最推しは妹! 全力で推し活していたら周回遅れになっていた私、今度は自分の幸せを掴んでみせます
数ある中からお話を選んでいただきありがとうございます!
ロザリーはバルメーヌ伯爵家の長女である。
エマという二歳離れた妹がいる。
栗色のストレートの髪に長身のロザリーとは正反対の見た目のエマ。
小さな彼女の軽やかに曲がる髪は風と戯れている。ロザリーの周りでは『可愛らしい』と評判だった。
そんなエマを一番可愛いと思っているのは姉のロザリーだと自負している。うん、大きく胸を張れるくらい自負している。
ロザリーが物心ついた頃から、エマは磨けば光る原石だと確信していた。
ロザリーは家庭教師に習い、両親が満足する成績だった。もし、エマが今から勉強を始めたら⋯⋯ロザリーはそんなことを想像して胸を踊らせた。
『自分よりもすごいからエマを優先してほしい』と胸を熱くするロザリー。
お互い見つめ合った両親は「ロザリーがそんなに言うんなら、呼んでみましょう」と困惑しながら答えた。エマは家庭教師が何かを知らずに「お姉様と一緒!」と喜んでいた。
その数日後、家庭教師がエマの元へとやってきた。持ってきた書物はすぐにエマの頭の中へと入っていった。
その知識がエマの口から淀みなく出てくる。
両親や執事、侍女たちは大層驚いた。
ロザリーだけは顔が緩んでいた。
大事なお茶会を控えたある日──。
屋敷へ呼んだ服飾師へ資料を両腕に抱えたまま勇み足でロザリーは近づいた。その様子を見た服飾師は満面の笑み。
「エマのドレスには⋯⋯」と話が始まると服飾師は理解が追いつかないのか固まった。その周りでロザリーのエマ愛を知っている侍女は温かい視線を向けた。
最初はエマもどうして良いか分からず、服飾師も同じような顔をしていた。
「ドレスの裾には流行のレースを。レイヤーを多くして可愛らしさが出るように──」と真剣なロザリー。
服飾師が帰る頃には外が暗くなっていた。
楽しみにしていたお茶会当日──。
会場へと着くと、エマの姿を見て驚く令嬢たちに心の中で踊っていたロザリー。
エマのドレスを褒める令嬢。うん、そうよね。
エマの姿全体を褒める令嬢。よく分かっているわ。
エマの美しさと聡明さを褒める令嬢。絶対友だちになりたい。そしてエマの素晴らしさを語りたい!
その令嬢全員をしっかりと覚えたロザリーだった。
ロザリーはお茶会からの帰り、馬車の中で笑いを堪えきれなかった。
「あぁ、素敵なエマをこんなに拝めるなんて、推し甲斐がありますわ!」
「お姉様の期待に応えるためにわたくしは頑張りますの!」
自称エマ応援隊・隊長のロザリーはエマの活躍に心が満たされていた。お茶会での可憐で素晴らしい姿、可愛らしい声に鮮やかな返答──。
ロザリーは思い出しながら目尻を大きく下げて笑みを零した。
エマはロザリーの様子を見て、背筋を伸ばして笑いかけた。
ロザリーはエマの応援をするのに忙しい。
貴族名簿を読み込み、何度も頁をめくる。こんなに可愛くて性格も良い令嬢なんて引く手あまたのはずだもの。
そんな月日はあっという間に流れた。
「ロザリー、貴方のデビュタントね」
「お母様、そうでしたわ!」
ロザリーは自分のデビュタントを忘れていたのだ。そうしてはいられない。エマを宣伝するチャンスだもの。
(エマ、応援隊として大役を果たすのよ!)
