第5話「彼方って、ほんとに……可愛い……」
放課後の帰り道。夕陽が差し込む歩道を並んで歩いていると、
幼なじみの美咲がふと立ち止まり、僕の顔をじっと見つめてきた。
「彼方って……ほんとに、可愛いよね」
「えっ」
(……ヤバい、この目……完全にガチ恋のやつだ……!)
「な、なに? 変な顔してた!? 口にのり弁ついてた!?」
「ううん。好きってだけ」
「ストレートすぎない!?」
「気づいてなかったの? 私、ずっと彼方のこと好きだったんだけど」
さらっと爆弾を投下しないで!?
僕、そんな話初耳だよ!?!?!
そんな混乱MAXの状態のまま、突如スマホが緊急アラートを発した。
「怪人反応、街中で確認――現在、戦闘中の模様」
「や、やば……! って、ゴリラ!? ドリルついてる!?」
画面に映し出されたのは、腕に回転式ドリルを装着した巨大なゴリラ型怪人。
名前は――《コンクリートクラッシュ怪人》。
パンチ一発で歩道が陥没。道がバキバキに砕けていく。
(今までのショボ怪人とはレベルが違う……ッ!)
「い、行くしかない……っ!」
僕は人気のない路地に駆け込み、意を決して叫ぶ。
「――変身ッ!」
光が弾け、僕の姿は魔法少女へと変わる。
「ラブリィ・パステル・スマッシャーーッ!!」
ピンクのビームが一直線に怪人を撃ち抜く!
が――効いてない!?
「えっ、嘘っ!? 直撃だったのに!?」
怪人の目がギラリと光り、ゴオッと音を立てながら突進してくる!
振り上げられた拳は、電柱よりも太い。
直撃すれば、確実に……死ぬ。
「うわっ……あ――」
と、その瞬間――。
「危ねぇな」
鈍い音と同時に、時間が凍りついたように感じた。
目の前に現れたのは――
制服のままの、西園寺くんだった。
その背中は堂々としていて、まるで何も恐れていない。
そして片手で、ドリルゴリラのパンチを――受け止めていた。
「さ、西園寺くん……!?」
怪人の拳は、完全に止まっていた。
西園寺は一歩も動かない。眉ひとつ動かさず、涼しい顔のまま。
「……甘ぇよ。くだらねぇ」
そのつぶやきと同時に――
彼の拳が、怪人の腹にめり込む。
ドゴォォォォン!!!
轟音とともに、怪人は空を吹っ飛び、ビルの壁にめり込んだ。
コンクリートが砕け、粉塵が舞う。
「う、うそでしょ……!? なに今の……!?」
呆然と、僕は西園寺の横顔を見つめる。
(彼、もしかして別の漫画の主人公では……?)
そのとき、彼が小さく呟いた。
「……泣くな。バカ」
「……泣いてないし! ちょっと驚いただけだし!」
(えっ、なにこのヒーロー展開。
僕、今……またドキドキしてる……!?)
数分後、ミュンが肩にちょこんと乗りながら耳打ちしてきた。
「カナタ……あいつ、人間の限界超えてるミュン……下手したら“能力バトル系主人公”枠ミュン……」
「うん……なんかジャンル違いな感じするね!?」
「しかもライバルかと思ったら、これ……守られ属性ミュン?」
「やめて、変な気持ち芽生えそうだから黙っててミュン!!」