最終話「そのままの君で、ずっと」
カナタは零にしがみつき、小さく震えていた。
喉が渇いて、声がかすれている。必死に問いかける。
カナタ「ねぇ……私で……本当に、いいのかな……?」
零はカナタの背中をそっと撫でながら、ゆっくりと首を振った。
零「そんなこと、最初から決まってるだろ。
お前はお前のままで、何も変わらなくていいんだ」
カナタの瞳に、たちまち涙があふれた。
零の言葉が彼女の心の奥深くまで沁み渡っていく。
零「誰でもない――お前だから好きなんだ。
だから、怖がるな。俺はずっと、そばにいる」
カナタはそっと零の胸に顔をうずめ、やっと安心したように小さく息をついた。
その瞬間、ふたりの間に言葉では伝えきれない、静かであたたかな信頼と温もりが流れた。
カナタは震える手で零の袖をぎゅっと握りしめ、ゆっくり顔を上げた。
その瞳は揺るぎなく、まっすぐに零を見つめている。
カナタ「私と……結婚を前提に……付き合ってください」
零は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
その表情は、まるで世界のすべてが優しく包み込むように変わった。
零「……カナタ」
ゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬を包み込む。
零「俺でよければ、喜んで」
カナタの胸に零がそっと顔を近づける。
二人の距離はさらに縮まり、未来への約束が静かに、確かに結ばれた。
零はそのまま優しく、甘いキスをカナタに落とす。
カナタの心は、とろけるような温かさに満たされた。
静かな夜に、ふたりだけの幸せな時がゆっくりと流れていった。
エピローグ「変わりゆく光、そして春の日差し」
あの日から、カナタは少しずつ変わっていった。
以前の彼女なら、どこか自分を抑え込み、無理をしていたようなところがあった。
だが今は、ふとした瞬間に見せる笑顔に、しっかりとした落ち着きが宿っている。
言葉のひとつひとつに、仕草のひとつひとつに、以前よりも深みと温かみが加わった。
まるで、自分自身のすべてを受け入れ、過去も現在も未来も丸ごと包み込んでいるかのようだ。
それはまるで、強くてやさしい母性のようなもの――。
彼女の周囲にいる人たちは、自然とそれを感じ取っていた。
一緒にいるだけで、不思議と心が安らぐ。
その存在そのものが、癒しとなって周囲に広がっていく。
いつしか、その空気は当たり前のものとなり、カナタのそばにいることが日常の安心になっていた。
ある日、ミュンがぽつりと問いかける。
ミュン「今、幸せミュン?」
カナタは一瞬、驚いたように目を見開いた。
けれどすぐに、ふわりと穏やかな微笑みがその唇に咲いた。
その笑顔はまるで、春の柔らかな陽だまりのようにあたたかくて優しい。
カナタ「うん……すっごく、幸せだよ」
その言葉には、迷いも不安も嘘もなかった。
ただ真っ直ぐに、心から溢れた幸福の証だった。
その答えを聞いたミュンの瞳にも、喜びの光が宿る。
「カナタの幸せが、みんなの幸せミュン!」
そう強く感じながら、彼らは静かにその日常を大切に見守り続けていくのだった。
小さな変化が積み重なり、カナタは今、確かな光を放っている。
それは過去の傷も、悩みも乗り越えた者だけが持つ、強さと優しさの輝き。
未来へ続く道のりを、彼女は自信に満ちた足取りで歩んでいる。
いつまでも、その笑顔を失わずに――。




