再会は最悪で・・・
「では校内をしてさし上げなさい。」
その役目は当然であるかのようにアタシに託された。私以外の皆が示し合わせたかのように視線を教師から反らせたからだ。
そもそもいい歳した高校生に対して校内案内など必要ないだろうとも思ったのだが、そこは転校生(権力者)に対しての先生なりの配慮(媚び)だろう。・・・もしくは開始5分でこの空気に耐えられなくなった歴史の教師からの助けてくれというタップ宣言だったのかもしれない。
事の発端は歴史の授業のある四時限目が始まってすぐの事になる。
それはいつもと同じようでいて少し違った静寂と緊張が充満していた教室内で起こった。この学校は元々進学校であり、勉強のできる人間がより上の大学を目指して通いに来る学園である。授業中に騒いだりなどすることは一クラスを除いてないのである。
この学園内で汚点とも呼ばれているのは三年と二年に存在するE組で高校に入り授業についていけなくなった者達や問題のある者達を集めたクラスである。
まーよく知っている似た見た目の知り合いがいるクラスなのだが。
渚のクラスであるB組は文系のトップクラスである。A組は理系である。ギリギリ踏みとどまっている渚ではあるが教師からの印象は見た目により悪い為、あのセクハラ教師が担任でなければC組かE組にされていただろう。
世の中の学校はここのみに限らず大抵は協調性を育てる為にと言いまわりと違う見た目の者に対してそれだけでダメだというレッテルや評価を下すのだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。
正直、くだらないとは思うがそれならば格好ではなく中身や能力を評価してくれる学校に行けばいいだけの事でもあり、それに関しては渚自身もわかったうえでそうしているので落とされても仕方がないといえるだろう。
それこそ渚の知った事ではないが、個性や個人の得意な能力や感性さえ抑制しているような学校は将来的にはそれが仇となり人が来なくなるだろう。まともな名門と呼ばれる所であれば規律もまた美とされそれはそれで残っていくのだろうが・・・。
世界を見れば同族において見た目でここまで厳しく評価をしているのは日本人くらいのものであろう。
渚にとって見た目で判断されなかった事は本来ならば喜ばしい事なのだが、B組に残れた要因が一人の教師にえらく気に入られているという理由である為、最悪と言っていいのかもしれないのだが。何につけても絡んでくるし理由をつけては用事を押し付けてくるのだ。
とにかく、そんな状況にいる中で担任が何も言えない程の相手と親しくなれた事に対しては喜ばしい事であるのだが・・・・。
大人しく勉強をする人間が集まるBクラスで答えと質問をする以外の声は普段からはささやき程度なのだが、本日は一切なく静けさが支配していた。
歴史の教師は教室のいつもと違う空気に胃に負担がかかっているのか、開始早々胃を押さえていた。そして、特定の生徒に対しての緊張のせいかはわからないが、よく噛んだり、汗を拭う仕草を早々にして見せていた。
しかし、誰もがそれに対して文句の一つもない。ところどころで声が聞こえなかったりもするのだが。
そんな中、突然彼女が呟いたのである。
「そういえば私、校内がどうなっているか知らないわね。」
あとは最初の通りである。
彼女と共に私はこうして校内を歩き回っているのだ。
「て、感じかな。」
「ふーん・・・・」
しかし、大抵の所に興味がないらしく、残り時間も無くなりかけた今、残す所は屋上と食堂と今は時季外れなプールを除いては授業中に決して足を踏み入れたくないパンドラの箱、もとい教師の集う職員室のみとなっていた。
あと数分で取りあえずお役目も終わりだと思っていた屋上に着いた時、微かに口元がおもしろそうだと吊り上がった転校生の顔を見てしまい嫌な予感を渚はさせていた。
「おい!聞いてんのかテメー!」
屋上に入った瞬間に怒鳴り声が聞こえ、ビクリッと声に驚き渚はやっぱし!とこの場を去りたくなった。男の人の大声を聞くと・・・怖いのだ。
「ん?怖いならそこに居ればいいぞ?私はアニメのようにこの場を収めたいのでな!隠れてこの上に登るぞ!」
小声で話しかけられ指を指された所を見て渚は悲鳴をあげたくなった。
「うそっしょ!やめときなさいよ!登っちゃいけない所だし!超危険だし!」
「こんな所が危険なわけがなかろう?やはり渚は面白いやつだな。」
確かに目立つだろうけど!と声をあげかけるがそれを呑み込む。
しかたがなく、怪我をさせたくないので付き合う事にしたのだが内心は怖くてしかたがない。
(うう・・・・なんでアタシが・・・こんな怖いのに・・・)
「こ、これで許してくれませんか?」
「足りねーんだよ!」
ダッ!という音が聞こえてくる。この下のコンクリを蹴ったのだろう。
「チッ相変わらず500円とか、お前は小学生か!」
「うけるわお前・・・いつも500円しかないとかどんだけだよお前。言ったろ?さっさとバイト始めろよ。うわーどうするよ、仁ちゃん、またジャンケンして勝った人の総取りにする?」
下を除くと一人の生徒が三人からカツアゲをされているようだ。
「でもそう前に、いう事を聞かなかった罰を与えるべきだろう?くらえ!」
ニタリと取り巻き達が財布でキャッチボールをしながらその様子を見ている中でチャンスが来たと言わんばかりにシャルが動き出す。
「げっ、三年せいじゃん!しかもやっぱE組の一番マズイって言われてる三人組だし!」
「ほう・・・いいではないか。シュチュエーションとしては最高ではないか!誰がこの学園で一番に相応しいか早々に決められるチャンスではないか!」
「ちょ、本気!あ、マジだし!!」
イジメられている少年が殴られそうになった瞬間、仁王立ちをして叫び出したのだ。
「まてーい!悪者どもよ!」
「ま、待ちなって!お願いだからシャルって、うわっ!高っ!めっちゃ怖いし!」
覗き込んだ瞬間
「え?スパッツと・・・・紐パン!?」
イジメられている少年を見て・・・・・・
(う、嘘でしょ!!)
渚は心の中で叫んでいた。
会えないと思っていた少年との出会いは・・・パンツ丸見せの少女とイジメられている少年として実現されたのである。
(こ、こんな再会だなんて!最悪だし!!)