自由に・・・
「自由?」
「ああ、自由だ。田上君も、だ。」
「俺も?」
「田上君と唯は、自由が足らな過ぎたんだと、俺は思うんだよ。」
「自由・・・」
しばらく、二人は黙りこくった。
その沈黙を、父親が破った。
「俺は、唯をあまりにも雁字搦めに育ててしまったと、今更ながら後悔をしているんだ。」
「はぁ・・・」
「それが一番いいはずだ、と、疑うことを知らなかった。 唯のためだと、それだけで生きてしまった。 だけど、今はそうではなかったのではないだろうか?と、顧みているんだ。」
「それと、俺とどういう・・・」
「そう、田上君とは関係のない話しだよ。俺と唯の話しだ。 だけど、そんな唯だから、ギリギリまで行ってしまったんだと思うよ。 田上君も、きっと辛かっただろう? 自由なんてなかっただろう? 唯とのことじゃなくて、人生ずっとだ。」
「・・・・・」
「今のあの子は、いつも怯えて生きていて、もう、自由がどうとかなんて感じなくなっているんじゃないのかな。 いや、あの子が悪いから君が手を挙げるてしまうのかもしれない、そうなんだろう? でも、それにしても、ずっと暴力を受け続けるのは、いつまでも人間できやしない。」
「・・・・・・・お、俺は・・・・」
「だから、あの子を自由にしてやってくれ。 この通りだ。」
父親は、弁護士の市川に深々と頭を下げたときのように、田上に頭を下げた。
「お父さん、止めて下さい。 お願いします。お父さん。」
しばらく、頭を下げたまま父親は静止していた。
「俺、もう絶対に暴力を振るいません。 だから、離婚させないで下さい。」
ゆっくりと、父親は頭を上げた。
「この先、もしそうだったとしても、田上君と唯は元通りにはなれないよ。 唯にはこの先、ずっとトラウマとして残るだろう。それは、田上君と別れてからもだよ。 暴力というものは、その時だけではないんだよ。」
「お父さん、お父さんだけが、俺の、お父さんだけが、唯だけが・・・」
そう言うと、子供のように、田上は泣き続けた。
さっと、ティッシュを差し出し、
「ずっと、息子だぞ、田上君。 何でも相談しろよ。 そして、一度病院に行こう。 専門の先生に診てもらおう。俺も一緒に行く。な。」
父親は、田上の頭を優しく触れた。
その瞬間、田上は父親に抱きついていた。
父親も、泣いていた。
その一週間後、心療内科の予約が取れて、父親と田上は病院に向かい、翌週から、カウンセリングを受けることになった。