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一:『その名はリーフェイ』

 ミッドガルド。

 元々のそれは北欧神話において人間族が住む国、大地の名前である。ただし、この世界においては本来の意味よりも、『世界中でもっとも人気であるMMORPG』と言った方が頷く者は多いだろう。

 世界最大、北欧神話を元にしたオンラインアクションRPG。世界初の全視界型ディスプレイ―――通称「ゴーグル型PC」に初めて対応し、最先端の3D技術で描かれた美麗なフィールド、ユーザーのツボを押さえたキャラクター、豊富な職業・スキル、仕事熱心な運営、圧倒的に高い自由度。ミッドガルドは様々な謳い文句を駆使し、知名度・登録ユーザー数共に右肩上がりに増やしていった。

 その膨大なユーザーの中でも、それなりに古参な部類に入る女剣士―――リーフェイは、目の前の惨状にひどく頭を悩ませた。


「……やっちまった」


 彼女の前には、地面に倒れている数人の男。彼らが死んだようにうつ伏せているのは彼女のせいであり、ある意味では彼ら自身の責任とも言える。

 PK、プレイヤー・キル。プレイヤーが他のプレイヤーを倒す行為であり、ミッドガルドでは限定的に可能であるそれを先に仕掛けてきたのは彼らの方だ。しかし実際にPKしたのが彼女の方である以上、罪は彼女にある。

 事実、彼女のディスプレイに数行のメッセージが映り、次の瞬間には彼女がいたフィールドから強制的に転移させられていた。


『PK行為を行ったため、このダンジョンへの立ち入りを一定期間禁止します』


 赤く表示されたシステムメッセージが消えると、彼女の視界には先程までいたダンジョンフィールドではなく、最寄りの街の風景が飛び込んできた。

 ガヤガヤと騒がしい街の中、リーフェイが吐いた溜め息はその喧騒に消えてゆく。


「ったく、ペナルティ貰っちまったよ……。あのナンパ男共め、覚えてやがれ」


 ダンジョンでソロ狩りをしていた時に現れた、あの数人のプレイヤー達に向けて毒を吐く。

 彼らは一人で狩っていたリーフェイの姿を見ると、しつこいぐらいにパーティーへの勧誘をしてきた。それが純粋に狩り目的ならまだいいのだが、不純な動機であることがありありと見てとれた彼らの誘いに乗る程、彼女も世間知らずではない。それでもしつこく食い下がってきた彼らに嫌気がさし、ちょっとした“告白”をして―――


「それで逆ギレしたあいつらが、勝手に襲いかかってきたんだもんなぁ」


 それを撃退しても罰を受けるのだから、PKというシステムがいかに面倒なシステムかがよく分かる。

 リーフェイはもう一度溜め息を吐くと、今度は別のダンジョンに向けて歩き出した。






「……ま、自分がナンパしてた奴が男だと分かれば、怒るのも無理ないか」


 名前:リーフェイ

 種族:ハイヒューマン

 性別:女

 職業:神官騎士

 Lv:589


 そこそこに名の知れた彼女は、ネカマである。











 ミッドガルドでは、一つのアカウントにつき二人までキャラを作ることが出来る。キャラの性別はキャラクター設定の時点で決定されるため、男女両方のキャラでゲームを楽しむ、ということも可能だった。但し殆どのプレイヤーはそれをせず、自身と同性のキャラでプレイする場合が多い。

 リーフェイのプレイヤーも最初に作ったキャラは男、同性であり、このリーフェイというキャラも息抜きに遊びで作ったもので、元々ろくに育てる気はなかった。それが何時からだろうか、何となく、流されるままリーフェイを育てて―――気がつけば神官騎士の中では十指に入る高レベル者として、噂になる程度には名が広まってしまったのだ。

 ――いくら神官騎士の人口が少ないとはいえ、狭い世界だ。

 自分についての噂を聞く度、リーフェイはそう思った。

 ミッドガルドの職業は、大きく分けて「戦士系」、「魔法使い系」、「盗賊系」、「弓使い系」、「特殊系」の五つに分類出来る。一系統毎に五~七の職業があり、プレイヤーはその内の一つの職業を選んで試練に挑戦、職業につく。

 神官騎士は戦士系の職業の一つで、その名の通り神々―――オーディンやフレイア達、北欧神話の神―――に仕える神官かつ、神を奉る教会や神殿を守護する役目を担った騎士でもある、らしい。そんな設定のせいか、神官騎士になったキャラが使えるスキルの殆どは、神々の力を借り受けるものになっている。

 神官騎士の人口が少ない原因は、そのスキルの使い勝手の悪さにあった。


「オーディンスフィア!」


 リーフェイがスキルを唱えると、それに応えて巨大な魔力の球が空中に出現し、眼前の魔物の群れへ向けて勢いよく落下する。着弾すると小規模な爆発が起き、その爆発の中心部にいた魔物達は跡形もなく消えていた、が、


「「キシャアアアアッ!!」」


 中心部より外にいた魔物達は倒れる気配もなく、奇声を上げてリーフェイに襲い掛かる。彼女は冷静に剣を構えると、寄ってきた魔物を片っ端からその剣で斬り、次々にモンスターを屠ってゆく。


「トールハンマー!」


 続いて彼女が放ったスキルは、モンスター達の頭上に巨大な鎚を出現させ、それを降り下ろすものだった。残りの魔物の殆どはその鎚の下敷きとなったが、逃れた数匹はリーフェイの前に躍り出、牙を剥いて飛び掛かる。


「フレアダンス!」


 牙が彼女に届く前に、スキルによって生み出された炎の奔流が魔物達を飲み込んでゆく。その炎には耐えられなかったのか、魔物はいくつかのアイテムを残して消え去っていった。

 もう周りに魔物がいないことを確認して、リーフェイは今しがた狩った魔物達が落としたアイテムを拾い、それらをアイテムボックス(キャラ毎に設定された収納空間)にしまうと、一息。


「……うーん、やっぱMP消費が激しいなぁ」


 戦闘前と比べてゴッソリ減ったMPゲージを見ながら、一人ごちた。

 そう、この激しすぎるMP消費こそ、プレイヤーが神官騎士を敬遠する理由だった。神の力の一部、ということで強力なスキルは多いが、そのせいでMPを大量に消費するスキルばかりが神官騎士のスキルツリーに並んでいるのだ。

 よって、神官騎士がまともに戦うには一戦する度に休憩を挟むか、ポーション等のMP回復手段を大量に用意する必要がある。さらに後者ならばまだいいが、前者の場合パーティーに誘われる確率が極端に低い。頻繁に休憩を挟む必要がある者など、パーティー行動には邪魔でしかないからだ。その場合強くなるまでソロ活動が強いられるため、神官騎士は『ぼっちか金持ちの職業』と揶揄されることが多かった。

 リーフェイの場合、男キャラの方で作った財産が少なからずあるため、回復手段は常にある程度保持してある。魔法回復用のポーション、マジックポーションを一つ使用すると、減っていたMPが目に見えて回復した。


「ふぅ……。つっても、あんまりこれは使えないけどさ」


 マジックポーションの値段は高い。今リーフェイが来ているダンジョンの稼ぎ(敵が落とすアイテムを売って得る収入)を考えれば、二回戦った後にポーション一つ、が安定した黒字を得られるギリギリのラインだろう。

 ――まあ、ヤバくなったら無理せず帰ればいいだけだし。

 リーフェイが別の魔物を探そうと、一歩踏み出した時。

 ふと、


「お?」


 地面が、


 ―――グラッ―――


 揺れた。





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