自身のデビュタントでも、エマの応援活動を熱心に行ったのだった。エマの何がすごいのか。どれほど尊い存在なのか。
ロザリーの暗躍もあり、二年後──。
エマのデビュタントは大いに盛り上がった。まるで自分が褒められているかのように嬉しかった。毎日エマのデビュタントが来ればいいのにと!何回も思ったくらいだった。
そして伯爵家のなかでも一番力があると言われるロシュベル家と婚約することになった。そして一年後には結婚。盛大な結婚式で、ロザリーは終始、涙を堪えるのに苦労したほどだった。
エマは無事に名家と結ばれたのである。
姉のロザリーはというと⋯⋯売れ残った。
しかも、ロザリーは婚約もしていない。
ロザリーはすでに二十歳。
社交界での貴族令息との歓談は悪くなかったはず。
それなのに縁談が一つもないのは気がかりだった。
まるで誰かの存在が私の近くにずっとあるように感じられた。
エマを応援している時だけは、楽しかった。
今日、そのエマが結婚した。自分の役目は終わったのだと肩の荷が下りた気がした。
エマの結婚式から自室へ戻ってくると、ソファへと身体を預ける。
胸に苦しみを感じた。
でも新鮮味はなかった。なぜかそこにずっとあることに、ようやく気がついたようなとても自然な感覚だった。
「あぁ、私はこの痛みを紛らわすためにエマを応援し続けていたのね」
ロザリーは座ったまま、遠くにあるドレッサーを見上げた。そこには随分と小さく映る自分がいた。
次の日は自分の体とは思えない重さだった。まるでもう一枚ゴムの洋服を着ているようで現実味がない。
自分の人生は悪くなかったと思っていた。成績だって悪くない。両親の美貌からして自分はすごく劣っているわけでもないと思っていた。
だが、縁談は来ない。
お茶会でも社交界でもそれなりに交流したはずなのに誰からも手紙は来ない。
そういえば十年前に優しくしてくれた少年がいたっけ?
十年も前の思い出を引っ張り出してきて、その悦に浸ろうなんて浅はかな自分が悲しくなった。
「お嬢様、朝食の時間に遅れてしまいますわ」
(あぁ、お嬢様なんてもう呼ばないで⋯⋯もう二十歳なのに!)
ロザリーは心の中で叫んだ。
食堂に着くと、目の前の光景を疑った。
「エ、エ、エマ!? なんでここにいるの!?」
昨日結婚したばかりのエマがいた。
今頃、幸せの絶頂で『あら、あなた、おはよう。昨晩は⋯⋯ふふっ、内緒です』なんてキラキラが朝から飛びそうな一幕に間違いないと思っていたのに⋯⋯。
「なんだか、いつものお姉様に見えなくて⋯⋯夜明け前に屋敷を出てきましたわ。もちろん、ちゃんとお伝えしてから出ましたのよ!」
昨晩はエマ応援隊のフィナーレとしてすべてを出し切り燃え尽き症候群となっていた。普段なら思わないこともなぜだか考えていた。
そしてすでにエマがいなくて寂しかったのだ。
それなのに最愛の人との大事な夜をほったらかしてロザリーを優先してくれたことが何よりも嬉しくて、心が熱い。
(エマ、素敵すぎるわ!)
堪えていた感情が目から溢れ出した。
「これはっ、エマのせいじゃないっ」
鼻声でうまく話せないロザリーはハンカチで顔を隠した。何もかも敵わない。ハンカチを持つ手が震えてしまう。
「エマのことが大好き。
今も自慢の妹なの。
ただ、自分の平凡さを呪いたいわ。
特技もなく、何の魅力もない私が情けなくなってくるの⋯⋯だから周回遅れかもしれないけど、これは決して嫉妬なんかじゃないわ」
「お姉様、心の声が口から出ていますわ」
「えっ!? う、うそ!?」
ロザリーは驚いてハンカチから顔を覗かせる。
すると今まで見たこともない、心臓が貫かれそうな鋭い瞳でエマは、ロザリーを見てきた。
ロザリーの全身の神経が逆立つ。
「お姉様、本当に自分の魅力に気がついておりませんの?」
「えっ、頭脳、普通、容姿、普通、髪の毛、ただのストレート⋯⋯」
「お姉様は綺麗ですよ。大人っぽいです。そして、素晴らしく美麗な髪で魅力的な瞳に撃ち抜かれそうです」
(ううーん? 本当にそうかしら?)
