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第7話 「ワンパンと、リーゼント」

「こ、これが……今週の怪人!? デカすぎる……!」


 ビルの陰から現れたのは、鋼鉄の巨体――蒸気機関車型怪人《トレーニングラ―》。


 火を吹く煙突、重低音で唸るボイラー、そして左右にガッコンガッコン動く巨大な連結パンチ!


「お前を燃やしてやるブロォォォオオオ!!!」


「どうして怪人って、毎回インフレするのかなぁぁぁぁ!! 魔法少女が相手なのにぃぃ!!」


 変身した僕――魔法少女カナタは、ビームを放ちながら必死に空を飛び回る。

 しかし、ビームを浴びても怪人は止まらない! むしろ加速してる!


「うわあああああああああ!? く、くるなぁぁぁぁああ!!」


 死を覚悟した、その瞬間。


「――遅せぇんだよ」


 低く、凛と響く声。空気が一変する。


 怪人の突進が、寸前で止まった。いや――止められた。


「西園寺くんっ!!」


 夕日を背に、黒い学ランの男が静かに立っていた。

 その右腕が、巨大なボイラー突進を真正面から受け止めている。


「ちったぁ、ブレーキってもんを覚えろ、鉄くず」


 冷めた声で、そう呟く。


 そして、肩の力を抜くように、ゆるりと腰を捻ると――


「蒸気より熱くねぇ拳に、意味あんのか?」


 次の瞬間、西園寺の拳が唸る。


 ドォン!!!!!


 その一撃は、怪人の腹部を粉砕し、内蔵された動力炉ごと叩き割った。


 蒸気と爆炎を撒き散らしながら、トレーニングラ―は轟音とともに爆散する。


「またしてもワンパンだミュン!!」


 ――だが、今回のクライマックスは、そこじゃなかった。


 爆風に煽られて、風に舞ったのは――西園寺のトレードマーク、リーゼント。


 ペタリと下りた前髪。露わになる端正な額。

 そして、艶のある黒髪がふわりと揺れ、目元があらわになった。


 スッ……と伸びた睫毛。涼しげで鋭い双眸。まるで、モデルのような彫刻美。


「……えっ……?」


 思わず、見惚れた。


「かっ……カッコ……いい……さいおんじ……くん……」


 胸が、跳ねた。いや、爆発した。

 視線を逸らそうとしても、離れない。

 頬が熱い。鼓動がうるさい。息が、うまくできない。


 夕焼けのなか、静かに立ち尽くす彼の姿は、まるで絵画のようだった。


 すぐ横で、ミュンが小さく呟いた。


「……やべぇミュン……今のカナタ、大いなる一歩を踏み出しちまったミュン……」


「う、うるさい! これはその……尊敬だよ!ヒーローへの敬意だし!あと造形美への感動!」


「でも顔真っ赤ミュンね。あと手、ぎゅって胸に当ててるミュンね?」


「ぎゃあああああああああああ!!!」


 帰り道。


 制服に着替え直し、夕暮れの歩道を一人とぼとぼ歩く。


 周囲のざわめきも、車の音も、耳に入らない。


「……西園寺くんって、ほんと、何者なんだろ……」


 ふと、誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。


 そして――呟いたその名前に、自分でドキリとする。


(僕、今……どんな顔してたんだろ……)


 思わず頬に手を当てて、俯く。

 指先に、熱があった。

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