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家守りの猫  作者: 鮎川 了
6/11

おじいちゃんとおばあちゃん






 お年玉で買ったゲームをしていると、家の電話が鳴った。

 「ケンタ、ママ水仕事してて手が離せないから出てちょうだい」

 仕方なく、ゲームを中断して出ると、優しい声が受話器から聞こえてきた。

 「ケンタ?おばあちゃんよ」

 おばあちゃんだ!

 「おばあちゃん!身体はもういいの?いつ来てくれるの?」

 「なあに?大げさねぇ、もう、血圧も安定したから明日にでも行くわよ。早くしないとケンタの冬休みも終わっちゃうし」

 やったー!

 思ったより元気そうだ。おじいちゃんが電話口の横で「ケンタか?ちょっと代わってくれよ」なんて言ってるのも聞こえる。

 「叔母ちゃんも一緒よ、どうしてもケンタに会いたいんだって」   

 叔母ちゃんとは、パパの妹だ。女の人と言うよりは男の子みたいな性格で小さい頃から遊んで貰っていた。

 退屈な冬休みが一気に明るくにぎやかなものになる期待で胸がはりさけそうだ。

 ママがやっと水仕事を終え、タオルで手をふきながら「え?ケンタ、おばあちゃんなの?ちょっと代わって」と言うまでずっとおばあちゃんと喋り続けた。





 おばあちゃんとおじいちゃんの家は遠いし、おばあちゃんの身体を気遣きづかって、パパと車で迎えに行った。 

 パパは新車の大きなワゴン車を買ったんで、いっぱい人が乗っても大丈夫なんだ。

 おじいちゃんおばあちゃんの家にはもう叔母ちゃんも来ていて、車の中は凄くにぎやかになった。

 「ふー、やっとケンタと話せた。おばあちゃん、全然電話代わってくんないんだもん」

 まるでだだっ子のように口をとがらせておじいちゃんが言うので、みんなで笑った。

 「ケンタ―!タコ上げしようなー!あとコマ回しも」

 叔母ちゃんは新しいタコとコマを買って来たらしく、大きなオモチャ屋のロゴの入った袋をガサガサいわせている。


 「おばあちゃん、おばあちゃんは猫平気?」 

 ふと、おばあちゃんがママみたいに猫アレルギーだったら困ると思って聞いてみた。 

 「あらケンタ、猫を飼ったの?」

 「ううん、ヨソの猫が入り込んでくるんだけど、僕にしか姿を見せないんだ。まるで忍者みたいに」

 「忍者の猫なんて素敵ね。おばあちゃん猫は大好きよ。是非ぜひ会ってみたいわ」

 良かった、もしあの猫がおばあちゃんに見えてもこれで平気だ。

 少なくとも、猫のせいでおばあちゃんの具合が悪くなるなんて事はないだろう。   

 


 にぎやかな車内、いつの間にか車は家の近くまで来ていた。

 「もうすぐだよ」

 パパが言う。

 ふと、おばあちゃんの方を見ると、おばあちゃんは悲しそうな、嬉しそうな、不思議な顔をしていた。

 てっきり具合が悪くなったのかと思って焦ったけど、そうじゃないらしい。

 「ああ、こんな偶然なんて……」

 「奇跡だ」

 おばあちゃんとおじいちゃんがそんな事を言い合っていて、パパと叔母ちゃんは意味が分からない様子で二人の顔を見ていた。パパはバックミラー越しにだけど。


 家に着くと、玄関でママが手を振って出迎えていた。  

 おばあちゃんとおじいちゃんはまるで夢を見ているような顔で車を降りる。

 「ねえ、ちょっと、お父さんとお母さん、どうしちゃったんだい?」

 「きっと、兄ちゃんが買った家が立派過ぎて驚いているんだよ。私もびっくりしちゃったもん」

 パパと叔母ちゃんがそう言う中、おじいちゃんとおばあちゃんは家をずっと見続けていた。




 「お義母かあさん、お義父とうさん、身体が冷えてしまいますからどうぞ中へ入って下さい」

 さすがに、二人の様子を心配したのか、ママがそう言うと、やっと我に返ったようになり、家の中に入って行った。

 ママとおじいちゃんおばあちゃん、叔母ちゃんが遅い新年の挨拶あいさつを済ませると、おじいちゃんは財布を取り出した。 

 てっきりお年玉をくれるのかと思ったら、財布の中から出されたものは、お年玉のポチ袋ではなく一枚の古い写真だ。

 パパとママ、そして叔母ちゃんがそれをのぞき込むと小さくさけんだ。

 だって、そこに写っていたのは二〜三才の小さい子供。きっとパパと叔母ちゃんだ。若い頃のおじいちゃんとおばあちゃんが二人を囲むようにしているからきっとそうだ。

 そして、その後ろに写っているのはまぎれもなくこの家だったからだ。


 僕は、ほぼ真ん中に写っているトラ猫に目を奪われたけど。









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