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家守りの猫  作者: 鮎川 了
8/11

家の秘密






 「だからこの家を下見した時、初めて来たような気がしなかったのか……」 

 写真のパパは僕よりずーっと小さい。だから覚えていなくても仕方ない。

 「事業に失敗してな、急に手放さなくちゃならなかったんだよ」

 おじいちゃんが申し訳なさそうに言うけど、別にそれはおじいちゃんのせいじゃないと思う。“事業”の事は全然分からないけど、何かどうしようもない事になってしまったんだろう。きっとそうだ。

 「それからずっと母さんやマサルとエリにも貧乏させてすまなかった」

 マサルはパパの名前で、エリは叔母ちゃんの名前だ。

 「いや、私は覚えてないし、物心ついた時から貧乏だったから全然平気だったよ」

 「うん、俺も」 

 この家が元々おじいちゃんの家で、パパが知らずに買ったと言うのは確かに不思議だ。奇跡だ。

 でも、僕はさっきから全然違う事を気にしていた。

 「おばあちゃん!この猫は?真ん中に写っているこの猫は?」

 そうなんだ。この猫は時々現れるあの猫にそっくりだ。偶然ぐうぜん同じ柄だから似ているように見えると言うレベルじゃない。

 「ああ、なつかしい……虎太郎こたろう。この子にもかわいそうな事をしてしまったわ」

 おばあちゃんは今にも泣きそうになっている。そんなおばあちゃんに代わって、おじいちゃんが説明してくれた。

 「この猫はね、マサルが生まれる前から飼ってた猫でね。マサルとエリが生まれてからは、子守りもしてくれた。とっても頭が良くて優しい猫だったんだよ」

 「でも……引越し先は動物を飼っちゃいけない団地で……おばあちゃん達は虎太郎を、ここに置き去りにしてしまったの」

 おばあちゃんはとうとう泣き出してしまった。

 「おばあちゃん、泣かないで!さっき車の中で話した忍者みたいな猫は虎太郎だよ!」

 おばあちゃんは泣き止んで僕を見た。そして頭をなでてくれた。

 「ケンタは優しい子ね。でも、もう三十年近くも経っているのよ。その猫は違う猫だわ」

 違う猫なんかじゃない。あの猫は虎太郎だ!ちゃんと返事もした。

 ああ、なんでこんな肝心かんじんな時にいないんだろう?

 おばあちゃんなら絶対、虎太郎の姿が見えるはずなのに。

 はがゆい思いをしていると、二階で大きな物音がした。何か、重い物がたおれるような物凄い音だ。

 「なんだ?あの音?」

 「まさかドロボウじゃ?」

 バパとおじいちゃんはそう言うと、二階にかけ上がって行った。

 この時ほど、パパとおじいちゃんをたのもしいと思った事はない。さすがだ。

 ……と思っていたら、奇妙な声を上げながら二人とも階段をかけ下りて来た。

 いや、二人じゃない……

 一番前にいるのはパパ。

 二番目にいるのがおじいちゃん。

 三番目にいるのが…… えっ?

 誰?

 三番目、つまり一番後にかけ下りて来たのは全く知らない男の人だ。

 パパとおじいちゃんはこの人に追いかけられるような形で下りて来たのだ。

 「ド……ドロボウ!」

 ママが叫ぶ。

 叔母ちゃんが携帯電話を取り出して警察に連絡する。

 その男の人は黒い服に黒いズボンに黒い靴。ニット帽や手袋まで黒づくめで、誰がどう見てもドロボウだ。

 ……が、ドロボウの顔は無数の赤い筋がついていて痛そうだ。しかも

 「痛い!痛いっ!何も盗らないから助けて!」 などと叫んでいる。 

 ドロボウの被っているニット帽に爪を立ててしがみつき、おまけに耳にかじりついているのは……


 虎太郎こたろうだ。








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