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家守りの猫  作者: 鮎川 了
4/11

猫の名前






 今は冬休みだけど、冬休みが明けたらすぐに新しい学校に行く。 

 いつも僕の事を“ビンボウ人”とからかっていた奴らと離れられて安心したけど、全く知らない学校の知らない同級生や知らない先生とうまくやって行けるか心配だ。

 パパが言うには、パパの仕事が上手く行ったのでもう、ビンボウじゃない。だから大きな家を買った。おじいちゃんとおばあちゃんも、いつでも一緒に住む事が出来る大きな家を。


 新しい家に越して来て、お正月を迎えた。でもまだおじいちゃんとおばあちゃんは来ない。

 一緒に住むのはまだまだ先だけど、引越し祝いをねて遊びに来ると言っていたのに。

 友達もいない土地での冬休み。つまらない。

 近所のコンビニにでも行っておやつを買おうと外へ出たら、知らないオバサンに声をかけられた。

 「あのお屋敷やしきに越して来た子?」

 「そうです」

 「あそこは何十年も空き家だったから……これで安心だわ。近所の家が空き家って言うのも不安なものなのよ」

 そういうものなのか。でもあんなに良い家に何十年も買い手が着かなかったなんて、まさか、オバケでも出るんじゃ……?と思ったら

 「大きくて、値段が高いからね、なかなか買える人が居なかったのよ。昔はどこかの社長さんのお家だったから」

 なんだ、そうか。

 オバケが出るんじゃなくて良かった。

 そうだ、このオバサンならあの猫の飼い主を知っているかも知れない。もしかしたらこのオバサンがそうかもしれないし。 

 「あの、このへんで大きなトラ猫を飼っている家はありますか?」

 オバサンは僕の事をいきなり変な事をきく子だと思ったりしないだろうか?

 「トラ猫ねえ……?角のアユカワさんとこは白猫だし……猫がどうかしたの?」

 「いえ、時々、トラ猫が迷い込んで来るんで、飼い主の人が心配してるといけないと思って」

 そう、あの猫はあれからも時々家の中に現れてソファの上やベッドの上、はりの上にふてぶてしく居座いすわっていた。

 例によって僕以外の誰も見えていないし、知らないうちに忍者のようにいなくなる。

 「昔なら、大きなトラ猫を飼っている家があったんだけどね」オバサンは僕の家の方を見て言った。

 「あなたが越して来た、あの家に住んでいた社長さんのご家族、大きなトラ猫を飼っていたのよ。目は綺麗な緑でね。名前は確かトラタロウだかコタロウだか」

 そうか、前にあの家に住んでいた人の猫だったのか!だから、家に入って来て……まてよ?だとしたらあの猫は何十年も生きてる年寄り猫だ。

 そんな年寄りの猫がはりの上に登ったり忍者のように神出鬼没しんしゅつきぼつに動き回れるものなのだろうか? 

 「凄くお年寄りの猫なんですね」

 「いえ、たぶんその猫は寿命で死んでしまっているわよ」 

 じゃあ、一体どこの猫なんだろう?

 そのトラタロウだかコタロウだかの子供か孫なんだろうか?

 長く話しをした割りには結局何も解らなくて、身体がすっかり冷えてしまった。





 コンビニから漫画雑誌とジュースとチョコバーとポテトチップスを買って来た。今年はパパとママからのお年玉もいつもより多くてリッチな気分だ。でも、大事に使わなくちゃ。

 ママはソファで寝ている。前の家にいた頃はママも働いていたので、きっと家にいるのは退屈なんだろう。 

 そう思っていると、ママのおなかの上に何か乗っているのに気付いた。あいつだ。

 あのトラ猫がママのおなかに乗ってこっちを見ている。綺麗な緑の目。

 どうしよう、ママは猫アレルギーなのに。

 どかしてやった方がいいんだろうけど……

 「ネーコネコネコ」

 呼んでみたけどバカにしたような顔をするばかりでちっとも動かない。思わずあのオバサンが言っていた猫の名前を呼んでみた。

 「トラタロウ……コタロウ」

 「なー」

 今度は反応した。初めてこの猫の鳴き声をきいた。どっちだ?“トラタロウ”か“コタロウ”か?

 「トラタロウ」

 無視。

 「コタロウ」

 「なー」

 “コタロウ”だ。この猫の名前は“コタロウ”だ。

 「コタロウ、おいで。こっちへおいで、コタロウ」

 猫は……コタロウはママのおなかからひらりと下りて僕の方に寄って来た。

 尻尾しっぽをぴん、と立てている。なんて長い尻尾なんだろう。

 もう少しで手が届く。

 「あら?ケンタ、帰ってたの?」

 目を覚ましたママがそう言い、僕が「ただいま」と答えたわずかなすきにコタロウはいなくなっていた。








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