
ギャルと喫茶店・・・・こうして一歩二人から離れて店を背景にして見ると全然合わない。
「とりあえず、ここで立っていてもしょうがないし中に入ろう。」
カランカランカラン・・・・
「いらっ・・・てなんだお前かって、女連れ!!って、ギャルと外人!?っていうか、右の外人ってまさか!!」
落胆しては驚き、さらに驚き驚き倒すってどんだけ驚いているんだマスター・・・マスターが俺がカウンター内にいる時に逆の立場なら同じように驚きそうではあるが、確かに今まで誰一人として連れてこなかったアルバイトが女を二人も連れてくるとは思わないだろう。そしてそれが、勝手なイメージで申し訳ないがいつも20歳以上の人しか来ないうちの喫茶店にギャルと外人を連れてきたら驚くだろう。そして、マスターはこちらの事情にも通じている仲間である。外人の正体を知っていてもおかしくはない。ある意味有名人だしなこのちっこいの。
まあ、義姉さんの仲間であるうちは無害なのだが、普段遭遇すれば知ってる人間からすれば絶望の災害レベルのやっかいな存在なのだが、義姉さんに対してシャルは自身も同レベルの化物なのに何故か姉さんを崇拝する従順な信者のようなものになりさがる。そして義姉の知り合いに対しては物凄い常識的な人間・・・に近いレベルにまで納まる。
しかし、意外だったのはそんなシャルと普通に渚が会話をしている事だ。何か波長があったのだろうか?
「取りあえず、奥借りるよ?義姉さん来てる?」
「い、いや、今日はまだ見てないが・・・・あ!奥使うなら今は!!」
「大丈夫だ。既に知られてる。」
二人を奥の部屋に先に行くよう案内する。申し訳ないが飲み物をご馳走する代わりに鞄を先に持って行ってもらった。そこは”普通”の客には使わせない場所であり、今関係する何かの道具か何かを置いてあるのだろう。普通の女子高生が混じっている事で焦ったのだろうが・・・。
「例の事件の子だよ・・・まさかの後輩だった。しかもシャルのクラスメイトとか・・・どんな確率だよって感じ。」
「おいおい・・・ここでそれ言うか?」
カウンターに入り冷蔵庫に保管していた布をパックから取り出し金属の棒に通していく。
「マスター彼とは知り合いなのですか?」
カウンターに座る男女の客の視線を感じる。
「あ、ああ、こいつは息子のような存在でな。コイツの姉に10年前に命を救われた恩もあって面倒を見ているのさ。普段はバイトとして雇っているのさ。」
「何か事件にでも巻き込まれたのですか?」
「あー・・・・たいした事ない出来事さ。」
「命を救われたのに?」
マスターが言いづらそうにキリッとした女性に話している。こういう話し方をしているという事は一般人か・・・。
「へー・・・若いのにネルドリップの手際とか・・・僕にもついでにお願いできる?」
若い男性は興味がないらしく飲み終わったコーヒーのカップを見せてくる。
「お代はちゃんと頂きますよ。練習価格で半額でいいですが・・・飲み過ぎは良くないですよ?」
「大丈夫!コーヒー大好きだから!それにもう少しで仕事上がりだけど今日はもう24時間は起きてるから。ん?今日じゃないか、どうもこの仕事をしているとこの手の感覚が狂ってくるなー・・・」
「そちらの綺麗なお姉さんは?」
まだ綺麗だけれどもきつそうなお姉さんに触れられたくないであろう過去の話を根掘り葉掘り聞かれているマスターを見て助け舟を出してみる。
「私はいらないわ。それで、その後は?」
(・・・助け船終了。泥船でした。)
「そうですか。」
ゆっくりと三杯分のコーヒーを入れた後、紅茶を用意しておく。
「どうぞ。」
カウンターから男性にコーヒーを渡す。
「どうも。んー・・・いい匂いだね。味は・・・やっぱりマスターの方が上だね。でも美味しいよ。」
「当たり前ですよ。俺の店なんですからね、まだまだ弟子には負けませんよ。」
マスターは当然と言ったようにこちらをみてこれ見よがしにへへんっとか胸張って言っている。鋭い視線に冷や汗を流しながら無理やりにでもこちらの会話に入ろうとしているようだ。
しかし、逃げる為とはいえ、アルバイト相手に何をそんなに大げさに・・・大人げないとムカっと来たが俺自身はコーヒーを習い始めて3年目だ。10年以上やっているマスターに将来的には勝ちたいがそう今すぐにというほど簡単に抜けるとも思っていないので黙って3人分の飲み物をトレイに乗せる。
けれどもこちらは都合よく子供や大人を使い分けられる年齢である。
(ここは子供らしくこの前義姉さんに対して舌音痴とか言って最高級のコーヒー入れてと言われた時に100円のインスタント入れて、ほらな!美味い美味い言ってた義姉を馬鹿にしてたのをチクってやろう。)
こちらはマスターに訪れるであろう悲しい出来事を想像し横斜め下を向き哀愁漂わせながらフッと一息ついておく。
トレイを運びながら女性の前を通過しようとすると
「そういえば、貴女も事件がとかさっき言ってたわね。」
(・・・矛先がこちらに来た。何この人。絡み過ぎじゃないか?肉体的には絡み合いたいですが。)
「ああ、あの後輩のギャルと知り合うきっかけがちょっとしたトラブルだったんですよね。」
「ふーん・・・・そういえば今日学校はどうしたの?」
何だろうこの人誰かに似ている気がする。
「今日はもう終わって帰って来たんですよ。」
「ちょっと牧さん!なに子供に絡んでるんですか。」
隣の男性がごめんね・・・本当にと言ってくる。
そして、2人が待つ扉の先に入る瞬間聞こえた声にとある人を思い出す。
「北洋高校って今日は午後も授業あるはずなのよね。それに、アルバイト禁止のはずなのよね。」
(あの人、佐伯さんと同類だ!・・・・警察に違いない!)
だから察したマスターがあんな挙動不審だったのか・・・単に美人な警察官に凄まれて誰かのトラウマのせいで委縮していただけかもしれないけど。