夜に自室へ戻ったロザリーは手鏡で自分の顔を見つめた。
「よし、自分の人生だもの。自分の幸せを見つけるぞ!」
重たい貴族名簿を広げて長い夜が始まったのだった。
* * *
次の日、学園へ行くとなんだか皆騒がしい。
「今日から学園へ顔を出されるそうよ」
「間違いなく注目の的だよな」
貴族令嬢や令息たちのざわめきからそんな言葉が聞こえてくる。
お昼前までにはそんな声を聞き、誰が今日、学園に戻ってくることを知った。
白銀短髪で容姿端麗の青年が歩いてくる。カフェテリアへ向かっていたロザリーは、少し避けるように廊下の端へ移動した。
「セルジュ、頑張れよ」「ついに来たか」と友人と思われる令息たちに激励されている。
その彼がなぜかロザリーの目の前で立ち止まった。
「モンテヴェリエ公爵家のセルジュ様ではありませんか」
女性にしては長身のロザリーが首を傾けて見上げた。
モンテヴェリエといえば宰相の家柄として有名だった。セルジュは父である宰相の三番目の息子である。
「戦地へ赴く前は貴女のデビュタント前でしたので、正式に会うことが出来ませんでした」
まだ意図を掴めていないロザリーに瞬きが増える。
“ぎゅるる〜”
ロザリーのお腹が先に返事をした。ロザリーは顔がカッと赤くなり、咄嗟に両手で隠した。泣きたい気持ちと胸の苦しみで喉がきゅっと締まる。
「きゅ〜⋯⋯」
お腹に引き続き、ロザリーの喉が代わりに返事をする。
「かっ、かわっ⋯⋯ぃぃ」
セルジュの動揺した声が聞こえてくる。
(かっ、皮?)
ロザリーは空耳が何の言葉か分からなかった。
「ロザリー嬢、もう一度お聞かせください」
やけに格好良い声がロザリーの耳の奥に響く。
でもセルジュの言っていることに、そうじゃないとロザリーは言い返したくなった。
それに対抗するように、顔の熱さも気にせず、全力で睨み返すロザリー。
「セルジュ様、まったく、何を言っているのですか!?」
言い終わった瞬間。
“ぎゅるる〜”
(私のお腹、口を慎め。ってお腹に口はないか)
ロザリーは羞恥心に耐えきれずまた顔を両手で隠す。
「きゅ〜⋯⋯」
「ロザリー嬢、あの、ごちそうさまでした⋯⋯」
今度は遠慮がちにセルジュが言ってきた。
「私はまだ、食べていませんの!」
ロザリーにとっては必死の返しだった。
(昼食前だからってお腹がうるさいのよ。恥ずかしい〜!)
なぜか昼食を共にすることになったロザリーとセルジュ。カフェテリアへ移動して、昼ごはんを待つ傍らセルジュがロザリーとの出会いを話し始めた。
「十年前、セルシオン伯爵家で行われたお茶会だった。走っていた私にぶつかりそうになった貴女は怒るどころか、シルクのハンカチでわざわざ靴の泥を拭いてくれた。そのせいでドレスの裾に土汚れが付いたのを悪く言う者がいて⋯⋯」
「だからあの時、その方を諌めてくれたのですか」
「当たり前だ。私の靴を拭かなければつかなかった汚れだ。それがなくても私は庇っただろうけど」
長年の痛みが和らぐようだった。
「泥汚れ⋯⋯」
奥にある昔の記憶を引っ張り出すロザリー。心ない言葉を言われたと長いこと引きずっていたが、彼女はしきりにセルジュのことを気にしていたのを思い出した。
(彼女は嫉妬だったのかしら?)
