牢獄からの脱出
残念なことに、今回の暴力は、身体の痛みだけではなく、内臓も損傷してしまったらしく、医師からしばらく自宅療養か、短期間入院かの選択を迫られた。
勿論、即決で入院を決めた。
家にいても、もっと酷い状態になるだけだと思ったから。
子供は、私の両親に面倒を見てもらうことにした。
身体が痛くても、動けなくても、ご飯が食べれなくても、子供と傍にいることができないことは辛かったけど、それ以外は苦痛などなかった。
苦痛どころか、幸せだった。
ずっと入院していたいと思った。
顔が倍ぐらいに腫れ上がり、話しもできないような状態のときに、病室をノックする音がした。
『コンコン』
と。
返事ができないので、そのままにしていると、静かにがちゃりとドアが開いた。
カーテンが徐々に開くと、そこにはカーテンの端っこを掴んだ職場の上司が立っていた。
お見舞いに来てくれたらしい。
正直なところを言うと、こんな顔を見られたくなかった。
でも、少し、ほっとしていた。
「大変だったみたいだね、その様子を見る限り・・・」
言葉も出ないような小さい声で、上司が言った。
私は、コクリと、小さく頷いた。
「すぐに、帰るからね。 身体が辛いときに来てすまなかったね。ゆっくり、ゆっくり、休むんだよ。」
また、コクリと頷いた。
「僕のね、友人に、弁護士をやってる奴がいるんだ。 そいつに一応連絡をしてあったんだけど、一度会ってみない?」
驚いたことに、上司はそこまで考えていてくれたのだ。
ありがたかった。
傍に置いてあるノートとペンを取り、
『ありがとうございます。是非、お願いします。』
そう書いて、上司に渡した。
「わかった。 良かったよ。 田上さんのことだから、『いいです』って言うかと思った。早速、また連絡取ってみるからね。 じゃ、僕は仕事に戻るね。 仕事のことは、しばらく考えなくていいからね。有給休暇が沢山あるんだから。」
そう言い残して、上司は帰っていった。
苦しいだけの人生じゃないんだな、って、苦しんでいる私を救ってくれる人もいるんだな、って、ありがたかった。
DVの夫と出会わなければ、この親切にも出会えなかったんだな、って。
でも、とにかく、身体が痛い。 苦しい。
ずっと、睡眠も取れていない。
眠れるかな・・・ なんだか・・・眠いな・・・
そんなこと思っている間に、私は眠りについていたらしい。