第5話 活動資金
何を行うにしても、活動資金は必要だ。
まずは、それなりの金銭を手に入れなければならない。
はじめが向かったのは、アパートから数駅離れた、幹線道路沿いにあるうらぶれたスナックだった。
客層は、地元の土建屋の親父や、定年後の暇を持て余した老人たち。
時代から取り残された男たちが、惰性のように夜を潰す場所だ。
はじめは週に三日、そこへ通った。
名前は名乗らない。
隅の席で、薄い水割りを一杯だけ頼み、黙ってスポーツ新聞を読んでいるだけの男。
誰の記憶にも残らない、背景の一部になる。
ターゲットは、その店のママ、節子――五十二歳。
かつてはそれなりに繁盛したのだろうが、今は更年期の不調か、重い体を引きずるようにしてカウンターに立っている。
酒焼けした声。
生気の抜けた肌。
客に笑いかけながらも、目の奥には常に疲労が沈んでいた。
チャンスは、彼女が常連の相手で忙しく、
カウンターの隅に置いた自分の「上がりのお茶」から目を離した、その一瞬に訪れた。
はじめは、あらかじめ「調整」して小瓶に詰めておいたソースを、音もなくその湯呑みに落とした。
二週間。
一滴の狂いもなく、それを繰り返した。
変化は、劇的だった。
「ねえ、ママ。最近どうしちゃったのよ。どんどん綺麗になるじゃない」
常連の親父たちが、露骨に色めき立ち始める。
節子の肌は日に日に艶を取り戻し、垂れ下がっていた頬のラインが、内側から引き上げられるように締まっていった。
五十二歳の女性から、十年、十五年と、
不自然な速度で「時間」だけが剥がれ落ちていく。
三週間目の夜。
はじめはその店に、一通の封筒を残して店を出た。
宛名も、差出人もない。
中には、ワープロで打たれた簡潔な文章と、一本のアンプル。
『その若さは、偶然ではない。
維持したければ、以下の口座に十万円を振り込め。
確認後、次の供給を行う』
翌日。
指定した銀行のATMを確認すると、十万円が確かに振り込まれていた。
節子にとって、この奇跡を失う恐怖に比べれば、十万など安いものだった。
彼女は店を訪れる男たちを、若返った美貌で巧みに転がし、
その金を、さらに“供給元”へと流していく。
はじめは、一度も彼女と直接言葉を交わさなかった。
ただ遠くから、「供給」と「回収」だけを管理する。
――仕組みは、完成した。
※本作の執筆にあたり、文章作成補助としてAIを使用しています。




