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第6話 「揺れる、僕の心」

 放課後の教室。

 夕日が差し込む中、美香はゆっくりと僕の前に立った。


「……ねぇ、彼方」


「な、なに……?」


 その目が真っ直ぐすぎて、思わず視線を逸らしてしまう。

 昨日の“ガチ恋告白”が、まだ頭から離れない。


「私が好きなのって、魔法少女じゃないから」


「え……?」


「私が惚れてるのは――大空彼方、お前自身だから」


 心臓が、一瞬で跳ね上がった。

 耳の奥でドクンドクンと脈打つ音が響く。


「……僕、なんか、してたっけ……?」


「してたよ。ずっと前から。

 バカみたいに真っ直ぐで、不器用で、お人好しで。

 でも、誰より優しいあんたを、私はずっと見てたんだから」


 ふい、と美香は横を向き、乱れた前髪をそっと整えた。


「返事は急がないでいい。でも……逃げないでよね」


 カバンを肩にかけ、いつもより少しだけ照れた横顔のまま、美香は教室を後にした。


 残された僕は、カラカラに乾いた喉で小さく呟いた。


「……僕自身……?」


(僕を……? こんな、頼りなくて、魔法少女で、男子で……)


 でも――


「……嬉しかった、かも」


 その言葉が、自然と口からこぼれた。


 帰宅して、制服のままベッドに倒れ込む。


 まぶたを閉じると、美香の真剣な瞳が浮かんで……そして、切り替わる。


「……西園寺くん……」


 思わず呟いたその名前に、ガバッと跳ね起きた。


「な、なに考えてるんだ僕!? 僕は男で、西園寺くんも男で、なのに……!」


 顔が熱い。

 胸の奥が、チリチリと焼けるみたいにざわついている。


(あの時――あんなにカッコよく、命を張って守ってくれて……

 あんなの、反則だよ……)


「はわわわ……」


 そんな僕の枕元に、唐突にミュンがポンッと現れた。


「いかんミュン! このままだと、カナタが新しい扉を開いてしまうミュン!」


「今すぐ閉めて! 鍵かけて! 鍵ごと溶接して!!」


「もう蝶番ちょうつがいがギィィィって鳴ってるミュン……」


「やめて!? 僕は男!ノンケです!脳内までノンケ!!」


「でもさっき、“西園寺くん……”って、やたら艶っぽく言ってたミュンよ?」


「そ、それは筋肉とヒーロー性へのリスペクト!友情!憧れ!友情ッ!!」


「顔面の赤さとドキドキ音が、全てを否定してるミュンね」


「ぎゃあああああ!! もう寝る!! 寝て忘れる!!」


 ……けど。


 布団をかぶっても、脳裏に浮かぶのは西園寺の背中。

 あの瞬間の安堵感。鼓動の高鳴り。

 そして、美香のまっすぐな瞳。


(恋? 憧れ? それとも――)


 ……自分でも知らなかった“なにか”が、静かに動き出しているのを、僕は確かに感じていた。

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