男前な女
ナイトに出会ってもう三日が過ぎた。
今俺達はナイトと共に馬車に揺られている。
「っていうか、日本はどこだろうね?」
少し遠いどこかを見ながら一がふと言葉を漏らした。
「日本がどこっていうか、地球はどこっていうかね」
「「うふふふふふ……」」
雀は受け答えすると、一と同じようには若干遠いところを見ながら笑いあっていた。
そう、俺達はよく分からないうちに見知らぬ世界に来ていた。
わけも分からないままここにいたが、今日きた手紙は俺達の状況を一変させた。
「あのクソジジイめ……」
怒りに震える拳をどこに向けていいのかも分からないまま、俺は昨日のことを思い出した。
「むぅぅ……元気を出さないかお前ら」
オロオロしたナイトが、俺達の前を右往左往して励まそうとがんばっていた。
世界地図に載っていない国で、俺達は心底気分がブルーだった。
「ナイト、お米とかない?」
腐った魚の目をした一がナイトの右腕にしがみつく。
旗から見ればただのゾンビだし、ナイトも顔を少し青くしていた。
「ナイトさん、焼き魚をぉ」
今度は雀が左腕にしがみつき、ぶら下がる。
両腕をとられてしまった俺はどこにしがみつくか……。
「神也!どうにかしてくれぇ!」
爺さんのトラウマのおかげで、比較的ショックの少なかった俺はそんなナイト達を傍観していた。
まぁ、普通の人間ならもっと動揺するだろうし、一と雀も結構すごいほうだと思う。
俺が初めて遭難したときはもっと動揺してたなぁ
「神也ぁ!」
背中でナイトの叫びを聞きながら俺は思考を張り巡らせる。
昨日ナイトから聞いた情報を整理し、これからの状況を考える。
とりあえず、分かったのはここが地球などというところではないということだ。
ナイトによると、ボードというこの世界は、地球と違って球形ではなく円形。
要するに、中世ヨーロッパの天動説の世界みたいなところらしい。
実際、コロンブスのような人がいたらしいが、百年たっても帰ってきていないそうだ。
次に、この世界が二分に分かれているということ。
WhiteとBlackという二つの国に分かれているらしい、そしてここはWhiteの国。
最近この二つの国が戦争しているらしくて、俺達は兵力としてナイトに迎えられたらしい。
しかも、何を勘違いしたか超WIP扱いでだ。
というか、俺達どうなるんだろう?
そんなことを考えていたら急にないとの絶叫が止まった。
「どうした?ナイト」
二人の人間をぶら下げたままナイトは俺に端正な顔を向ける。
その顔は、今は武人の顔だった。
「神也、一と雀を離してそこにいろ」
そういい、俺に引き剥がした二人を預けると木製の頑丈そうなドアに体を向けた。
「誰だ?」
そういいながら、いつの間にかナイトは槍をその手に持っていた。
どこから出したんだろう?
不思議に思う俺をよそに、ナイトは槍をドアに突き刺した。
「ふん!なんともいえぬ無能ぶりだなナイト」
風穴の開いたドアの向こうから人を馬鹿にしたような声がした。
その言葉にナイトは苦虫をかんだような顔を見せ、槍をどこともなくしまう。
「お前か、ヨセフ」
きしんだ音のするドアの向こうから現れたのは黒い神父の服を着た女性だった。
何でこの人女なのに神父の服なんだろう?という疑問が浮かんだが、とりあえず違う世界ということでその辺は納得しといた。
っていうか、この人いったい誰だろう?
そんなことを思いながら、一と雀を両腕にぶら下げた俺はただ唖然とナイト達を見ていた。
「王の勅令でな、そうでなければお前のところなどこないさ」
「あぁ、俺もお前になど来て欲しくはない。ところで王の勅令とは何だ?」
顔をしかめているナイトに、同じく顔をしかめながらヨセフは、勝手に置いてあったイスに座った。
「お前が勝手に戦力を増強しただろう?全く愚かにしか思えないが」
「口を慎めよヨセフ、確かに勝手に増強したがしっかりと書類を送ったはずだ」
「そうだ。シンヤ、スズメ、ハジメとか言う三人だ」
「それがどうした」
「書類は直筆サインだな?」
「あぁ」
ナイトは何を言いたいのか分からないという顔でヨセフを見ていた。
どうやら問題は俺たちらしい。
「おまえ、書類の確認とかはしているか?」
「いや、してないぞ」
なぜか悪気のないナイトをヨセフは鋭くにらみつける。
「このわけの分からない字を見ろ!」
そういってヨセフが広げたのは俺たちが昨日(半ば放心状態で)書いた書類だった。
「何語だ?これ」
「私が聞きたい」
しまった!この世界に漢字というものは無かったらしい。
「書類は王に直通だ、こんなわけの分からないものでもな!」
そういいヨセフは書類を床にたたきつけた。ナイトもナイトで申し訳なさそうな顔を彼女に向ける。
「すまん、それをわざわざ言いに来てくれたのか?」
「いや、それがな」
ヨセフは長い綺麗な髪など気にせず頭をぼりぼり掻きながらため息をつく。
「王にはなぜか読めたんだよ」
「ほう」
「しかも同じような文字で、この者達に直々に手紙を書かれてな」
そういい胸元から手紙を出し、ナイトに手渡す。
「そいつらに渡しておけ、ついでに王からの召還命令もでている。お前とその者達にな」
「そうか、城はどうすればいい?」
「私が来たのはそのせいだ」
「すまんな、頼む」
「礼などいい、王の命令だしな。ところでその者達はどこだ?」
「あぁ、あれ」
あれとかいいながらナイトが俺を指差す。
「ふん、あれか。おい小僧達、王の前では無礼はするなよ」
彼女はそう言うと、来たときと同じドアから颯爽と出て行ってしまった。
ナイトは、大体の事情は分かっただろう?というと、苦笑いしながら俺から二人を引き剥がし、手紙を渡してくれた。
封筒を開いて広げた手紙には、予想だにしなかった……いや、ある意味では予想通りの差出人の名前が書いてあった。
―鬼頭 慎―
「爺さん……?」
更新遅れました。
こんなものでも見てもらえたら幸いですm(__)m