少しくらい期待しててもいいよね
暗いです。
何気に差別が酷い気がするので、嫌いな方にはあまり…。
もの凄く自己満足な短編…にしては長めです。。。
「今度は田が干涸びた!お前が生まれてから厄災ばかりだ!」
お父様はそう言ってボクに『怒り』を撒き散らした。
「誰も私を見ないの!子を愛する事だって出来ないわ…」
お母様はそう嘆いてボクに『悲しみ』をぶつけた。
「お前なら何したっていいんだよ」
お兄様はそう笑ってボクに『痛み』を与えた。
「あなたの存在が私と彼を引き裂いたのよ」
お姉様はそう蔑んでボクに『憎しみ』を伝えた。
同い年の子達は『嫌悪』を。
大人の人達は『哀れみ』を。
外からの来客は『疑惑』を。
ボクの周りの人達はそういった負の感情だけをボクにぶつけ続けた。
ボクは望まれなかった存在。
領主の次男でありながら、人としてありえない色と特性をもって産まれてしまった『忌み子』。
この世界では自分の子どもを殺す事は禁忌だ。だから僕は世界の汚点だと言われても殺される事だけはなかった。
例え部屋が牢屋のような暗い部屋でも、与えられる食べ物がネズミの死体でも、殺されなかっただけましなのだ。
お父様は怒りの為に、お母様は悲しみのあまり、お兄様は快楽の為に、お姉様は憎しみの為に、周りの人達はただ嫌悪の為に。
彼らは誰も庇う事の無いボクを、正当な理由もなしに甚振り、傷つける。
どうせボクには傷は残らない。もともとの体質のせいか、付けられた傷は瞬時に治るのだ。
最初は治る光景を不気味そうに見ていただけなのに気付けば「丁度いい」とばかりに甚振りだしたのだ。
皆嫌いだった。でもお母様だけは違った。だってお母様の悲しみはボクが異質だから愛せない『母親』としての悲しみだから。
お母様はボクを産んでしまったから周りの人達に見限られてしまった存在。
お母様は居場所を失くした悲しみをボクにぶつけるけど、いつもその後は謝った。
「ごめんね…ごめんねっ…。愛してあげられなくて…ごめんね…」
『母親』としてボクを愛そうと頑張ってくれてた。
それだけだけどボクにとっては大切なお母様に思えてた。
でも、あの日。
お母様はいつものようにボクの部屋に来た。
いつものようにぶつぶつと謝りながら。だがいつも以上に隈が酷く、瞳はとても暗く濁っていて、何故か薄気味悪く笑っていた。
どうしたの、って聞いてもただ笑うだけで、ボクは心配になってお母様に駆け寄った。
お母様は右手だけを広げてボクを迎え入れ、そして——。
鈍い音に、液体の滴り落ちる音。見えたのはボクの胸に刺さった銀色に光を反射するナニカ。
どうして。どうしてどうしてどうして!?
お母様は顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら笑顔で言った。
「大丈夫。お母様もすぐに逝くからね。大人しくしているのよ。——愛しい子」
頭が真っ白になった。それは、ボクを殺してまでボクの存在に耐えきれなかったお母様に対する絶望からなのか、それともやっと愛された歓喜からなのかは分からない。でもどんな推測も釈然としないものばかりだった。
気付けばいつもの暗い部屋にいて、お母様が冷たくなってた。自分で首をかききったようだ。
ボクは呆然とその事実を受け入れられずに見ていた。
部屋に入って来たお父様はお母様だったものを見て言った。
「…やっと私は解放されたのか」
…何を言ってるの?縛られていたのはお母様じゃないか!身分で勝手に縛って、なのにお母様は愛されていないのだと嘆いていた!ボクを生んでからはボクを殺さない様に、領主の妻として自殺も出来ない様に縛って、お母様から全てを削っていったのはお父様じゃないか!
使用人達もぽっかり穴の空いた様なお母様に辟易していた?そんな風にまでお母様を壊したのはお前達だろう!誰かがお母様に手を差し伸べていれば、誰かがお母様を必要としていればこんな事にはならなかった。お母様がボクなんかの事で狂う必要はなかった!
