呟いただけ。
「好き。」
そう、呟いただけ。
それだけだけど、すごく恥ずかしくなった。
誰もいないとわかっていても、思わず誰もいないか確認してしまった。
そして、そっと息を吐く。
うわぁ、恥ずかしい…。
ほっぺに手を当てると、熱かった。
別に誰か好きな人がいるわけでもない。
自慢ではないが今年で十七歳になるが、初恋もまだなのである。
好きな人に告白しにいった友達を教室で待っている私は、告白してる友達のことを考えていると呟きたくなった、ただそれだけ。
すごいなぁ、海羽。
友達の海羽に無言の尊敬の念を送っていると、風が髪を揺らす。
気持ちいいな…、風。
…風?
……風!?
太陽の光を遮るためにひかれているカーテンを思いっきり開けると開いている窓。
うわぁぁぁぁぁぁ、盲点!!
ここのところ、暑い毎日が続いていた。
だから、窓が開いてて当たり前なのに――!!
頭を抱えて沈んでいたが、ふと窓から顔を出してあたりを見まわした。
誰も、いない。
ホッとして、顔を引っ込める。
「誰が好きなの?」
「うにゃぁ!?」
ホッとしたのもつかの間、いきなりかけられた声に驚いて変な声が出た。
声のしたほうを向くと、クラスの人気者相賀くんが私の隣の席に座ってニコニコしていた。
「い、いつのまに!?」
「今さっき入ってきたよ?で、誰が好きなの?」
「え、えっと…。何でそんなこと聞くの?」
「さっき、好きって呟いてたでしょ?偶然、聞いちゃって。」
「え…!」
は、恥ずかしい…。
ほっぺに手を当てて赤くなったのを隠す。
チラリと、相賀くんを見てみる。
笑顔なのに、なんか迫力がある…。
相賀くんから目をそらしながら答える。
「好きな人なんて、いないの。ただ、呟いてみただけ…。」
「ふぅん…。」
意味ありげに返事をする相賀くん。
自分が勝手に抱いていたイメージと違う相賀くんに戸惑う。
「あ、そういえばなんで一人で教室にいるの?」
「え、えっと、海羽を待ってるの。」
「浜椥を?浜椥は何してんの?」
「え、あ、うんと…。告白をしに…。」
「え!?誰に?」
うっかり言ってしまった。
慌てて口を押えるが、時すでに遅し。
ばっちり、聞かれていた。
「もしかして、智也?」
「ふぇ!?何で知ってるの?」
「へぇ、智也なんだ。」
「あ…!」
ばらしてしまった。
ごめんね、海羽…。
心の中で謝っておく。
「そっか…。智也、頑張ったからなぁ…。」
「へ?頑張ったって?」
「そりゃぁ、浜椥を振り向かせようと。」
「え、壇上くん、海羽が好きなの!?」
「うん。」
「わぁ…!」
海羽の恋が叶うと知って嬉しくなる。
そっか、両思いなんだね…。
嬉しくて、ニコニコしていると相賀くんの顔が近づいてきた。
「じゃあ、次は俺の番。」
「え?」
相賀くんが小さく何かを呟いたが、聞こえなくて聞き返す。
相賀くんは、何も言わず、更に顔を近づけてきた。
ち、近い…!
思わず、のけぞる。
「ね、浜椥から聞いたんだけど初恋もまだって本当?」
「え、あぁ、うん」
何もなかったかのように席に座ると、唐突に聞いてきた。
あぁ、ドキドキした…。
ドキドキとうるさい心臓を落ち着かせながら、頷く。
でも、なんでそんなこといきなり聞くんだろう…。
私は不思議そうに相賀くんを見た。
「あのさ、俺が教えてあげようか。恋ってやつを。」
「へ?」
いきなり、変なことを言い出す相賀くん。
「俺、前から姫城のこと気になってたんだよね。」
「えぇ!?」
衝撃の告白。
私は、真っ赤な顔で何も言えずただ口をパクパクさせていた。
「でも、今告白しても振られるだけでしょ?」
「え、あぁ、たぶん…。」
好きでも何でもないのに付き合えないし、ね。
「あのさ、恋愛には興味あるんだろ?」
「あ、あるけど…。何で、恋愛に興味があるって思ったの?」
「んー、勘?姫城のつぶやきを聞いてそう思った。」
「はぁ…。」
ニコニコと微笑んでる相賀くんの笑顔を見て嫌な予感がする。
「俺が君に恋ってやつを教えてあげる。これから、俺は君に好きになってもらえるよう頑張るから覚悟してね?」
「え、あ、あの…。」
呆然と、相賀くんを見る。
じりじりと相賀くんが近づいてくる。
「必ず、惚れさしてみせるから覚悟してね?」
ほっぺに柔らかい感触。
キスされたと気づくのに十秒はかかった。
キスされたと頭で理解した途端顔が真っ赤になる。
見られたくなくて手で顔を隠すと「だーめ。」と甘い声で囁かれて顔から手を外される。
どうやら、相賀くんは狼のようです。
私は、相賀くんに獲物と認定されたようです。
これから、どうなるんだろう。
* * *
海羽と壇上くんは付き合うことになりました。
海羽はとても幸せそうです。
私はというと…。
「おはよう、姫城。」
「み、耳の近くで囁かないでぇぇ!!」
狼さんのせいで、毎日が大変です。
連載の続きが書けないので逃げてきました。
需要がなくても続きかきます。
*オマケ*
「おめでとう、智也。長い片思いだったな。」
「そうだな。まぁ、ようやく手に入れたんだ。ぜってぇ手放さねぇ。」
「まさか、お前がそこまで執着する女ができるとは思わなかったぜ…。」
「それよりお前、俺の恋に決着つくまで手、出さない約束だったじゃねぇか。」
「え、いいだろ。両想いって知ったんだから。」
「え、もしかして姫城が教えたのか?」
「ぽろっとな。」
「…そうか。まぁ、お前も頑張れよ。…姫城には同情するけどな。」
「なんでだよ。俺、本気だぜ?」
「だからだよ…。」