猫とドロボウ
◇
その男はこともあろうに、マサルとエリの子供部屋……つまり、今はケンタとかいう小僧の勉強部屋の、ベランダの窓ガラスをガラス切りで切って入って来た。
下の階にはママという女の人がいるはずだが、丁度来客があったらしく、車の音や話し声で気が付かないらしい。
凄くイヤな空気をまとった人間だ。
これは“ドロボウ”とか“ゴウトウ”とか言う悪い人間に違いない。
……俺の家に何をする気だ……
……みんなの家を守らなくちゃ……
俺に気付かず、部屋の中を物色している男の顔面目がけて飛び付くと、男はびっくりして一メートルぐらい飛び上がり、そのまま尻から床に落ち、しばらくその痛みで動けなかった。
……コノヤロウ!コノヤロウ!……
俺はそいつの顔を目茶苦茶に引っ掻いた。
人間を引っ掻いてはいけない。としつけられて来たが、悪い人間なら話は別だ。
逃げようとするそいつの頭に飛びかかり、がっしり頭に爪を食い込ませ、さらに耳に噛み付いてやった。
無我夢中で、気付いた時は男はぐうの音も出なくなり、床に倒れ込んだ所をパパという男の人に押さえつけられていた。
そしてもう一人、年寄りの男の人もパパと一緒に男を押さえつけている。
あれ……?
この年寄りの人……なんだかどこかで見たような。
やがて紺色の服を着た“ケイサツ”の人達がドロボウを連れて行った。
興奮した気持ちが冷めないまま、その様子を見ていると
「虎太郎?」
なつかしい、優しい声がした。