第37話「それでも、わたしはわたし」
放課後。陽が傾き始めた校舎の裏手に、カナタはひとり呼び出された。
そこにいたのは、同じクラスの女子たち数名。
その中心に立つ一人の少女は、睨むような視線をカナタに向けていた。
空気は、ひどく冷たかった。
女子A(髪をかき上げながら)
「ねぇ……ウワサ、ホントなんでしょ?」
「“アレ”、切ったんだって?」
その場の空気が凍りつく。
言葉の棘を、彼女はわざと尖らせているのだった。
カナタは一瞬だけ目を伏せ、それから真っすぐに顔を上げた。
カナタ「……はい。事実です」
女子A「うっわ……マジで信じらんない。
自分の体にそんなことして、何考えてんの?」
「てかさー、アンタみたいのに近寄ってる連中も、正直どうかしてるんじゃない?」
その言葉は、ただの嫌悪ではなかった。
無知と偏見、そして「自分とは違う存在」への拒絶が、むき出しになっていた。
だが次の瞬間——
カナタの瞳に、はっきりとした光が宿る。
カナタ「……それ、撤回してください」
女子A「は? なに言って——」
パァン!
乾いた音が、夕暮れの空気を裂いた。
カナタの手が、彼女の頬を打っていた。
静寂。
時間が、ほんの一瞬止まったように感じられる。
カナタ(震える声で、しかしまっすぐに)
「私に何を言っても構いません……。
でも――わたしの大切な人たちを、悪く言わないでっ!!」
その目には、怒りと悲しみと、何よりも強い意志が宿っていた。
女子Aは何も言い返せなかった。
いや、言い返せなかったのではない。
言葉が、出てこなかったのだ。
まわりにいた他の女子たちも気圧され、動けずにいたその時——
遠くの茂みから、かすかに聞こえる声。
ミュン(ひそ声)
「……止めると思ったミュン? カナタを信じてるミュンよ」
それを合図にしたかのように、茂みの陰から美香、アンジェ、西園寺が静かに姿を現す。
だが誰一人、口を開くことはなかった。
ただ、そっと微笑んで、それぞれ踵を返す。
——「これは、カナタが自分の言葉で立ち向かうべきことだから」
カナタはひとり、校舎裏に立ち尽くしていた。
頬を撫でる夕風。
その冷たさに、心が凛と引き締まる。
そして彼女は、小さな声で、しかし確かな意志を込めて呟いた。
「わたしは――わたしでいることに、誇りを持ってます」




