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ファンタジー小噺

四天王最弱

作者: 白猫商工会
掲載日:2025/12/22

月曜日の朝というものは、それだけで人の気持ちに、少なからず曇りをもたらす。


足元を濡らしながら出社した私は、仕事に取りかかる前の、ささやかな気分転換の儀式へと向かった。


給湯室のポットから、心地よい沸騰音が広がる。


私はアッサムティーの茶葉を用意し、カップを軽くゆすいでから、丁寧に拭いた。


そのときだ。


小さく、押し殺したような声が、背後から飛び込んできた。


「聞いた? あの部長、やられちゃったんだって」


「あの……なんか、やたら長ったらしい部署の?」


「そうそう。

なんとかイノベーション殲滅事業部」


一拍置いて、くすりと笑う気配。


「名前だけは立派なのにさー。

やってることは、村長の孫娘に呪いかけるとか。

セコくない?」


「なにそれ。

そんなんだから、しょせん四天王最弱なんじゃん」


私は、ティーポットに湯を注ぐ。

ふわりと、香りが立ちのぼった。


ティーバッグも悪くはない。


けれど――

茶葉がしっかりと開き、風味と立体的な味わいが引き出される。


やっぱり、私はこちらの方が好きだ。


「だいたいさー。

偉そうなんだよね。若い子にKPIがどうとか」


「ああ、言ってた言ってた。

どっかから仕入れてきた言葉使ってさ。中身、スカスカなくせに」


「言い過ぎー。でもさ、あの必殺技。

なんだっけ……インフィニティスクアッド・斬?」


「だっさ」


クスクスと、ポットの湯気の向こうで笑いが溶けていった。


――そうなのかな。


私は、彼のことをよく知らない。


けれど。


流れるような熟練のポイズンタッチで、冥王竜の配下を退けた――


そんな話を、納会の席で年配の社員がしていたのを、ふと思い出す。


最弱って、なんだろう。

誰の評価なのだろう。


茶葉がゆっくりと開いていくのとは裏腹に、私の思考だけが、底へ沈んでいった。


「そんなわけで、次の部長、あいつらしいよ。

私、人事に聞いてきたから。セクハラ大将」


「うわー。最悪。

あれ、自分のこと潤滑油だって本気で思ってるし。

なんで、こんなんしか残らないんだろ。

……うち、やばくない?」


ティーポットから、カップに琥珀色の液体を注ぐ。

残りは保温の水筒に移し、後で楽しむ用だ。

引き出しには、先週いただいた出張土産のクッキーがあったはず。


私の思考は、四天王最弱から離れ、ほのかな甘味へと移っていた。


そこに。


「――さんは、次の四天王最弱って誰だと思う?」


声が落ちてきた。


最弱って、なんだろう。

誰の評価なのだろう。


私はゆっくり振り向いた。


「え……。誰だろ。

火属性とか、一見最強っぽいけど、実はー……とか?」


「あ、上手いこといって。

私もあいつに一票かな。

知ってる? 奥さん実はさー……」


私は足元に残る冷たさを感じながら、月曜日の朝の給湯室に、答えのない微笑みを残した。

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