白の首都
「すげぇ」
馬車から身を乗り出して思わずつぶやいてしまった。
爺さんからの手紙で首都に呼び出された俺たちは、今まさに首都に入ろうとしていた。
「はぁ、欧米の昔の街って城壁で囲まれていたらしいけど、まさか本物見るとは思わなかったよ」
俺の後ろから雀が頭を出して驚嘆の声を上げる。
一も反対の窓から顔を出して驚きの声を上げていた。
「すごいね!何メートルくらいあるんだろう?」
興奮した顔で一が俺に話しかけてきていたが、正直よく分からなかった。
だって、なにこれ!?
普通だったら必要の無いほどの城壁にはこれまたどでかい門がついていた。
ところどころに開いている窓からは監視員でもいるらしく、望遠鏡にでも反射した光がちらちら見えた。
「ちょっとまってろよ?門が開くのにそれなりに手続きが必要だからな」
手馴れた仕草で馬車を降りたナイトはなにやら鏡を取り出し、一つの窓に光を反射させていた。
「モールスかな?」
「似たようなもんだろ」
雀と話しながらナイトのやり取りを見ていると、重い音をしながら門が開き始めた。
開き始めたのはいいんだけど……
「遅いよ!」
思わずツッコミを入れたくなるほど門が開くのは遅かった。
結局門が完全に開くには五分程度かかった。
しかし、その先には思いもしなかった素晴らしい景色が広がっていた。
皆さん、パリの凱旋門知ってますよね?知らなきゃ今すぐ調べて!
あんな感じの門の先に広がる緩やかな坂の道に並ぶレンガの建物、その中心の方に見える大きな城。
やべぇ、ここはどこのゲームの中だ!?
「「「すげぇ」」」
「首都は初めてか?」
俺たち三人が感嘆の声を漏らすと、ナイトは自分のものを自慢するかのような得意顔でこっちを向いた。
「ここはあれだぞ?王様がいるんだぞ?それに、えーと……そう!人がいっぱいいるしな!」
ナイトが馬鹿でもできそうな説明をしている間にも、馬車はレンガの道を進んでいく。
活気のいい街みたいで、声を張り上げる魚屋の声や子供の笑い声、二階建ての家の間にかけられた縄には洗濯物が旗のようにかかっていたりした。
道は坂のようだったが入り組んだ感じではなく、むしろ平安京のように碁の目のようになっているようだった。
そして、坂の一番上に位置する堅固そうであって、優美さを感じる城。
街を囲っていた城壁よりは小さいが、それでも俺三人分はある門が、ゆっくり開くと突然ファンファーレが鳴り響いた。
「うわっ!」
「なんだ!?」
「きゃぁ!」
どうやら歓迎のファンファーレのようで、城の中の中庭には綺麗に並んだ兵士達が敬礼の状態でこちらを向いていた。
突然のことに驚く俺たち三人をよそに、ナイトは当然のように馬車を降りると兵士達に敬礼を送り返す。
「俺たちも降りるべき?」
「あぁ、さっさと降りて来い。ここから歩きだ」
急に凛々しくなったナイトは俺と雀を下ろした後、一だけ手をとりながら馬車から下ろした。
その姿は様になっていたけど正直ムカッとした。
「なんで、今だけそんな紳士面してるんだよ?」
「何のことだ?」
ナイトはそう言いながら俺達の前を先導する、周りからはファンファーレを鳴らしていた兵士達が興奮した面持ちでナイトを見ていた。
こんなマヌケな奴にどうしてあんな視線を送ってるんだ?そんなことを思いながら兵の前を通り過ぎる。
中庭から建物の中に入るための扉の前に立つとナイトは急にきびすを返し兵隊のほうを向いた。
「兵士諸君!今日は私達のためにこのような歓迎心から感謝する!このナイトは君達の期待に添えるよういっそうの努力をしよう!だが、兵士諸君!君達も私の地位を奪うほどの努力をせよ!さればわれらが王国はきっと安寧のときを得たるだろう!」
普段ならば思いもよらない力強い声で兵士を激励すると、ナイトは俺たちを連れて扉の中に入った。
扉の中に入ると、もうそこに兵士はいなく、目の前にある廊下を黙々と歩くことになった。
しばらくすると、質素な感じの扉の前で急にナイトが立ち止まった。
「うぅ、疲れた……これだから首都は嫌いなんだ」
突然いつもの口調に戻ったナイトが肩を落とす。
「どうしたの?ナイトさん」
さっきからの行動で、どうも偉い人に見えてきたナイトにさん付けで声をかけるが、反応がない。
やっと振り返ったと思うと、ナイトはさっきの凛々しい方ではなく、もとのナイトに戻っていた。
というか少し顔色悪い感じがする。
それでも、やっぱりさっきの印象が強かったので緊張が解けない。
「ナイトさんは何で急に変わってしまったんですか?」
「さん付けしないでくれるか?まだ仕事続けているみたいで気が滅入る」
「仕事?」
「あぁ、兵達の前ではしっかりしないといけないんだとさ。今さっき言った言葉だって実は徹夜で考えたんだぞ?」
そりゃぁ顔色も悪くなるはずだ。
「さっきの馬車で私を下ろしたのには他意はないわよね!?」
「そりゃぁないさ。あぁしないといけないんだって、礼儀として」
「でも前はしなかったじゃない」
「そりゃ仕事じゃないからな」
なぜか顔を赤くした一がナイトを問い詰めているが、他意が無かったのならばとりあえず放っておこう。
それより、さっさと先行かなくていいのかな?
多分あの扉の先なんだろうけど。
そう思いながら見ていると、突然扉が横にスライドした。
「スライド式かよ!」
どうでもいいところに突っ込む俺に、親指を立てながら現れたのはこの国の王だった。
「よう神也!久しぶりい!」
「やっと会えたなファッキンジジイーーーーー!!!」
俺は心の叫びと共に王……爺さんにとび蹴りを繰り出していた。
うん、繰り出したよな?
でも、爺さんとの間にガラスがあったなんて……聞いてないよ―