爺さんとガラスの関係
俺達の殺意が届いたのかしらないが、急に爺さんが泣き出した時はビックリした。
正直許せる問題でもない気がしたけれど、泣いた爺さんをみて、両親の事も謝る爺さんをみて、爺さんの我慢していた部分が見えた気がした。
だから許した。
でもな、爺さん?
泣かないでくれよ?
あんたに涙は似合わないよ。
だから……
お願いだから……
「いい加減泣きやめやぁ!」
勢いに任せ回し蹴りを放つ。ん?外道?ここでそうはこないだろ?ハハ!君達はしらないだろうが俺の家には家訓がある。
すなわち肉体言語!
正直こっちのほうが分かりやすい、拳は口より物を言うのだよ諸君!
「ふはは!許さなかった分の恨みを食らえ!」
俺は残り85個分のトラウマの恨みを足先に集中した。
今ならアケ○ノ位には勝てる気がする。
しかし、そんな俺の蹴りは爺さんの顔の前数cmという所で透明な何かにぶつかった。
……ちょっと待て
「甘いのう神也、グスッ」
まだ頬に伝う涙を拭うと、爺さんはガラス越しにいつも通りの意地悪な笑顔を見せた。
とりあえず泣きやんだのはいいけど、他はよろしくない。
「お爺ちゃん」
隣で静かにしてた一が府に落ちないという顔で爺さんに話しかける。
どうやら俺と同じ疑問について聞きたいんだろう。
「なんじゃ?一ちゃん」
しかし、とうの本人は俺達の疑問に気付く様子もない。 よし、言ってやれ一!俺は陰から見守ってあげるから!
ちなみに、雀はこの不思議状況のなか美味しそうにお茶を飲んでいた。
この状況にまったく興味がないらしい。
なぜだ?不思議に思うだろ普通?だって……
「どこから出したのそのガラス?」
そう、爺さんの目の前にはさっき現れたガラス。
大体厚さ15cmはあるだろう、この和室に似合わないそれは手品かなんかで出せるものじゃない。 かといってこの部屋にトラップはなかった。
100のトラウマをつくられた俺が言うんだから間違いない。
一も俺がトラップにかかるのを小さい頃から見ていたからそれは分かったようだ。
まぁ雀はそんなこと気にせずお茶を飲んでるけど。
「あれ?お前らまだこれ出来ないの?無からの創造」
「いやいや爺さん、んなことできたら神だって」
「一ちゃんも雀君も?」
「お爺ちゃん、普通そんなこと出来ないから」「僕もできないよ。当たり前だけど」
「あちゃぁ、ナイトが助けるのが早すぎたかのう」
「いやいやマテマテ、助けてもらわなかったら今頃死んでる」
一からの質問の答えは、『これくらい普通だろ?ほら無からの創造』という物理法則無視の珍答だった。
いやいや落ち着け俺!珍答だった。じゃないだろ?!
しかも爺さんはさも当たり前そうにいうし。
やばい、こっちに来てから混乱することばかりだ。
「あのな爺さん、俺達は生身の人間ですよ?ふぁんた爺(正しくはファンタジイ)なあんたと一緒にしないでくれないか?」
「ん?あぁ、そういや現実世界じゃ有り得ない話だったのう。ところで神也、この国の名は覚えておるか?」
「Chessだろ?」
「そうじゃ、限りなく現実に近い電脳空間じゃ。馬鹿なお前でも流石に覚えたかの?まぁとにかく開発当初は物理法則も限りなく現実に近くしたんだがのう」
馬鹿と言われて怒った俺を無視しながらそこまで言うと、爺さんはそこで静かに茶をすすった。 そして静かに右掌を俺達の方に向けてきた。
「しかし、限りなく現実に近いこの国は、まったく違う歴史を歩むことにより、まったく違う世界になった。その代表がこの力『創造』じゃ」
そう言った爺さんの掌には、いまや無数の光の粒が踊っていた。
一が思わず手をのばすが、爺さんはもう一方の手でそれを遮る。
「危ないぞ一ちゃん、これはガラスじゃ。この『創造』は物理法則を無視して無からの創造を可能にしておる。しかし『創造』と言えど万能じゃないからのう。一人の人物にはその者特定のキーワードの物しか『創造』できん。儂の場合はそれが『ガラス』じゃ、こんなときにしか使えんから対神也用能力というところかの」
掌のガラスを近くのゴミ箱に捨てながら爺さんが笑う。
つーか普通要素無しですか、この国は?ホントに現実が恋しくなってきたよ。
「ちなみに『創造』はかなりの命の危険か、強い思いに反応することが分かっとる。この先『創造』無しはきついからな。明日から特訓じゃぞ!」
はりきる爺さんをよそに放心する俺達。
やばい、世界観違いすぎだろ?
そんな事思っていた時に、雀の言った言葉は印象的だった。
「強い思いか……なんか今なら『創造』できそうだな……」
激しく共感した俺は大きく頷いた。
明日から、特訓が始まる。
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