「もしかして、あの時、平凡だと言われたのは、揶揄だったのかしら?」
ロザリーは思い出しながら手を頬に当てた。
「ロザリー嬢、覚えている限りのことを詳しく聞かせてほしい」
セルジュはロザリーに近づいた。
ロザリーはセルジュが心配してくれているのを感じて、心が温かくなった。
遠巻きにたくさんの貴族令嬢と令息が見ている。よく見ると、お茶会や舞踏会で会った人も多い。
そして彼女らと彼らの目線の先にはセルジュがいる。
そしてなぜか応援しているのだ。
(あれ? もしかして私に縁談が来ないのってセルジュ様に遠慮して、近づいてこなかったのかしら。でもそしたらセルジュ様は──)
昼食を食べるセルジュのフォークとナイフを持つその手が震えていることに気がついた。
暑くもないのに額をハンカチでしきりに拭いている。
しかも、ロザリーがセルジュを見ると、ぎこちなく言葉を選んでおり、唇が震えているように見える。
(あ、この方、私に対して緊張しているのね)
それが分かった瞬間、ロザリーの手がセルジュに伸びる。
ロザリーはセルジュの手を優しくすくい上げる。少し冷たく震えた手だった。
セルジュは目を丸くして固まっている。
「きゅ〜⋯⋯」と、今度、喉を鳴らしたのはセルジュである。
「セルジュ様、今、庭園では薔薇が見頃ですわ。この後、ご一緒に拝見しませんか?」
「も、もちろんです!」
ロザリーは自分でもセルジュの手を取ったことに驚いていたが、不思議と温かな気持ちだった。
ロザリーはセルジュが握り返してくると、その手を離したくないとぼんやり感じていた。
「今度はセルジュ様のことを聞かせてください」
セルジュへ笑顔を向けたロザリーは、一歩前へと踏み出した。
カフェテリアの後方では歓喜の声が上がっていた。
* * *
セルジュはこの四年ほどの戦いについて話を聞かせてくれた。セルジュは自分の父である宰相とは離れた第二軍隊の方にいた。
総指揮の補助を任されたのは長男のテオドール。その隣で少しでも足掻いた。
それでも自分の話は、先ほどのロザリーの話より随分と少なかった。それが気になってロザリーはセルジュを見つめる。目が合うと乾いた笑いをしながらそっぽを向いた。
「こんな話、ご令嬢にはつまらない話ですよね」
「いえ、とても興味深かったですわ。もう少し詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
ロザリーは聞いたことのない話でもっと聞きたくなった。セルジュはいきなり顔を横に向けた。手で顔を隠しているようだが、隙間から見える頬は赤い。
「ロザリー嬢は思った通り、素敵な方ですね」
セルジュの声は小さかったが、はっきりと聞こえた。何度も頭の中で反すうする。
甘い蜜のように感じる言葉に、また会いたいと強く感じた。
それから会う頻度は多くはなかったが、手紙のやり取りや贈り物をして数ヶ月経った。ロザリーは手紙を出した側から手紙の返信を期待してしまった。そんな欲張りな自分自身に驚いていた。
* * *
そろそろ縁談が来る。
ロザリーは確信していた。
両家の顔合わせがあって和やかに事が進むと信じていた。
それなのに今、ロザリーはモンテヴェリエ公爵の目の前に縮こまって座っていた。
そういえば、公爵は三男であるセルジュを気に入っていると聞いたことがある。
まさかライバルの令嬢や公爵夫人に試されることはあっても、公爵自らと婚約前に二人で話すことになるとは思わなかった。
これは絶対試験だ。
試されているオブ試されている。
公爵は余裕のある目でにこやかにロザリーを見つめている。しかし、和やかな雰囲気ではない。公爵から漏れ出すオーラはロザリーが期待するそれではなかった。
「ロザリー嬢、セルジュと仲良くしてくれているそうだね」
ロザリーは身体を硬直させた。拳を強く握りしめて耐える。
「はい、セルジュ様はとても純粋な方で私のことを考えてくださいます」
ロザリーは、セルジュとの間に入らせないオーラで牽制する。
「そうか。セルジュも気に入っているのだね」
「少なくとも四年ほどは、そうだとお聞きしていますわ」
物陰から必死に威嚇する小動物のような気分だった。公爵にすべてを牛耳られそう。とても怖いです。
まだまだ余裕の様子の公爵。
「それでロザリー嬢はセルジュに相応しいと思うかい?」
意外なほど直接的な言葉だった。
ロザリーは出会った数ヶ月のセルジュとの交流に、四年も思い続けてくれたセルジュの愛(ロザリーの想像)を加えた。
その気持ちはロザリーの背中を大きく押してくれた。
「分かりません。公爵様が何を期待されているのか分からない以上、その質問に答えは用意できませんわ」
公爵の表情が崩れた。
目を丸くした顔は自然だった。
その時、ノックもせずにドアが大きな音を立てて開いた。
「お父様、ロザリーに詰問するとはあんまりじゃないですか?」
ロザリーは驚いて振り返ると、今までで見たことないほど、目をつり上げたセルジュの姿を捉えた。
(ものすごく怒っていらっしゃるわ)
先ほどまでの、のまれそうな雰囲気はすっかり萎み、公爵は肩をすくめた。
「いや、父様だってセルジュの将来のお嫁さんがどんな人か知りたかったんだもん」
(んんん? キャラが違い過ぎませんか
!? じゃなくて“セルジュの将来のお嫁さん”!?)
