謎のペンダント
目を覚ますと何故か真横にシャルがいた。
いつの間にベッドで寝かされていたのだろう。渚は辺りを見渡す。
「あれは?」
ほとんど何もない部屋。ベッドと机と箪笥しか目立った物が置いてないその部屋で唯一の私物とでも言ってだろう物が目線上にある。
インテリアの一部と言えばそれまでだが、あきらかに意図して残されていると思われる絵が飾られていた。
「これは・・・作者 神楽坂 加理恵?」
それは見事な絵であった。絵心がない渚であってもその絵から感じる何かが胸を打つのだ。夕焼けの街の中を歩く五人の姿。何故こうも胸を打つのかわからないが、この絵に込められたなにかを渚は感じずにはいられなかった。
「携帯にこの人の名前出てきたりして・・・うそっ」
検索すると上から下まで彼女の名前がびっしりと出てきたのだ。その一つをクリックする。
神楽坂 加理恵 21歳 芸術家 海外を中心に活動する日本人画家
その内容は波乱万丈に満ちた内容であった。転落人生からの逆転劇。若き天才の苦悩。地獄を見たから今がある。様々な内容が書かれていた。
「そんな有名な人の絵なんだ。」
「ああ、あの女の絵なのね。は~あ・・・寝起きにそんなものを見る事になるとはね。」
「知ってるの?シャル。」
「知ってるわよ。だって、あいつったらお義姉様と一緒に住んでた事があるのよ?羨ましい。いつもいつも会うたびに自慢してくるのよ!!」
「へ、へ~・・・」
「でも、あまり嬉しそうに話さないのよね。どちらかというと悲しそうな顔をするの。だから余計気に食わないのだけれども。」
ここに住んでたんだ。という事は、カナタとも住んでたという事にもなるのでは?
「この絵、男の人一人と四人の女性が書かれているのだけれど・・・」
「それはそうでしょう、真ん中のがカナタで左がお姉様、右が書いた本人。その左右にいるのはここで働いていたメイドたちでしょうね。そっか・・・やっぱあの子は書かなかったのか。」
「?」
「ん、なんでもない。渚が気にする事ない話よ。さ、お腹が空きましたわ。朝食を食べに行きましょう。」
「え?あ、うん。アタシこれ写メっていい?」
「・・・あるんだからいいんじゃない?でもカナタには見せない方がいいわよ。一応、忠告しておいてあげる。」
「?」
二人は一緒に運ばれていた荷物から服を取り出すと着替えて居間に向かう事にする。
「あ、おはよう。」
居間に着くとテーブルの上には四人分の食事が並べられていた。
「お、おはようございます。」
「ご飯まだ~?」
シャルの事をカナタは少し睨んだが諦めたのか椅子に座るように言う。
「あれ?お姉さん起きて来てないけどいいの?」
「ああ、それなら問題ないよ。これで起こすから。」
カナタは手に何かを持っている。
「それは?」
「これ?納豆。」
「・・・な、納豆ですって!!」
「ああ、義姉さんの好物でもあるんだ。だからこの匂いをこうして部屋に向けて仰げば・・・」
あんなおぞましい物を食べるなんて。シャルはユウキの手に持つものを睨みつけている。
(外人さんが納豆苦手なのほんとなんだ。)
渚は美味しいのにと思いながら廊下の先を見ていた。
「納豆!?」
突如目の前の席に女性が現れた。もちろんそれはカナタの姉である時葉なのだがあまりの出来事に渚は驚いたのだ。
「義姉さん、今日はお客様がいるんだよ?それは・・・」
「もう、過去の事よ。ほら、そんなことよりも食べてしまいましょう。ユウキが私の為にこね回してくれた納豆の粘り気が薄くなってしまうわ!」
「納豆って沢山回して粘り気がでなくなった時の方が美味しいっていわないっけ?」
「頂きます。」
時葉は気にせずご飯に納豆をかけ始める。ワザとらしく糸を沢山引きながら。
「お、お姉様。正気ですか?そんなモノ・・・」
「ん?あんたもこれくらいいけるでしょう。昔散々負けた代償に・・・」
「あれはいいのです!飲みなれ・・・とにかく!納豆は別です!」
「そうなんだ?なら私が貰うわね。」
そういうと、シャルの所からひょいっと納豆を取っていく。
「・・・お姉様。変わりましたね。まるであの貧乏な」
「シャル!!」
カナタが叫び何かを投げるのを渚は見た気がした。あまりの速さに何を投げたかわからなかったがテーブルの上からフォークが一本消えていた。
時葉はカナタを見る。
「大丈夫だよ。オレは気にしてないから。」
「・・・カナタに感謝するのねシャル。慕ってくれているとは言え、次にあの女の名前をカナタの前で出してみなさい。永遠の眠りにつかせてあげるわ。」
時葉は食べかけの食事を残したまま自分の部屋へと戻っていった。
「シャル、今日は三人で一緒に登校しよう。少し話しておきたい事もあるから。」
「そうね。そうしましょう。」
カナタは義姉の食事を片付けようとして思い出したかのように立ち止まる。
「・・・こんなタイミングでこれを渡すのはどうかと思うのだけれども。渚、これを身に着けてくれないか?」
カナタは箱をポケットから取り出すと渚に渡す。
「これって・・・ペンダント?」
「ああ、ネックレスのね。これを今日から首にかけて欲しい。」
「いいの?アタシに?」
「絶対に外すなよ?」
「は、はい!!」
二人のやり取りを見ていたシャルは溜息をつく。
(女性にプレゼントを渡すタイミングが相変わらずなっていないわね。それに勘違いしてる顔してるわよ?渚ったら。でも、あのペンダントは・・・)
シャルは頭を掻く。カナタがあれを彼女に必要だとはいえ渡した。あの出来事の直後ではありえなかった事だ。
(ようやく、この家の時計は進み始めたのかしらね・・・どう思う?私の親友。)
シャルは渚にかけられたペンダントを見たあと、窓の外の空を見て親友に訊ねるのだった。