それからの事はあまり覚えてない。
気付いたらボクは闇の中、炎で埋め尽くされた街を見ていた。
朧げに自分のした事を思い出すも、お母様のように心にぽっかりと穴が空いたかのように何も感じない。
ボクの服はいつも来ていたぼろぼろの服。血の一滴もついていないのはボクがそういう風に動いたから。それだけ普通の人とは違った存在だったというわけだ。
ごおぉと炎の燃える音を聞きながら草むらに隠れている人に呼びかける。
出て来たのは魔族と呼ばれる人とは違う種族で、ボクの事を『魔王』と呼んだ。
なんでもボクの魂が代々魔王として魔族の王をやっていたのだとか。
差し伸べられた手に、ボクは感じた事の無い思いを感じた。いつものボクならたじろいでいただろうが、その時のボクの心は至って冷静で、だからこそ静かに払いのけた。
——ボクにはみつけないといけないひとがいるんだ。
お母様がいつもの様に言っていた『大切な人』。お母様はいつもいつもボクに訴え続けた。大切な人がいれば強くなれるんだと。安らかな気持ちのなれるのだと。憎しみや怒りの感情だけで行動しては駄目。そうすれば大切な人を得る事も、守る事も出来ない。憎しみや怒りしかいれることの出来ない器では誰にも相手をされなくなってしまうわ。
——だから、どうか。
——私のようにはならないで。
——全てを飲み込める様な器を持って。
だからお母様。ボクはやり直すんだ。
怒りや憎しみに任せて魔族の手を取らなかったよ。
やり直そうと前向きになれてるよ。
それで、大切な人を見つける事が出来たら、お母様は褒めてくれるかな?また頭を撫でてくれるかな。
魔族の人は少し寂しそうにしながらこうべを垂れた。
魔族の人達にとって魔王様は至上の存在なんだって。それに寿命も長いから、好きにしてくれて構わないんだって。
この人の地で生きる事が苦しかったら歓迎すると言ってくれた。
でも、ボクはこの地で生きると決めた。この、お母様の愛した地を。
「貴方様がそう望まれるのなら…ですが、貴方様はきっと私共のもとへ来るでしょう。この地は私達にとっても、貴方様にとってもとても生きづらい場所ですから」
それでも。やり直すと決めたんだ。
「お前が、言いたく無ければ言わなくていい。だが、いつかは話してくれるんだろ?なら私はその日を待とうじゃないか!その時こそが、お前が私を友として認めた時になる。私はその時が来ると信じているからなっ」
無邪気な笑顔を振りまいて、彼女はボクに笑いかける。
彼女の名前はレーノ。ゆるくウェーブがかかった燃える様な赤い髪は生まれつきらしく、母親譲りのその髪を誇りにしている。出身はただの田舎で、実家は花屋を経営していると言っていた。
やり直すと決めた日。
今はそれから一年も経つ。
レーノと出会ったのは半年前だ。冒険者として魔物と呼ばれる敵を倒す依頼を受けていた時に出会ったのだ。
レーノは子どものときから腕がたつというのと、もっと世界を知りたいという理由から田舎から出てきたそうだ。
最初はフードで顔が見えないとはいえ、子どものボクがいることに訝しくしていたが、何度か同じ依頼を受ける内に仲良くなった。
…レーノなら、いいかな。
いつも優しくて、困っている人は誰にだって手を貸すレーノ。
彼女ならボクを受け入れてくれるんじゃ…。
そう思って首を振る。
例えレーノがボクを受け入れてくれたとしても、ボクを受け入れたレーノが周りの人から拒絶されるかも知れない。
それだけは嫌だ。
「…それは無理だよ」
「なんでだ?お前はお前だろう!例え、お前の顔に傷があったとしても私は気にしないぞ?それともなんだ。お前は私が嫌いなのか?」
「そ、そんな事っ——」
「ならいい。私はお前が好きだ。嫌いになることなんてないし、そんな心配も無用だ!だから…今じゃなくても、お前の事を教えてくれ。なにか重いものをもっているのなら私も一緒に背負おう。な?」
「っ…」
どんなボクでも受け入れるといってくれた嬉しさ。
巻き込んでしまうかもしれない恐怖と罪悪感。
そんな思いがせめぎあってしまう。
絶対に言ってしまっては駄目なことなのに。絶対に許されない事なのに。
「っあの、ね——」
ああ…どうしてボクは言ってしまったんだろう。
言わなければ、あんなことはなかったのに…。
ボクはレーノにぶちまけた。
自分の醜い過去を。
吐き出したかった思いを。
お母様の事を。
ボクが忌み子である事を…。
途中、何度も表情を曇らせたレーノだが、最後にはボクを抱きしめてくれた。
レーノがどんな表情をしていたかは知らない。けど、ボクは久々の人に温かさに酔っていた。
気付けばボクは宿のベッドで寝ていた。
久々に感じた熱に、その後の虚しさ。
ボクは受け入れられたことが嬉しくて、レーノを求めて走った。
でも…
「…? あれ、いない」
何処にもいない。
沸き上がる不安に怖くなった。
もしかしたら何かあったのかも知れない。