さっきから息は吐くものなのか吸うものなのか分からなくなってきて、酸欠になりそうなロザリー。
「お父様、ですからそんな威圧的な質問は歓談からかけ離れています。ロザリーが震え上がっています」
「ぃ⋯⋯ぃぇ⋯⋯」
ロザリーはなぜか酸欠になりそうで、『いえ、そんなことはございません』も言えなくなっていた。苦しいので震えているのは間違いない。
「ロザリー嬢、すまなかった」
「次にこんな事をしたら、私はお父様のことを嫌いになりますよ」
公爵は慌ててセルジュに謝り始めた。想像とは違いすぎて、人間味を感じる。
それとともにセルジュのことを大切にしているのが、肌で感じられて親近感を覚える。
するとロザリーは笑みを零した。
「公爵様の言う相応しいがどのようなものかは分かりませんが、セルジュ様への愛なら負けません」
ロザリーの言葉に頬を火照らせて困った様子のセルジュ。
口を手で隠してロザリーを見つめた。
「貴女って人は⋯⋯私の方が貴女を愛しています。そしてそれは私の台詞です」
ロザリーは胸がぎゅっと締め付けられた。顔に熱が帯びる。
ロザリーは頬を両手で隠した。
(セルジュ様の言葉は攻撃力が高すぎるわ)
セルジュの細長い指はロザリーの手を取った。
「私の将来の妻になってくれませんか?」
「はい、将来は貴方の隣にいたいです」
ロザリーの心の中ではいろんな感情が渦巻いていた。どこからこれを紐解いたら良いのでしょう。
セルジュの大きな胸のなかにロザリーは収まった。使用人たちが興奮気味にお祝いの言葉をかけながら拍手している。
ロザリーは皆からの祝福に嬉しい気持ちが大きくなる。
後から来た公爵夫人は「一番いいところを見逃してしまったわ」と悔しそうに公爵に告げた。
そっと抱き寄せられたロザリーは優しげな笑みを浮かべるセルジュと目が合った。
こうしてロザリーは婚約の前にプロポーズを受けたのだった。
* * *
「──ってことがあってね」
屋敷に遊びに来たエマが出された紅茶に一口もつけないままだった。侍女が冷え切った紅茶を新しいものに交換した。
エマが一言一句逃すまいと聞き入る姿に新鮮さを感じながら、モンテヴェリエ家のお屋敷でのことを話した。
「⋯⋯お姉様、婚約の顔合わせに言うことですか!? そんな幸せなニュース、時間を問わず早馬で知らせてくだされば良かったのに」
エマの新たな表情が見れて、さらに胸が躍るロザリー。
ぎゅっとエマの手を握った。
ロザリーは上機嫌だった。
今度こそ、両家の顔合わせがあって和やかに事が進むと信じていた。
形式的な挨拶も終え、婚約書を交わした。
そこでロザリーが口を開いたのをセルジュは手で遮る。ロザリーがゆっくりとセルジュの事を見た。
(もしかして私の思っていることと同じだったら⋯⋯)
「皆さま、お忙しい中お時間を取っていただき誠にありがとうございます。この後のお時間で、結婚の日取りや内容の話を進めたいのですが」
ロザリーは胸が高鳴った。顔が熱くなり、自分と同じ事を考えていたセルジュから目が離せなかった。
それに気がついたのかセルジュは熱のこもった瞳でロザリーを見つめた。
その瞳にいつまでも映っていたいとロザリーは強く願った。
セルジュの大きくて温かな手が華奢なロザリーの手を包む。
(遠回りしたかもしれないけど⋯⋯)
その手の中に幸せが包み込まれていることを感じていた。
「あの、これからもどうぞよろしくお願いいたしますわ」
『最推しは妹! 全力で推し活していたら周回遅れになっていた私、今度は自分の幸せを掴んでみせます』(完)
お読みいただきありがとうございました。
可愛いパパを出したくて、ロザリーと二人のシーンを入れました。
セルジュのパパには親近感を感じながら、セルジュの愛も感じられるシーンになったらいいなと思います(^^)
誤字脱字がありましたら、ご連絡いただけると嬉しいです!




