地獄
もう5年も住んでいる、私の帰るべきところに着いた。
駐車場には、夫の車が停まっている。
『まずい』
瞬間に、私の頭に浮かんだ言葉だ。
どうして、今日に限って、こんなに早い帰宅なのか。 いつもならば、夜中に帰ってくるはずなのに。
仕事が終わってから、必ずといっていいほど、飲んで帰ってくるか、博打をして帰ってくるのに。 何故?
私の身体が硬直した。
またか? と。
気持ちを決めて、深呼吸して扉を開ける。
「ただいま・・・」
そこには、夫が立っていた。
「何してたんだ、テメェは!」
もはや、私は『テメェ』扱いだ。 多分、世の中のペットよりも、酷い扱いだろう。
「ごめん、仕事が長引いて・・・」
「嘘をつくな! さっき、電話したんだぞ。 とっくに帰ったって言うじゃねーか!」
「・・・・・・」
電話までかけるんだね。 お手上げだ。 職場まで介入されたら。
「なんでそんな嘘をつくんだよ。 やましいことがあんだろう?!え?!言ってみろよ!!」
そう言うと、私の髪の毛を掴み、奥の部屋に引きずりこまれる。
・・・もう、私には日常すぎて、感情は一つもわかない。
ただ、痛い。 髪が抜けてしまうじゃない・・・ そんな冷静さだけ。
そこからは、いつものことだ。
殴る、蹴る。 私だけならず、その辺のものを投げ散らかし、終いには襖や障子をボロボロにする。
二度は直したが、もう、直すのをやめた。
どうせまたキレイに直った襖や障子を、骨組みから壊してしまうのだから。
だから、この家は、ボロボロだ。 中に友人も入れることも止めてしまったから、誰も知らないだろうけど、入ったらきっと驚くだろう。
私の眼鏡も、何度作り直したことだろう。
もう、作るのを止めた。
どうせ、また、壊されるのだから。
夫は、理不尽なことを言いながら、私を殴る。蹴る。
もう、どうでもいいような気がした。
いつからこんなことになったんだっけ。
何で、私はこの人といるんだっけ。
たまに、究極まで行くと、私は笑いたくなってしまう。
夫は、所謂DV<ドメスティックバイオレンス>だった。