エピローグ
トラウマは、半端なものではなかった。
何年も何年も悪夢に魘されて、汗だくで夜中に起きる日々。
どこかで怒鳴り声がしたり、争っている様だったり、喧嘩をしている場面に出くわしただけで、その場に座り込み、震えと涙が止まらなくなる。
私は、それをトラウマと知るまでに、短くない時間を要した。
それでも、命より大事な子供を育てるために、働き、生きていかなければいけない。
そう、この命を全うし、ぼろぼろになって、果てるまで、だ。
当然、男性に対しても恐怖心を覚え、人間不信に陥り、対人恐怖症ではないだろうか?という症状もあった。
でも、生きていかなくてはいけない。
数年を経てから、様々な書物やインターネットなどを通じて、トラウマが及ぼす症状だということを知った。
その時点で、覚悟を決めたのだ。
私は、自分で、このトラウマを克服しよう。
何故、こうなったのか。 1年ずつ遡って行った。
特に、結婚生活の頃の想起は、かなり苦しく、吐き気や頭痛、動悸・・・と、様々な症状と戦いながら、行き着いた。 涙はもう涸れてなくなっていたと思っていたのに、どこから出てくるのかわからないぐらい、泣き続けた。
そして、とうとう幼少時代に。
その頃に遡って、インナーチャイルドと会話し、全てを昇華することに成功したのだ。
その時の爽やかさは、大量の、苦しくない、哀しくない涙を流した後、訪れた。
もう、その時点ではこの世に存在しない父を、遡っている途中は憎んだり、恨んだりもしたが、最後には、自分をどれだけ愛してくれていたのかを、心底思い知った。
不器用な父が、不器用な、いびつで、歪んだ愛情を、どれだけ私に与えてくれていただろう、と。
そんな父を愛して止まない母は、どれだけ人を愛することを私に教えてくれたことだろう、と。
そんな両親を、自分もどれだけ愛しているのかを、やっと、30代の大人になって知ったのだ。
それから、幾つのカレンダーを壁にかけただろう。
大好きなクリムトのカレンダー。
ゴッホのカレンダー。
ただ、日付だけ、書き込まれたカレンダー・・・・・
私は、カウンセラーになった。
これだけの経験をし、克服できたのだから、その経験を活かして同じ境遇の人や、辛く苦しんでる人の役に立ちたいと思ったから。 ほんの少しかもしれないけれど。
だから・・・・・
私は、元夫に、心の底から感謝している。
結婚生活をありがとう、と。
あの日々を、ありがとう、と。
出会ってくれて、ありがとう、と。
幸せになって欲しいと願いながら。
完
長い間、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
途中長い中断をしたこともありましたが、なんとか、完結しました。 拙い文章ではありますが、読んでいただけたこと、心から感謝しております。
一言、この小説を書こうと思ったのは、DVに対して思うところがあったからです。
DVをしてしまう人、受けてる人、諦めずに、どうか専門機関にまずは助けを求めて欲しいと思います。
どちらも悲劇しか生まないと思うので。