探して、探して、探して…ボクの他の人とは異質な力までも使って探した。
見つけたのは、大きな屋敷の地下。
とても、嫌な予感しかしない。
果たして——。
扉を開くと同時にむっとしたにおいが鼻を突いた。
女の人の苦しそうな息づかいが聞こえた。
レーノのにおいが混じってた。
血のにおいもした。
鎖の音が嫌に響いた。
助けを求める声が聞こえた。
男の人達がたくさん、レーノに群がっていた。
それが意味する事を理解すると同時に——。
また、頭が真っ白になって体が勝手に動いていた。
少年と、まだ幼さの残る少女がそこにいた。
少年が握るのは、少年には大き過ぎるくらいの真っ黒な剣で、真っ赤な液体を滴り落としている。
少女はそんな少年に怯えて体を小さくし震えていた。
「ち、近寄るなっ!近寄るな化け物おおっ!!」
少年は微笑む。
「ボクが来たからもう大丈夫だよ?ね、早く上にいこっ。それでね、また一緒に依頼受けよ」
「ひぃっ。さ、触らないで!」
少年の差し出した真っ赤に染まった手を払いのけ、少女は更に身を震えさせた。
「どうして?ボクだよ。あ、もしかしてまだごみが残っているか心配してるの?なら大丈夫ー。だってほら…」
少年はひょい、と足下に転がっていた丸い物を少女に掲げた。
「ぜーいん、こうなってるから♪」
フードをつける必要のなくなった少年は、漆黒の髪を血で赤く染め、紅い瞳をきらきらと輝かせ、少女が今までに見た事の無いほど綺麗に、無邪気に笑った。
その手に、先程まで少女を犯していた男の首を持って。
「っひ」
黒髪は魔族の証。紅の瞳は、魔族の中でも力の強い者の証。
そして、少年の頬から体に伸びた、体中に張り巡らせられているであろう波のような紋様は——魔王の証。
少女はその身に起こった出来事と少年の本当の姿に恐怖した。
人は恐怖に支配されるとまともに考える事が出来なくなり、それでも体は生きようと試みる。少女も同じ人間。
少女は愚かにも考える事を放棄し、生きる事に縋った。
「…お前の」
「ん?」
「お前のせいだぁぁぁぁ化け物ぉぉぉ!!」
少女は床に落ちていた短剣で少年に切り掛かる。
かきぃん。虚しく弾かれるも少女は短剣で叩き付け続ける。
「お前のっ、お前のせいだ!お前が私の前に現れなければっ、こんなことにはならなかった!知らなければよかった!お前がそんな存在だなんて!最初から!なんで私の前に現れたんだ!お前なんぞ、この世界の異物の存在の癖にっ!お前、お前なんかっ——ごぷっ!?」
血で赤に染まった漆黒の剣が少女の胸に吸い込まれる様に突き刺さった。
「…また、壊れちゃったの?レーノ…貴方まで、貴方までワタシを殺そうとするの?お母様みたいに狂っちゃって、でも、お母様みたいには愛してくれないの?ねぇ、レーノ。一緒に背負ってくれるって、言ったのに。ワタシの事、好きだって、言ってくれたのに…なのに…」
少年——いや、少年の時よりも少し髪が伸びた少女は、俯いていた顔を少女、レーノに向ける。
「——うそつき」
レーノの胸から剣が抜かれ、その剣先はレーノの頭に振り落とされた。
ぱちぱちぱち…
ぽっかりと穴の空いた様な音一つしない静かな空間に、拍手の音が聞こえる。
「流石です魔王様。そのお年で目覚められたのは貴方様が初めて…いえ、貴方様の中では一番ですね」
ワタシが…ボクが自分の街を焼き払った時にいた魔族の人がボクを見ていた。
心底嬉しそうな顔にはあの時の悲しそうな表情は露程も感じないほどに、悪そうな笑みだった。
「…良く言う。君が人間を唆して、ボクを強制的に目覚めさせたんでしょ」
何も映らない虚ろな瞳で言う。
そう。そもそも何故魔族が人間に忌み嫌われているのかといえば、その純粋な残虐さだ。
ただ己の為にどんなことでもする。気に入ったことであれば、小さな子でも助けを乞う人間も残酷な仕打ちをしてから殺す。逆に気に入らない事があればその憂さ晴らしに暴れる事もあれば、気に入らない根源を隅々まで調べ上げ効果的な方法で潰す。
それが魔族だ。
例外が、彼らの最も敬愛する魔王。
魔王の為なら彼が言っていた様にどんなことでもするし、魔王の望んだ事を遂行する。
でも力の無い魔王はどうだ。
まだ全くのない幼子な魔王は、魔族に寵愛されたとしてもそんな彼らを従わせ、抑える力を持たない。
だから魔族達は勝手に楽しんで魔王の為になるであろうことを行動に移すのだ。
故に、最悪な形で力が目覚めてしまった。
「魔王様。既に祝宴の準備は出来ております」
「…分かったよ」
既に否定する理由も無く、ボクは魔族の人の手をとった。
お母様。ボクは魔族としてやり直す事にするよ。
でもね。あの時のレーノの思いは確かに本物だったんだ。
少しくらい…人間に期待しててもいいのかな。
読んで下さってありがとうございましたっ!
暗いです。暗いのは苦手なのですごく大変でした・・・(汗
登場人物に謎が多い気がしますが…まぁ、察して下さい。
私の国語力があれなのです。