迷惑な隣人が速やかに
「はあ…」
私は朝食をとりながら重いため息をついた。
クマのマグカップに入った鮭の塩焼きを箸で解体しつつチェック柄のマグカップに入った冷や飯をかきこむ。
こんなに空き部屋がある中なぜわざわざ私の向かいに越してきたのだろう。
この先何かとても嫌な展開がありそうで私のため息は止まらない。
起床後42回目のため息を吐いた時、予感通りドアチャイムが鳴った。
「すみません。味噌貸して下さい。」
掠れ気味の男の声。
「あ、もしよろしければ大根も少し…いや、欲を言いますと油揚げかお豆腐なんかも貸していただけると本当にありがたい…ネギでもいいのですが。」
何を作りたいかまで分かったが返すつもりはあるのだろうか。
ドアを開けると昨晩の鯨幕が居た。
朝日の下で見てもお化けじみたカラーリングなのは変わりがない。
そしてやたら嬉しそうな顔をしている。私が出てきたのをOKが出たと解釈しているらしい。どれだけ非常識なのか。
私は露骨に怒気を含ませた声色で切り出す。
「あのねえ外場?さん?あんたさあ昨晩といい今朝といい何?ちょっと人の迷惑とか考えてほしいんだけど。」
外場はえっ?と驚愕の表情を浮かべた。そして沈痛な面持ちで謝罪する。
「すみません。昨晩は深夜とは気付かず…あと今朝は本当に現在進行形で大変申し訳なく…そしてこれからも末永く申し訳ありません…。」
最後に不吉な宣告があるのだが。
「悪いけど自分でなんとかして。これ以降も関わらないでほしい。」
「ですが…」
何がですが、だ。
私がドアを閉めようとした時外場の体がぐらりと大きく傾いた。
「?!」
直後階段の下から衝撃音が響く。
「な…」
慌てて外に出て見ると…踊り場で外場は死んでいた。