第8話 「アカン覚悟ミュン!?」
その日も、普通に放課後が訪れた。
でも――僕の胸の中は、まったく普通じゃなかった。
(西園寺くん……最近、顔を見るだけでドキドキする)
(助けられた時の感触……あの髪がほどけた瞬間……)
(なんでだろう、女の子みたいって笑われるのが嫌だったのに、
西園寺くんに「可愛いな」って言われる想像をするだけで、嬉しくなる……)
僕は、悩んだ末に――
「……決めた」
夜、自室。
パソコンのモニターには、まぶしい検索結果の山。
その横で、ミュンがアイスをかじっていたが――僕の言葉に、動きが止まった。
「ミュン……もうダメだよ。僕、もう自分にウソつけない」
「……え?」
ミュンの耳が、ぴくりと動いた。
僕は、決意を込めて叫んだ。
「僕……西園寺くんのことが好き!!」
「ふぁ!? そ、それはまぁ予想の範囲ミュンけど……」
「だから僕……女の子として、見てほしい!!」
「んんん???」
その時、画面には“性転換手術を受けるには”の検索結果がズラリと並んでいた。
「僕……性転換手術を受けて、女の子になる!!」
「イカーーーーーーン!!!」
ミュンが、全力で机を叩く。
「ちょ、ちょっと待てミュン!! 急すぎるミュン!!魔法少女モノでよくある“うっかり魔法で女体化”とか、そういうお約束はどこ行ったミュン!? いきなりリアル行動!?」
「だって!僕……このままだと、気持ちをごまかし続けることになる……!」
「いやまぁ……想いを認めるのは尊いミュンけど!!物理的に性別変えようとすなーーー!!」
ミュンは慌てふためきながら、身振り手振りで叫ぶ。
「ちょっと落ち着くミュン!呼吸して! 鼻から吸って~口から吐いて~!
あと、親に相談した? カウンセリング受けた? 保険は? 術後のケアは!? 病院の評判調べた!?」
「うううぅ……だってぇぇぇ……西園寺くんの“彼女”になりたいんだもん!!」
「乙女モード全開ミュン~~~!!!」
そこに、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
「え? こんな時間に誰――」
インターホンの画面には、西園寺くんが映っていた。
「さ、さささささいおんじくん!?!?」
心臓が跳ね上がる。鏡を見ると、顔は真っ赤。慌てて髪を整える。
「ちょ、ちょっと来客って言ってたっけ!? 服これでいいかな!? 化粧は――ってするわけないよぉ!!」
ドアの前で、深呼吸を三回。ミュンが小声で囁く。
「……落ち着けミュン……今のカナタ、頭の中お花畑ミュン……」
意を決してドアを開けると――
「よう、大空。……ちょっと、話がある」
不意に差し出される、紙袋。
「……これ。お前、昨日ノド痛そうだったから……」
「え……」
中には、はちみつとレモン、喉飴。
カナタの胸が、ジンと熱くなる。
「さいおんじ……くん……」
その夜、カナタは何度も紙袋を抱きしめて、転がりまわった。
「無理だ……もう、好きすぎて苦しいよぉぉぉ~~~~!!」
「いよいよ末期ミュン……」